2024年04月20日( 土 )

内田は無罪か?日大アメフト事件に見る「日本の法律は世界の非常識」(5)

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青沼隆郎の法律講座 第19回

 ではなぜ、チームメートはこの罠にはまったのか。これから先は当事者に確認したわけでもないが、多数の冤罪事件における取調官の常套手段から筆者が作成した自白経緯の“フィクション”を示す。


 取調官 あなたは内田監督と井上コーチが悪質タックルの直後に「宮川がやりましたね」「おお」という会話が交わされたと第三者委員会の調査に対して証言されていますが、それを証明する証拠はありますか。

 チームメート いえありません。

 取調官 それでは信用することができません。井上コーチや内田監督から虚偽の証言をしたと訴えられたら敗訴しますよ。

 チームメート ・・・・・。

 取調官 あなたが第三者委員会の調査に対して証言をしたのは事件から随分日にちが経っており、しかもその間マスコミでも盛んに井上・内田の指示があったと報道しており、それを聞き続けたあなたは、自分もそのような会話を聞いたような気になったのではないですか。

 とくに、あなたたちチームメートは宮川君を何とか支援したいとの気持ちが強かったでしょうから、何となくそのような気になっても不自然ではなく、世間にはよくあることです。しかも、あなたと一緒にいたほかのチームメートは誰1人としてそのような会話を聞いたと証言する人はいないので、一層、あなたの証言の信用性は否定されますよ。

 チームメート そう言われれば自信がなくなりました。


 かくして、チームメートの証言は撤回され、挙句、その虚偽証言の動機・理由まで供述調書として作成された。

 チームメートは何か釈然としない気持ちのまま、何か悪事でも働いたかの気持ちで日常生活を送っているだろう。筆者の“フィクション”を読んで、もし、心あたりがあれば、少なくとも罪の意識に苛まされる生活からは脱却できるだろう。

 チームメートが作為的に虚偽証言をしたとの自白自体が極めて不自然であり、虚偽の動機そのものが後述するように成立しない。

(4)取調官の重大ミス
 取調官は重大なミスを犯した。チームメートの当初の証言は宮川選手にとくに有利となる内容ではないこと、そもそもチームメートがそのありもしない有利性を認識することなどできなかったことに気付いていないことである。

 それは、取調官がチームメートに「なぜ、有利になると考えたのか」と動機の根本の理由を尋ねなかったことに端的に表されている。何も有利となることはないのであるからチームメートがそのような動機をもつわけもなく、答えることもできない。

 宮川選手が絶対的な君臨者=内田監督の指示により違法タックルをしたとしても、宮川選手の犯罪行為は成立する。ただ、量刑において罪状が斟酌され内田・井上より軽減された罪が宣告されるだけである。それは暴力団犯罪において親分の指示で子分が罪を犯した場合と同じである。しかもチームメートの虚偽自白は宮川選手の単独犯との結論を必然的に導くから、もし、チームメートに十分な法的素養があるなら、絶対に虚偽自白などすることはない。

 チームメートもそのほかの関係者も全員が取調官から見たら赤子同然だから、捜査結果は取調官の意図した結果に誘導収斂されたのである。今後、違法タックルの被害者は刑事告訴の不成功にも拘わらず、被害者として井上・内田が、宮川を被告として損害賠償請求訴訟を提起するであろう。その際、当然、チームメートは証人として証言することになる。ここですべての真実が明らかにされることとなる。

(了)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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