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2019年01月08日 11:17

検察の冒険「日産ゴーン事件」(21)

青沼隆郎の法律講座 第20回

時系列的犯罪事実

 ゴーンは2008年に個人的取引上で含み損が発生した金融派生商品債券を日産につけかえたという第一の特別背任罪(ただし、同債券は監督官庁から背任の疑いの指摘を受け、同一事業期間内に付け戻されたため、実害の発生に至らず、決算を経由することもなく有価証券報告書に記載されることもなかった)で逮捕起訴された。

 その後、2009年から2010年にかけて、日産はゴーンの上記債券を付け戻しの手続の際、ゴーンの保証人となったサウジアラビアの実業家の会社と業務委託契約を締結して合計16億円の業務委託料を支出したが、これが、上記ゴーンの個人保証への謝礼であって、実態のない契約であったとして第二の特別背任罪とされた。

 さらに、2010年から2018年までの期間、毎年、約10億の退任後に受け取る役員報酬が存在したにも拘わらず、有価証券報告書に記載しなかったとして金商法第197条の罪で逮捕起訴された。(以下第三の犯罪)

実際の逮捕起訴手続き

 2018年、まずゴーンは第三の犯罪につき、最初の8年間分で逮捕拘留され、その後残りの3年分で再逮捕拘留されたが、再逮捕後の拘留延長が棄却されたため、同年末、第一、第二の罪で再々逮捕拘留された。

公訴手続の違法

■違法収集証拠
 本件事件のいずれの犯罪についても、その証拠は司法取引によって収集された。法350条の2以下に規定される司法取引の当事者は検察官と被疑者と弁護人であり、これらの者の同意によって成立する。本件では2名の被疑者に2名のヤメ検弁護士の弁護人である。

1:推定無罪の無視と重大な論理矛盾―憲法第31条適正手続条項違反
 ゴーンの犯罪はすべて会社の業務遂行のかたちで実現されたもので、最終的に法的事実として確定するためにはすべて取締役会の承認・決議を必要とする。事実、すべて取締役会の承認決議を経たものである。

 従って、共犯(主犯)となり得る者は第一義に取締役であり、取締役会の承認・決議に参加しない者は従犯・幇助犯としかなり得ないが、協力者2名は取締役会の承認・決議までの手続(または承認・決議後)に関与したに過ぎず、そもそも犯罪行為・幇助行為がない。

 さらに、協力者2名はゴーンの犯罪の故意について事前の共謀などによって、犯意の共有がない。ゴーンは一貫して自己の行為が違法・犯罪である認識はなく、犯意は無論、犯罪の共謀もない。あるとすれば、ゴーンが上司であることから協力者2名には業務命令が存在しただけである。協力者2名のすべての行為には何ら犯罪行為というものはない。

 会社の上司の業務命令に従うことが使用人の義務であり、それに反逆することが会社への忠誠であるとすることはそれ自体が矛盾の論理だからである。これは「義務の衝突」「期待可能性」論として議論されてきたものである。

2:ヤメ検2名の弁護人の違法行為
 もともと協力者2名に被疑者適格がないにもかかわらず、協力者2名が被疑者であることを弁護士として認め、司法取引に合意したことは重大な弁護士法違反のみならず、協力者2名を被疑者と思い込ませ、会社の所有物である証拠資料の提出と証言を提供させた。

 本来、弁護士は依頼人の権利を保護する義務を負い、無罪を探求するものであり、被疑者であると誤認させ、司法取引に合意させ、結果、会社所有物の部外への流出という犯罪行為(窃盗罪)を唆せた罪は重大である。

3:重大な論理矛盾
 協力者2名は被疑者として司法取引に合意して証拠資料の提出と証言をした。これらの証拠資料を基に、ゴーンの被疑事実を立証することが、推定無罪に違背する重大な論理矛盾であることは、中学生にでも理解できる。極言すれば、協力者2名は自ら提供した証拠資料と証言によって、自らの被疑者性が立証されるという完全なトートロギー(循環論法)だからである。これは錯誤により自白した供述により有罪とされるのに等しい。

 ゴーンの無罪性は協力者2名の提出証拠や証言にかかわらず、明白であるから、裁判所によりゴーンの無罪または免訴が宣告された場合、ヤメ検2名の責任は極めて重大である。

4:疑惑の中核
 疑惑の中核は依然として深い闇のなかにある。それは外国人執行役員で司法取引協力者とされる人物に関する事情である。この人物は自国でも弁護士資格を有しており、日本でも大学で法学教育を受けたという。そうであれば会社法のイロハ、背任罪のイロハくらいは心得ている。

 第一の特別背任容疑であるゴーンと会社との金融派生商品の付け替え取引は利益相反であり、ゴーンには議決権がないから、契約締結責任は問われない。しかも当該契約は同一事業期間内に付け戻されたため実害は発生せず、特別背任罪は成立しない。そもそも当該人物は付け替え交渉手続を担当したにすぎず、それ自体は特別背任罪の実行行為でも幇助行為でもない。取締役会の決議に基づいて業務を遂行したに過ぎないからである。

 法律の初学者でもわかるこれらの関係についてなぜ、自らをゴーンの特別背任罪の共犯(論理的には幇助犯)と認めて司法取引の合意を結ぶに至ったのか。

 第二の特別背任容疑である会社とゴーンの知人の会社との業務委託契約に至っては、ゴーンに主犯性はあっても、当該人物には主犯性は無論、共犯性(幇助性)はまったくない。ゴーンが当該業務委託契約を締結するのに専権で指示命令をすれば契約は有効に成立するからである。当該人物の何らかの違法行為の存在・介在が必要であるという事情にはまったくない。従って自らを特別背任罪の共犯と認めること自体が不条理である。

 法律の専門家でもある当該人物はなぜ、共犯性がまったく認められないにもかかわらず、自らを共犯と認め、司法取引の当事者となったのか。

 協力者2名の実際の役割は検察への会社資料の提供と証言の提供である。検察のためにだけ存在意義があるといっても過言ではない。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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