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2019年02月22日 07:01

アダルは中国でどう戦ってきたか? 友利家具新工場設立までの歩み(後)

身内の張姉妹を経営トップに起用

社員食堂で休憩する中国人従業員

 2018年、「桐郷市友利家具有限公司(桐郷工場)」を設立。英語表記は「Tongxiang Youli Furniture Co.、Ltd」。友利家具は、上海から南西に約150km離れた浙江省桐郷市内の工業団地の一角に立地する。上海浦東国際空港からは、高速道路に乗って約2時間。九州でいえば、だいたい福岡市から大分市までの距離に相当する。

 董事長(オーナー)には、武野会長の妻である張英氏を起用。上海出身で、武野会長とは合弁会社以来の付き合いで、工場での実務経験が豊富。日本語も解する。社長には、張英氏の姉、張诘氏。前職は中国政府の上級役人で、上海地域の政府機関などのトップを歴任。複数の国営企業の社長経験もあることから、そのマネジメント能力が買われた。同社の全株式は張姉妹の所有で、張董事長が90%以上を所有する。従業員数は約130名。協栄家具以来のベテランを幹部社員に起用するほか、現地で新たに採用した一般社員などで構成される。現在は、仕事量に対して人が少ない。旧正月明け以降、現地社員を30〜40名程度増員する予定だ。

 友利家具の敷地内には、コの字型の工場・オフィス棟、社員寮棟が立地する。オフィス棟は4階建て、社員寮棟は6階建てで、延べ床面積は約3.3万m2。宇美町の総合工場の延べ床面積約6,200m2、松江工場の約8,400m2と比べると、4〜5倍の広さをもつ。NCルーターやスキャナーなどの機器は中国製だが、ほぼ日本と同等のものを備えている。

 当初、昨年7月ごろに竣工する予定だったが、レイアウト変更などにともなう改装工事が長引いたため、会長室やショールームなどのオフィス棟の一部のほか、社員寮の一部で工事が続いている。工場棟4階は賃貸フロアとして貸し出す。すでに借り手は決まっているが、商品在庫やショールーム備品などの保管場所となっており、まだ入居できていない(今年1月時点)。

 アダルにおける工場の位置付けは、大量生産する商品は桐郷工場、オーダーメイド商品は宇美工場という基本的な機能分担がある。ただ、イスの骨組み中国、張り地は日本で行うほか、ソファーや長イスはすべて日本で製作するなど、商品や工程などによって生産場所が異なる。商品の品質は、10数年前までは、日本の商品と比べ、中国の商品にはいろいろ問題があったが、最近は中国の品質が向上している。イスなどの「足もの」については、技術的、コスト的にも中国の商品が「はるかに上回っている」という。

人件費の高騰は頭の痛い問題

友利家具では、社員の勤怠管理にICカードを用いている。
社員食堂には、センサー(木箱内)が設置されており、
出勤時や終業時、休憩時にICカードを読み取らせる。

 協栄家具、江州工芸品は、工場業務の担当はあったが、会社組織的な要素を全面的に取り入れていたわけではなかった。友利家具では、工程ごとの部門を設置。アダルと同じような会社組織を導入した。「若い社員の仕事への意欲が向上した」(武野会長)などの効果があったという。

 中国に限らず、人を雇うに際し、武野会長が重視するのが「素直さ」。「頭の良さ」は二の次だ。社員の人事考課では、評価対象となる社員以外の社員などの評判を考慮に入れる。社員と飲むことも判断材料になる。たとえば、外せない仕事があるという理由で、欠席する社員がいる。武野会長は「段取りの悪い社員だ」と低い評価を下す。必ず出席する社員は高く評価する。性格の素直さ、段取り、周りの評判が社員の見極めのポイントになっている。友利家具の人事は、張诘社長と相談のうえ、決めることにしている。

 ただ、「経営者は、真面目で仕事ができる、周りから好かれるだけではダメだ。そこに「厳しさ」がなければならない」(武野会長)という。以前、アダルに部下のミスを自ら手直しする工場長がいた。1人の人間、社員としては非常にすばらしい。ただ、経営者としては失格。優しいだけで、部下を指導できないからだ。部下がミスするたびに上司が尻ぬぐいしていては、仕事が回らない。その逆も問題がある。部下に厳しいだけで、一切面倒を見ないタイプだ。会社全体の力が弱くなるという。

 中国人社員を雇う上で、人件費の高騰は頭の痛い問題だ。昔と比べ、安くて豊富な労働力をホイホイ雇える状況ではなくなっている。中国の労働力を支えてきた地方出身者も、最近、多少稼げる程度の給与水準では、家族から遠く離れた場所で働こうとは考えなくなってきている。雇用保険や退職金などの労働者保護に関するルールも年々強化傾向にある。社員を辞めさせるにもコストがかかる。通常の超過勤務手当は200%にも上る。まともに手当を払うと利益が出ない友利家具は、閑散期と繁忙期の差が激しいという工場業務の特殊性について当局と交渉し、50%で抑えている。

武野会長は中国に何を残していくのか

武野会長(右)と打ち合わせする張社長(中央)。通常
2人の打ち合わせには、通訳として張董事長(左)が加わる

 友利家具は、アダルの関連会社として、中国企業として、張姉妹が社長、オーナーとして2人三脚で経営するかたちにはなっている。だが、実質的なオーナー、経営者が依然、武野会長であることに変わりはない。ほかならぬ武野会長自身、今後も引き続き友利家具の経営に関わっていく考えを打ち出しているからだ。張姉妹の経営者としての力量が未知数なだけに、フリーハンドを与えるわけにはいかない。新会社社屋完成の遅れを見れば、それは明らかだ。当面は、友利家具の経営を軌道に乗せることが最優先事項になるだろう。武野龍・アダル社長との良好な関係づくりも不可欠だ。

 武野会長はいまだ心身ともに壮健に見えるが、御年80歳。近い将来、必ず身を引くタイミングが訪れる。「リスクから逃げず、むしろ立ち向かっていく」ことで人生を切り拓いてきた武野会長だが、今、再び新たなリスクに立ち向かっている。「老健践翔(武野会長が座右の銘とする造語で、老人でも健康であれば、今までの経験を生かして翔ばたけるの意)」なるか。その行方を見守りたい。

(了)
【大石 恭正】

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