2024年04月19日( 金 )

世界の西と東、北と南は大逆転、アジアの世紀へ!

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 2月19日(火)午後5時半から約3時間に亘り、28周年記念「第163回日本ビジネス・インテリジェンス研究会」(主催:日本ビジネス・インテリジェンス協会)が新宿の安与ホール7階で開催された。今回は「一帯一路」を中心に、米中貿易戦争にも言及、会場は満席の約80名の有識者であふれた。

  中川十郎 日本ビジネス・インテリジェンス協会会長(名古屋市立大学特任教授)の開会挨拶、発明家・中松義郎博士(同協会名誉顧問)の新年挨拶から会は始まった。今年91歳になる中松博士は同研究会に28年皆勤している。続いて、進藤榮一・一帯一路日本研究センター代表(国際アジア共同体学会会長・筑波大学大学院名誉教授)による「一帯一路の将来と米中貿易戦争」と題した基調講演が行われた。

2014年にはE7GDP総計がG7GDP総計を抜きました

進藤 榮一 氏

 進藤氏は、開口一番「世界の西と東、北と南は大逆転した」と語り始めた。2014年に購買力平価で、新興E7(ブラジル、ロシア、インド、中国、インドネシア、メキシコ、トルコ)のGDP総計が、先進G7(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本、カナダ)のGDP総計を抜いた。(IMF『世界経済の見通し(2014.10.7)』)2030年には中国のGDPは米国を抜き(1.2倍)、日本の4倍になり、2050年には米国の1.8倍、日本の9倍になることが予測されている。

 一方、世界の西と東のGDPは1960年代には6(西):1(東)だったが、2015年には1:1になり、2050年には1(西):3(東)に逆転することが予測されている。同じく1960年代に8(北):1(南)であったGDPは、2015年には3(北):1(南)になり、2050年には1(北):2(南)に逆転することが予測されている。進藤氏は「21世紀にはアメリカを中心にした欧米世界の世紀が終わり、アジアの世紀が登場する」と語った。

現在日本人の多くはまだ1960年代に生きています

 進藤氏は「現在日本人の多くはまだ1960年代(日本の繁栄はアメリカを中心とした欧米世界との協調のなかにあった)に生きています。しかし、世界は“大”逆転しました」と続けた。そのうえで、「米中貿易戦争」にも言及、「アメリカは勝つことのできない戦争を始めた」と持論を展開した。その理由に(1)グローバル・バリューチェーンの今、1つの国と関税競争をやることは意味をもたない(2)中国の経済力はもはやアメリカをしのぐようになった(3)米中間には「日米貿易摩擦」の時のような共通(日米安保体制)の敵が存在しない、と3つを挙げている。最後に進藤氏、日本は「一帯一路」に積極的に関わるべきであり、その一翼を担うことで日本の未来は開けると結んだ。

「自由貿易試験区」に積極的に進出することが必要

中川 十郎 会長

 進藤氏の基調講演を受けて4人のスピーカーが登壇した。1人目は朽木昭文・日本大学生物資源科学部教授である。朽木氏は「中国製造2025と一帯一路」と題して講演、中国製造2025の中心は北京・中関村のサイエンスパークであり、その規模、レベルの高さ、進捗速度を強調した。さらに、日本が「自由貿易試験区」(改革開放政策により外国直接投資を活用し全国に展開)に積極的に進出する必要性を説いた。

 2人目は范云濤・亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科教授である。国際弁護士でもある范氏は「一帯一路とリスクマネージメント」と題して講演、日本の環境技術の素晴らしさ(世界の環境ハイテク技術の55%を占める)を強調したうえで、対中国取引・交渉におけるリーガルスキーム構築の重要性を指摘した。

日本の中小企業はコピーを恐れ、中国進出をあきらめる?

中松 義郎 氏

 3人目は、朝格吉拉図・亜細亜連合大学院機構特任研究員である。環境学博士である朝格氏は「内蒙古における環境対応と一帯一路」と題して講演、リモートセンシング技術を駆使した衛星画像を通して、砂漠化、環境対策を考察した。

 4人目は、近藤加奈子・DENBA常務執行役員である。近藤氏は「日本の中小企業技術の中国経由世界展開実例~ケース・スタディ」と題して講演、自身の中国での経験を披露した。  

 多くの日本の中小企業はコピーを恐れ、中国進出をあきらめている。近藤氏の「コピーされてこそ本物で、市場がある証拠です。コピーされない商品は中国に進出してもまったく意味がありません」は成功者(同社は中国第4位の家電メーカー(年商約2兆円)と契約、年間400万台の冷蔵庫に鮮度保持電場装置導入に成功)の言葉だけに、印象深く、中小企業経営者に一考を投げかけるものであった。

 当日は、上記に加え、東正則・アズマ・ビジネスコンサルティング代表による「日本のものコトづくりの本質と社会展開」の講演もあった。東氏はかつて世界一であった日本の製造大企業は今自信を失っていると語り、オープン・イノベーション思考の重要性を説いた。そして、従来のCSRから一歩進めた、地球環境に優しい新CSR(Cooperative Synthetic Renovation)社会的価値創造経営を提唱した。

 研究会終了後、参加者有志は会場を移し、遅くまで新年会を兼ねた夕食を楽しんだ。

【金木 亮憲】

【一帯一路】
2013年に中国の習近平国家主席が提唱した経済圏構想。中国西部と中央アジア・欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸部と東南アジア・インド・アラビア半島・アフリカ東を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の2つの地域でインフラ整備および経済・貿易関係を促進する。この経済圏に含まれる国は約60カ国、その総人口は約45億人で、世界の約6割に相当する。

 

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