企業構造の変動期
これまで、九州に本社を置く企業で「売上高1兆円」という大台を超えるのは、わずかに3社しかなかった。電力インフラを支える九州電力(株)、世界的自動車メーカーの重要拠点であるトヨタ自動車九州(株)、そしてソニーグループの半導体生産を担うソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)だ。
いずれも製造業やインフラ事業に軸足を置いた、いわば「重厚長大」型の巨大企業であり、地域経済の屋台骨を支えてきた。しかし、2024年から25年にかけて、その構図に明確な変化が訪れた。新たに、流通業界から3社が1兆円クラブに加わった。
新たに加わったのは、福岡市に本社を置く(株)コスモス薬品、ヤマエグループホールディングス(株)、そして(株)トライアルホールディングス。いずれも従来の流通業のイメージを超えた急成長を遂げ、いまや九州発の「全国級プレーヤー」としての地位を確立しつつある。
九州発、全国展開する企業グループの可能性
これら3社の共通点は「流通業」であること、そして「福岡」を拠点としながら、全国・海外への展開を視野に入れている点だ。
これまで、九州における1兆円企業は「限られた例外」だった。地方に拠点を置くこと自体が、人的資源・物流・投資資本などの面でハンディとなるという前提が、暗黙のうちに共有されていたともいえる。
しかし現在、そのような前提は過去のものとなりつつある。今回の3社の事例は、九州という“地方”からでも、全国に通用するビジネスモデルと成長戦略を描けることを証明してみせた。しかもその成長エンジンは、製造業ではなく、DX・ロジスティクス・店舗戦略といった流通業独自の知見であるという点も注目に値する。
では、あらたに1兆円を突破したこの3社の具体的な戦略と成長の構造はどこにあるのか。それぞれのケースに異なる成長ドライバーがあり、九州発の1兆円企業像に多様性が生まれていることがポイントである。1兆円という数字の裏にある、それぞれの企業の哲学と手法を読み解くことで、九州経済の新しい地図が見えてくるだろう。
【寺村朋輝】