政治経済学者 植草一秀
参院選で参政党が議席を大幅に増やした。三つの背景を指摘できる。第一は自民党極右支持者が石破自民党に不満を持ち、参政党が受け皿になった。第二は参政党が他党が提示しない主張を掲げた。第三はこれまで投票率の低かった世代に参政党が照準を合わせて埋蔵している票を採掘した。この結果として参政党が議席を増やした。
しかし、参政党が目指す基本方向は参政党が公表している憲法草案で理解できる。参政党は憲法草案前文で、「国民も天皇を敬慕し、国全体が家族のように助け合って暮らす」とし、「これが今も続く日本の國體(こくたい)」とし、第一条で「日本は天皇の治める君民一体の国家である」と定める。
参政党は天皇を「元首」とし、主権については「国は主権を有し」と規定する。「国民」については、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を愛する心を有することを基準として法律で定める、とする。国民であるかどうかを判定する法律を制定するとしている。
国民の権利・義務については権理には義務が伴い、自由には責任が伴うとして、権理及び自由は、濫用してはならないとする。
教育に関しては国語と古典素読、歴史と神話、修身、武道、及び政治参加の教育は必修とする。教育勅語など歴代の詔勅、愛国心、食と健康、地域の祭祀や偉人、伝統行事は、教育において尊重しなければならない。の条文を置く。
また、「国まもり」として国は、自衛のための軍隊(自衛軍)を保持すると規定し、国民に対しては、国民は、子孫のために日本をまもる義務を負うと定める。「日本をまもる義務」は徴兵制につながるものと理解できる。ひとことで表現すれば、日本を大日本帝国憲法の時代に引き戻そうということなのだろう。
神谷氏は街頭演説で、「いま言ったような歴史認識、先の大東亜戦争は日本だけが悪かった、日本がアジアに侵略した、アジアの人たちにすべて迷惑をかけた、日本は一生謝り続けないといけない、こういった自虐的な歴史観も私たちは反対です」と発言。https://x.gd/da6ww(54分15秒~30秒)「日本だけが悪かった」、「一生謝り続けないといけない」という点には論議の余地があるが、この文脈から「日本は何も悪いことをしていない」との方向に議論を飛躍させることは重大な誤りだ。
日本の加害責任は重大。日本の過去の過ちを否定して唯我独尊に陥ることは極めて危険。極右以外で参政党を支持する人々は、参政党の本質をほとんど理解していないのではないか。参政党の本質に気付く必要がある。他方、参政党の台頭を許した背景に、参政党が他党が指摘しない問題点を大きく取り上げたことがある。この点を見落としてはならないだろう。
2022年6月4日に東京・曳舟で「選挙でコロナを終わらせる!」https://voice.charity/events/117/reports/1023シンポが開催され、私は「なぜ、既成政党はコロナとワクチンを止めないのか」の演題で基調講演した。
第2部のパネルディスカッションには参政党の松田学氏、前衆議院議員で弁護士の青山雅幸氏、参議院議員の須藤元気氏、元横須賀市議の一柳洋氏が出席。司会を務めたのは鎌倉市議の長嶋竜弘氏。
イベントを企画されたのは一柳氏。一柳氏は「コロナとウクライナと温暖化」がグローバル巨大資本の陰謀であるとの見立てを示し、私と見解を一にしていた。イベントに参加した私の印象は、イベントが参院選に向けての参政党決起集会であるというもの。私はワクチンに対する見解を共有したが、参政党とは国家観、歴史認識が異なる。壇上で政治的立場が松田氏とは異なることを明言した。
しかし、既存の政党で新型コロナワクチンの危険性を訴える存在は皆無に近かった。私は本ブログ、メルマガにおいても、当初より、新型コロナワクチンの危険性を訴え続けた。ワクチン開発が始まる前の段階では有効なワクチン開発が待たれるとの見解を有したが、新型コロナ対策のワクチンがまったく新種のワクチンであることを踏まえ、専門家の指摘をもとに新型コロナワクチンの危険性を訴え続けた。この問題について、唯一適正な指摘を示し続けたのが参政党である。このことから、22年6月のシンポでは参政党関係者と同じ場で発言したのである。
ワクチン接種が始まったのは21年。21年には「ワクチンパスポート」などの構想も浮上した。このことについて、21年10月13日に埼玉弁護士会が会長声明を発出した。
「ワクチンパスポート制度によるワクチン接種の事実上の強制及びワクチン非接種者に対する差別的取扱いに反対する会長声明」
https://www.saiben.or.jp/proclamation/001042.html
声明は次のように指摘した。
「そもそも、人体に大小様々な作用を及ぼす医薬品について,それを自己の体内に取り入れるか否か、取り入れる場合に何をどのような方法によって取り入れるかといった問題は、個人の生命・身体にかかる極めて重要な事項であり、したがってまた、これを自らの意思と責任に基づいて決定することは,個人の自己決定権の中核をなすものといえる。
特に、現時点において新型コロナウイルスのワクチンとして用いられているメッセンジャーRNAワクチン及びウイルスベクターワクチンについては,医薬品医療機器等法第14条の3に基づく特例承認にとどまっており,長期にわたる被接種者の追跡調査という治験が全くないこと、また、これまでに同ワクチンの接種後に死亡した例やアナフィラキシーショック,心筋炎その他の重篤な副反応例も数多く報告されていることから,ワクチンの接種に深刻な不安を抱えている市民も多数いる。」
日本でワクチン接種が開始された2021年2月時点で、ファイザー社ならびにモデルナ社の新型コロナmRNAワクチンは通常の医薬品承認に必要な治験を終了していなかった。したがって、政府は上記の通り、医薬品医療機器等法第14条の3に基づく特例承認によって拙速にワクチン接種を開始した。
この点に関して、国民民主党の玉木雄一郎代表と医師の福田徹議員が2025年6月30日に公開した対談動画で、新型コロナワクチンについて以下のように発言した。
https://www.youtube.com/watch?v=vysW3EoagB4
玉木氏は「第1相、第2相、第3相の治験は終わっていて、安全性と有効性は確認できている」と明言。福田議員は「2021年の接種開始時点で治験はすべて終わっていた」と述べた。
動画に出演した須藤元気氏はワクチンに対する否定的発言について「科学的根拠に乏しかった」と反省を示した。しかし、この動画公開から1週間後の25年7月8日に行われた会見で福岡資麿厚労相は、「ファイザー社の海外第1、第2、第3相試験の終了時期は2023年12月、モデルナ社につきましては海外第1相試験、第2相試験、第3相試験の終了時期はそれぞれ2022年4月、2021年10月および2022年12月であると承知しております」と述べた。
2025年時点では治験は終了しているが、日本でワクチン接種が開始された2021年2月時点で治験は終了していなかった。そして、ワクチン接種と連動するかたちで、日本の死亡数は過去に類例を見ない激増を示して現在に至っている。
コロナが広がった2020年は日本の死亡数は減少した。ワクチン接種に連動して死亡数が激増しており、ワクチンが死亡数激増の原因になったと推察される。国民民主党は参院選直前のタイミングで公開した動画において、2021年のワクチン接種開始時点で治験はすべて終わっていたという、完全に虚偽の情報を流布した。この責任が問われる必要がある。
参政党が躍進した背景に、極めて重大な問題に対して既成政党が真摯に取り組んでこなかったことを指摘できる。問題はワクチンにとどまらない。農業、食の安全、財政政策論議でも類似した構造が存在する。既存政党の堕落にメスを入れなければ極右政党の台頭を許すことになる。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
ブ ロ グ「植草一秀の『知られざる真実』」
メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」