「シミュレーション」を見て~論理破綻で押し通す、今も教育界を覆う現状

福島自然環境研究室 千葉茂樹

NHK「シミュレーション」

古い文書 イメージ    8月16日・17日の2夜連続で、NHKにて『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』というドラマが放送されました。第2次世界大戦中の日本で、国家総力戦に関する基本的な調査研究を行った「総力戦研究所」を舞台にしたドラマです。

 視聴しての感想は、内容的には1985年に民放で放送された『太平洋戦争は避けられた』のほうが良かったと感じました。

 この番組は、総力戦研究所のドラマの間に実際の戦争に至る経過(記録映像)なども差し込んで、机上演習の経過と実際の経過を比較しながら展開されました。

 NHKの番組では、取り上げられませんでしたが、戦争に至るなかで、感情を煽る人間がいます。米国からの事実上の最後通告「ハル・ノート」がつくられる際、コーデル・ハルを煽るような人間がいました。

 スティムソン陸軍長官は、中国における日本軍の日常の行動を「日本軍が大軍を動かした」と報告しています。これで、日米開戦を避ける暫定協定案が紙くずになりました。

参考:Wikipedia「ヘンリー・スティムソン」

 日米ともに、開戦に向けて煽る人間がいたことも事実です。この報告などを基に、日本が絶対に飲めない条件を「ハル・ノート」として、日本に突きつけました。

参考:Wikipedia「ハル・ノート」

 これとは対照的に、日米開戦を避けようとする大使もいました。クレイギー駐日イギリス大使やグルー駐日米国大使です。

 番組の最後には、苦悩する東條の姿が描かれました。しかし彼もまた大勢に抗えない一人でした。戦争に負けて自決(実際には米軍に延命され、その後絞首刑)する勇気があるなら、暗殺されようとも開戦を避けるべきだったのではないでしょうか。

 番組では出てきませんでしたが、総力戦研究所の堀場一雄氏は、極東軍事裁判で「日本政府が我々の机上演習を採用していれば、日米開戦には至らなかった」と述べています。

日本の教育界を覆う論理破綻で押し通す現状

 ところで、極東軍事裁判では、和平交渉に尽力した東郷重徳(外務大臣)も有罪になっています。勝者の論理が優先されたとしか思えません。

 私が卒業した一関一高には、福島県風に言えば「変わり者」の教員が多く、授業で日米開戦のことを語る人もいました。地理の教員は「日本が占領していた満州には、石油があった。日本軍は石油が取れないと思って、南方に進出し、アメリカと戦争になった。当時の日本は技術不足で、深部の石油の探査ができなかった。その技術力があれば日米開戦にならなかった。(だからきちんと学ばなければならない)」と言っていました。

 教科書に書かれていないことを話す教員が多く、面白い授業でした。上記の油田は、大慶油田のことだと思います。記憶違いなら失礼。

参考:「日本はなぜ大慶油田を発見できなかったのか

 私の経験からも、上記のような論理の破綻が、日常生活でも起きています。感情論が優先され、論理の破綻が理解されません。高校も同じようなもので、職員会議では、明らかに間違った論理なのに強引にそれを押し通そうとする管理職・職員が多くいました。私は論理的に破綻している話なので、その矛盾点を指摘しましたが、多くの場面で袋叩きにされました。

 ここで最も問題なのが、自分で考えもせずに大勢に迎合する人々です。あきれました。猪苗代高校では「会津人でなければ人にあらず、よそ者には発言権はない」という決まり文句まで飛び出しました。

 ある年の2月の職員会議で、私は「福島県で一番頭の悪い人間」と議決されました。この連中は、物事は見る角度によって、見え方がまるで違うということを知りません。既得権の保持に固執する職員の多さにあきれるばかりでした。

 その2カ月後に管理職が入れ替わりました。次の管理職は「この学校の職員は、感情的・固定観念、使い物になる職員はいない」と言って、今度は私を多くの場面で起用しました。

 そうなると、それまで私を小馬鹿にしていた職員は手のひらを返し、職員会議で私の意見に無条件で賛成するようになりました。挙句の果てには「千葉先生の考えはすべて正しい」とまで言いだしました。私は、その馬鹿さ加減にあきれ果てました。

私の一関一高の教育と福島県の教育

 一関一高の教員から常に言われたのは「世の中の向かっている方向が正しいとは限らない。常に自分の頭で考え、自分の判断で行動せよ」でした。福島県の教育とは真逆でした。

 福島県の教育は「お上に従うのが良い」「テストの点数だけ取ればよい」という考え方です。私は、こんな考えは間違いだと思っていますので、退職まで抗い続けました。

 定年退職前には生徒指導部長を務めましたが、嫌だったのは「生徒にレッテルを貼る教員が多い」という点です。教員自身が「自分にもレッテルを貼られたらどうなるのか」を考えていません。こんな話をすると、「自分は絶対にそうならない」と言い切ります。あきれました。明日は我が身ということを知らないようでした。

 なお、2000年頃、福島県と岩手県の教育委員会との情報交換会があったそうです。知り合いの指導主事が言っていました。その席で岩手県教育委員会の指導主事が「我々岩手県は福島県から学ぶことはまったくございません」と言い切ったそうです。

 この発言をしたのは、私の一関一高の同級生でした。新採用のころ、研修会に行くと、頻繁に出身高校を聞かれました。一関一高出身というと、「あそこ出身の人は、みんな頭がおかしい」と言われました。青年期までに、どのような教育をされるかで、物の考え方が決まります。


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。

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