トランプ関税2期目の衝撃──保護から外交カードへ

国際政治学者 和田大樹

 トランプ政権2期目の関税は、国内産業保護に重点を置いた1期目から一転し、外交交渉の武器としての性格を強め、適用範囲も広範囲化した。世界経済に与える影響は格段に大きくなっている。

国内保護から外交カードへ──関税の目的の変質

 まず、トランプ関税の目的である。明確な線引きをすることは難しいが、1期目の関税は、米国内の製造業や鉄鋼・アルミニウム産業の保護を目的とし、とくに、不公正な貿易慣行への対抗策として中国に発動された関税は、知的財産の保護や対中貿易赤字の是正を目指し、特定の産業や製品に焦点を当てたものだった。まさに米国を守るという意識が前面に出ていた。

 一方、2期目の関税にもそれが如実に感じられるが、外交交渉における「脅しとしての関税」としての役割がより顕著に見られる。トランプ大統領は政権2期目において、貿易相手国が米国に課す関税や非関税障壁を基準に、米国が同等の関税を課す相互関税を打ち出した。相互関税発表後、日本の赤澤大臣が8回も「トランプ詣で」のため訪米したように、各国は関税を交渉の武器として扱うトランプ政権とのディールを余儀なくされている。これは相手国に貿易条件の再交渉を迫るための戦略として設計されており、2期目は単なる国内保護を超えた攻撃的な外交手段としての関税という特徴が顕著だ。

対象国から世界全体へ──拡大する適用範囲

アメリカ 貿易 イメージ    次に、トランプ関税の適用範囲である。1期目の関税は、どちらかといえば、特定国や品目に焦点を当てた政策だった。とくに、中国に対する先制的かつ連続的な関税発動により、当時の国際経済は大きな混乱を余儀なくされたが、これは貿易赤字が大きい国や特定の産業に影響を与える国をピンポイントで狙うものだった。1期目の関税は、主に中国やEUとの間で局地的な貿易摩擦を引き起こした。相手国は報復関税を課し、WTOを通じた訴訟や交渉も活発に行われたが、これらの対立は比較的二国間での交渉や調整で収束する傾向にあった。関税の影響は特定の国や地域に限定されることが多かったといえよう。

 これに対し、2期目の関税はより包括的で広範な政策と捉えられる。カナダやメキシコ、中国からの輸入品に追加関税を課し、さらに国家を特定せず、あらゆる国からの輸入品に10%の関税を課す一律関税を導入した。この包括的な関税は、特定の国や品目に限定せず、ほぼすべての輸入品を対象とする点で、1期目とは大きく異なる。相互関税や一律関税の導入は、複数の国や地域を同時に巻き込み、国際貿易の枠組みそのものを揺さぶる動きとなっており、2期目の関税はグローバルな貿易戦争を引き起こすリスクがあり、世界経済全体への影響が1期目に比べて格段に大きくなっている。

 しかし、1期目と2期目のトランプ関税の違いは、政治的側面からある程度予測できたのかもしれない。トランプ政権1期目のときは、トランプ大統領のストッパー的役割を担う人物が政権内にいた(その後、次々にホワイトハウスを去ったが)。しかし、2期目の布陣を見れば明らかだが、バンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官、ベッセント財務長官など、トランプ周辺は従順的な人物で固められている。

経営者への警鐘──地経学リスクに備えよ

 最後になるが、企業経営者はこれをどう受け止めたらいいのだろうか。無論、絶対的な答えはないが、筆者として地政学的観点から以下を提言したい。ここで示したように、トランプ関税がより広範囲的かつ強行的なものになっているが、トランプ政権が終了すればそれが緩和されるかは分からない。バイデン氏とトランプ氏は真逆な政策を実行してきたように映るが、対中姿勢という点では大きな違いはなかった。要は、トランプ路線を受け継ぐ人物(バンス副大統領?)が時期大統領になれば、トランプ関税もこのまま継承されるだろうが、反トランプ路線の人物が大統領になっても、米国の国内重視、保護貿易的姿勢が続くシナリオが考えられるのだ。

 一方、そうだからと言って、「やっぱり中国」という認識に立つべきではない。昨年秋の大統領選挙でトランプ氏が勝利して以降、中国は米国の保護主義こそがグローバル経済にとっての脅威という認識を諸外国に訴えている。その一環として、中国は日本に対しても歩み寄りの姿勢に転じているように映るが、近年、日本企業の間で広がる脱中国依存の動きを後退させるべきではない。ウクライナや中東のように、地政学リスクというものは、一瞬のうちにリスクが肥大化する潜在的危険性を内在しており、日中関係においてもそれを意識しなければならない。

 経団連は7月25日、長野県軽井沢町で開催した夏季フォーラムで、「米中に過度に依存しない自立した国家の確立」を目指すべきだとする提言書をまとめた。これは簡単に言い換えると、欧州やインドを盟主とするグローバルサウス諸国との関係強化ということだろうが、今まさに日本の経営者に求められる“地経学”的認識はこれだと筆者は考えている。


<プロフィール>
和田大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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