2024年04月25日( 木 )

M&A駆使し売上高1,000億円に挑戦 物流業に正当な評価を(中)

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福岡運輸(株) 代表取締役社長 富永 泰輔 氏

積極的に設備投資

 ―設備投資にも積極的です。全国で拠点整備を進めている。

 富永 結構やっている方でしょうね。今年4月に愛知県一宮市に名古屋支店を移転新築します。土地約4,000坪(約1万3,200m2)は購入済みで、建坪2,000坪の定温倉庫を建設します。6月には大阪南港、7月に埼玉県に倉庫を併設した営業拠点を新設します。大阪南港と埼玉県の設備は借り物ですが、基本的には自前主義。来期に計画している兵庫県西宮市と神奈川県厚木市の営業倉庫は土地を購入し、面積はそれぞれ5,000坪、1,600坪。厚木営業倉庫が完成すると関東での市場拡大に大きな戦力になるはずです。

 ―逆にいえば、それだけ需要が増えていると。

 富永 もちろん将来に備えるためですが、たまたま従来の施設が老朽化しスクラップ&ビルドの時期を迎えている事情もあります。うちは築30~50年を経過した倉庫が多い。これは荷主であるメーカーさんも同様で、古くなった工場の建替えを進められている。我が社もこれに対応する施設の大型化・合理化を迫られているのです。

 ―車両への投資はどうですか?

 富永 トラックは効率的に回転させることが重要で、台数を増やすことは考えていません。むしろ、いま取り組んでいるのは情報システムの整備。1月から車両情報を一元管理する「車両管理システム」をグループ企業に導入しました。M&Aで新しく加わったグループ企業を含めて車両情報や稼働状況、点検整備情報を一元管理し、包括的な車両管理体制の構築と整備基準の統一化をすることで輸送品質の一段の向上を図ります。

国内初の冷凍トラックの1号車

人の集まる運賃に

 ―運送業界は長く運賃競争を強いられ、低収益を余儀なくされてきました。今や環境は一変、人手不足で荷主と立場が逆転し我が世の春になったのでは?

 富永 いやいや、そんなことはありません。いわれるようにヤマト運輸(株)さんが運賃改定を提案してからこの3年で局面が大きく変わったのはたしかです。それまでは運賃が下がり続け、運転手の賃金も下がる一方でしたから。長距離のドライバーだと年収1,000万円稼いでいたのが500万円以下に下がりました。そこへ過積載禁止などのコンプライアンスが厳しくなり、会社も儲からなくなりました。

 今、仕事はあるのに人手不足で対応できなくなっています。人手不足の一因は、高収入だった魅力が薄れてしまったことにあります。トラック乗務員だけでなく、倉庫の作業員が集まらないのも頭の痛い問題です。

 ―トラック運賃を人の集まる正常な水準に戻すべきだ、と。

 富永 私は物流という仕事はもっと社会から評価されるべきだと思っています。トラック運転は労働条件が厳しく体力と技術が必要で誰でもできるわけではありません。しかし、誰かがやらないといけない。祖母で創業者である富永シヅは従業員と顔を合わすと口癖のように「世の中の役に立っとうね」と言っていたそうですが、物流は社会の役に立つ仕事なのに、あまりにも評価は低い。もう少し稼げるようにしないと。この間の運賃下落で低賃金イメージが定着してしまった。

国内にビジネス機会あり

 ―地震や災害のたびに国民のライフラインを担う物流の重要性が叫ばれます。

 富永 ええ。ところが時間が経つと忘れ去られてしまう。私としてはそんな風潮に違和感があります。

 ―運賃高になり産業界は悲鳴を上げています。

 富永 大変なことはわかります。ただ、繰り返しますが、きちんと評価されるべき水準にすべきだというのが私どもの考えです。

 ―将来、外国人労働者を導入することは考えられませんか?

 富永 トラック運送業は今回の政府の外国人労働者受け入れの指定業者からも外されており、今後も難しいでしょう。我が社では倉庫作業にアルバイトで少数の留学生を採用しているだけです。自動運転についてですが、トラックでの実用化は10年から20年先でしょう。それに既存車両の使用期間を考えるとさらに先かもしれない。

 ―人手不足は成長を阻害しかねませんね。

 富永 M&Aでも、買収したい会社はあるけれどもにこちらから送り込む人材が不足し、見送らざるを得ないのが実情です。一番頭が痛いのは、新卒の若者を採用できなくなっていること。今春の大卒採用は20名の予定が10名でした。このことは思わぬ成長のボトルネックになりかねません。

 私の仕事はグループをきちんと運営し、若者に魅力のある職場にすることに尽きます。会社の枠を超え、物流業全体を人の集まる業種にすべくトラック協会などの活動を通じて努力していきたい。

 ―海外進出に夢があるのですか?

 富永 こういう時代なのでよく海外事業はやらないのかと聞かれます。恥ずかしながら、まったくのゼロです。でも常に頭にはあり、機会があれば挑戦したい。

 それよりも今は国内に集中します。我が社のやるべき仕事は多く、国内にビジネスチャンスは残っている。海外に進出しなくても十分1,000億円達成は可能です。

(つづく)

<COMPANY INFORMATION>
所在地:福岡市博多区空港前2-2-26
設 立:1956年10月
資本金:1億円
売上高:(18/3)214億2,600万円

<プロフィール>
富永 泰輔(とみなが・たいすけ)
1974年11月18日福岡県生まれ。98年東京大学経済学部卒。平沼赳夫経済産業相の秘書を2年務めた後、98年4月福岡運輸(株)に入社。取締役、常務、専務を経て2010年6月代表取締役社長就任。グループ企業である(株)福岡運輸ホールディングス、福岡運輸システムネット(株)などの代表取締役を兼務。

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