2024年05月03日( 金 )

M&A駆使し売上高1,000億円に挑戦 物流業に正当な評価を(後)

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福岡運輸(株) 代表取締役社長 富永 泰輔 氏

国内初の冷凍トラックを走らせる

福岡運輸の業績推移

 福岡運輸(株)は1958年国内初の冷凍トラックを走らせたことで知られる。創業者の故・富永シヅ氏(1909~2006)は長崎県五島列島の網元の家に生まれ、長崎の師範学校卒業後は地元で小学校の教員をしていたが、徳島県の網元・富永家に嫁入り。富永家は底引き網漁を西日本近海で幅広く手掛けていたが、福岡市の要請で本拠を同市に移した。シヅ氏は夫の死後網元の家を切り盛りしていたが、戦後底引き網漁が難しくなると、復員してきた漁師や従業員の仕事を確保するため倉庫業を始めた。その後、進駐米軍家族の引っ越し作業を手伝ようになったのがきっかけで運送業に進出。56年同社設立となる。

 冷凍トラックは米軍からアイスクリームやチョコレートの輸送を依頼されたのが開発のきっかけ。矢野特殊自動車と共同で、トラックエンジンの燃料燃焼で電気を起こしモーターを回すことで庫内を一定温度に保ったまま冷凍する技術を開発した。冷凍トラックは日本の食文化を変えたとまでいわれる。

 同社はバブル崩壊後、運賃競争の激化で業績が低迷する時期もあったが、冷凍輸送では国内大手の一角に成長した。前期の売上高は214億2,600万円と14年3月期からの4年間で26.8%伸びた。国内の商業貨物(BtoB)の輸送需要が成熟化しているなかで、冷凍冷蔵食品は調理の時間を節約したい共働き家庭の増加で堅調に増加している。

低温から定温へ

 同社もこれに対応し全国的な拠点整備を進めてきた。主要拠点には冷蔵冷凍倉庫を併設し、荷主のニーズに迅速に応えられるようにしている。今・来期にかけて名古屋支店、大阪南港、埼玉県内、西宮、厚木と設備投資は目白押しに控える。富永社長は「低温から定温へ」を掲げ、幅広い温度帯に対応できるようにする。

 目覚しいのが利益成長。当期純利益は4年間で5.8倍になった。人手不足を背景にトラック運賃が上昇、採算が好転したことが主因だ。

 福岡運輸グループは持株会社の(株)福岡運輸ホールディングスを頂点に約10社で構成。グループ売上高はM&Aで約450億円と過去3年間で約100億円増えた。

 シヅ氏が創業した会社のうち、福岡倉庫(株)は九州を代表する倉庫会社に成長、泰輔氏の兄・太郎氏が受け継いでいる。

 人手不足はある意味で物流企業にとって追い風。業界は慢性的なトラック過剰で運賃下落に苦しんできたが、環境が一変し有利な立場に回った。半面で、成長を阻害しかねないデメリットも表面化し始めた。仕事があっても乗務員や作業要員の不足で見送らざるを得ない、と業者は口をそろえる。3Kイメージが強く、将来の幹部候補である大卒新卒者の間でも就職人気は低いということに対する富永泰輔社長の危機感は深い。魅力ある仕事にするのが最大の使命といってよいだろう。

(了)

<COMPANY INFORMATION>
所在地:福岡市博多区空港前2-2-26
設 立:1956年10月
資本金:1億円
売上高:(18/3)214億2,600万円

<プロフィール>
富永 泰輔(とみなが・たいすけ)
1974年11月18日福岡県生まれ。98年東京大学経済学部卒。平沼赳夫経済産業相の秘書を2年務めた後、98年4月福岡運輸(株)に入社。取締役、常務、専務を経て2010年6月代表取締役社長就任。グループ企業である(株)福岡運輸ホールディングス、福岡運輸システムネット(株)などの代表取締役を兼務。

(中)

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