• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年04月08日 13:39

中国現地ルポ  -広州・杭州・長春・北京-(1)

福岡大学名誉教授 大嶋 仁 氏

言論の自由

 1カ月強となる中国旅行。南は広州から始まり、北上して浙江省の杭州。さらに東北地方に飛んで長春、そして最後は北京という強行軍だ。

 「いまどき中国で何を?」と言われそうだが、いくつかの大学で講演をし、あとは見て楽しみ、食べて楽しもうというだけのこと。

 とはいえ、出発の数日前、福岡のカフェで2人の友人と団らんした時、いろいろなことを考えた。友人の1人はアメリカ在住のフリー・ジャーナリスト。もう1人は東欧事情に詳しい大学教授。私が「もうすぐ中国へ行く」と言ったのがきっかけで、まことに興味深い議論となった。

 「え? そんなに長く中国に行くの? 拉致されないでくださいよ」とアメリカ在住ジャーナリストの弁。「僕には拉致に値するものなんか何もない」と私は答える。すると彼、真剣な顔でこう言った。

 「今の中国、情報管理がすごいじゃないですか。レストランでメニューを注文するにもスマホ。バスや電車の予約まで、それでやる。現金で支払えるところはほとんどないそうですよ。一般市民は『便利になった』と喜んでいるかもしれないが、これは国の国民に対する情報管理にほかならない。恐ろしいじゃありませんか」

 言われてみれば、たしかにそうだ。数年前に行った時も、タクシーの支払いなど皆がスマホで済ませていた。これが国家による情報管理なのだろうとは、私も思ったものだ。Googleやヤフーの検索を禁じ、WeChat以外のSNSを禁じることと、国民のスマホのフル活用とは、どこかで連動していると思われた。

 「しかしだよ」と、大学教授が反論を展開。「アメリカ政府だって、国民の情報管理を徹底させているじゃないか。例のロシアにかくまわれているスノーデンを覚えてるだろ?アメリカ政府がアメリカ国民の携帯電話の90%を把握していることを、彼は暴露したんだ。WeChatや百度(はせいぜい中国どまりだけど、Googleとなれば世界中が利用している。だから、そのGoogleの元締めのアメリカは、世界全体の情報管理ができる状態にあるんだ」

 これを聞いたジャーナリスト、必死の抵抗を見せた。「『Google支配』というけれど、その検索能力の高さはだれもが認めている。中国人だって、少しでもまともな情報を得たいと思えば、多少の金を払ってでもGoogleを見ているんだ。Googleはアメリカ一国のためにあるんじゃない。自由を求める全人類のためにある。中国人だって、本音では『自由』を求めているんです」

 大学教授はそれでも引き下がらなかった。「そういう見方だから、君はアメリカナイズされているというんだ。自由というが、本当に自由なのかね。英国BBCが制作したドラマ『プレス』を見ただろ。『言論の自由』なんて、危いもんなんだ」

 アメリカ在住者が英国ドラマなど知るはずもなかった。教授によれば、このドラマは「真実の報道」を信じる正統派ジャーナリズムと、儲かれば何を報道してもいいという商業主義ジャーナリズムとの対立を描いたものだそうで、双方の言い分のどちらにも加担せず『客観的』に描こうとしているところがいいのだという。いわゆる「良識派」にすれば、真実の報道を標榜するジャーナリズムを歓迎するにちがいないが、ドラマの制作者はあえてそれに挑戦し、報道における「真実」とは何なのか、言論の自由がはらむ危険性についても、視聴者に考えさせようとしているというのだ。

 教授は力を込めてこう言った。「ドラマのなかに、英国政府が極秘にしている情報をかぎつけたジャーナリストに対し、政府が特別待遇を約束し、そのかわり情報を公表しないようにと働きかける場面があるんだ。『国民はすべてを知る権利がある』という良識にさからって、そんなことをすれば国民生活そのものが危険に晒されると政府の要人が迫る。そうなれば、ジャーナリストは難しい選択を迫られるわけだ。視聴者はこれを見て、言論の自由とは何なのか、今さらに考えさせられる。いいドラマとは、こういうドラマをいうんだ」

 旅支度をしなければならなかった私は、この興味深い議論を最後まで聴けなかった。しかし、家路につきながら思ったものである。中国に言論の自由がないというのはたしかだろう。だが、それにはそれなりの事情があるはずだ。その事情をこそ、これから現地で見てみよう。

 言論の自由ということでいえば、この日本はどうだろう。戦前から戦後へマスコミ規制が続いた日本。その体制は終わったかに見えて、マッカーサーの言論統制が、いつの日か内面化されて自己規制となっているのではないか。そういう日本に、どれだけの言論の自由があるというのだろう。広州へ向かう機中、そうした考えにつきまとわれた。

(つづく)

<プロフィール>
大嶋 仁 (おおしま・ひとし)

 1948年鎌倉市生まれ。日本の比較文学者、福岡大学名誉教授。 75年東京大学文学部倫理学科卒業。80年同大学院比較文学比較文化博士課程単位取得満期退学。静岡大学講師、バルセロナ、リマ、ブエノスアイレス、パリの教壇に立った後、95年福岡大学人文学部教授に就任、2016年に退職し、名誉教授に。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2019年04月25日 07:00
NEW!

世界を変える「ブロックチェーン」と日本発の可能性(3)

  国際政治経済学者 浜田 和幸 氏 アメリカとインド  ブロックチェーンは無限の可能性を秘めた新技術である。その応用範囲は広い。た...

2019年04月24日 22:57

ソフトバンクが逆転負け~守護神・森が乱調

   福岡ソフトバンクホークスは24日、ヤフオク!ドームでオリックス・バファローズと対戦し2-3で敗れた。  試合は1対1で迎えた5回裏、三森がフェンス直...

2019年04月24日 17:03

福岡空港滑走路増設、大成建設が19億で落札

   九州地方整備局発注の「平成31年度福岡空港滑走路増設用地造成外工事」を、16日、大成建設(株)が19億6,200万円で落札した。  大成建設は今後、滑...

2019年04月24日 15:44

唐津市でアート・プロジェクト「雑草」が開始~市内で鑑賞できる4カ所から「風車の上の雑草」を思う

   唐津市で自然電力とThe Chain Museum(以下:TCM)による共同プロジェクト「雑草」が始まった。TCMは「アーティストとともに独自の小さくユニークな...

2019年04月24日 15:30

レギュラーガソリン、全国平均価格148.4円~10週連続の値上がり・福岡は148.5円

   資源エネルギー庁が4月24日に発表した石油製品小売市況調査によると、4月22日時点でのレギュラーガソリン1Lあたりの全国平均価格は148.4円で、...

2019年04月24日 15:16

「八海山」の八海醸造、麴甘酒摂取による大腸炎や関節痛への効果を確認

   日本酒「八海山」の製造元である八海醸造(株)(本社:新潟県南魚沼市 南雲二郎社長)は19日、麴甘酒と乳酸発酵させた麴甘酒に大腸炎を予防する効果が期待できることを...

2019年04月24日 11:55

【スクープ】福岡大学東京事務所に「文科省天下り斡旋」のアノ人が就任?~大学側は「個人情報につき回答できない」

   2019年4月、福岡大学東京事務所長に吉田大輔氏が就任した。  データ・マックスが入手した情報では、吉田氏は元文部科学省高等教育局長を務...

2019年04月24日 11:40

福岡市西区周船寺に「糸ノコ男」が出没

  現場周辺は小学校や駅もあり、通学・通勤で人の往来が盛ん  福岡市西区周船寺1丁目の飲食店に、糸ノコをもった男が現れた。そのため福岡県警察は...

2019年04月24日 10:31

ゼオライトが社内木鶏成功事例発表大会の九州代表に選出~総勢50名で上京

   全国有数の井水利用技術(井水処理プラント)や産業用排水処理技術などをもつゼオライト(福岡市博多区)が5月11日開催の第9回社内木鶏成功事例発表大会...

2019年04月24日 10:11

千早駅前に「マックスバリュエクスプレス」~5月23日オープン

   マックスバリュ九州(株)(本社:福岡市博多区、佐々木勉社長)は5月23日に「マックスバリュエクスプレス千早駅前店」をオープンさせる。周辺は2000...

pagetop