2022年01月23日( 日 )
by データ・マックス

【検証】関空連絡橋衝突事故を振り返る~未曽有の衝突事故は防げたのか(6) 日之出海運(株)・清水満雄社長に聞く

 ――双錨泊には双錨泊のデメリットがあると、前回の取材時には話されておりましたね。

 清水 報告書の58ページのアンケート結果では、当時大阪湾内にいた28隻中17隻が単錨泊だったという結果が出ていますが、これは各船の船長が、双錨泊を用いることによるデメリット、リスクがあるということを知っていたからという側面もあると思います。錨を2つ下ろすことで船の固定力は強まるため、潮の流れも風の向きも一定であれば双錨泊のほうが適しているといえます。

 しかし台風のような刻一刻と風向が変化する状況下においては、2つの錨で固定されているため、操船によって船の向きを変えづらいという側面があります。逆方向からの暴風によって船の向きが変わると、鎖同士が絡まるリスクが生じます。万が一、鎖が絡まってしまった場合は係駐力がなくなり、走錨リスクがさらに高まります。その場で動けなくなってしまえば、サルベージ(海難救助)の対象にもなり得るでしょう。

 錨泊を行う際には船員を船の前方まで派遣する必要がありますが、これは単錨泊から双錨泊に変える場合にも同様です。台風のような状況下では、船員が甲板を移動する際や作業時には、暴風と高潮の影響による危険と隣り合わせで、海中転落により人命を損なう危険性を孕んでおります。

 双錨泊にはこのようなデメリットやリスクがあることも念頭に置かなければなりません。再発事故防止という観点で書くならば、そうしたデメリットも併記すべきではないかと思います。

 ――報告書では新たにケース7として、ケース5と気象・海象を同一の条件で、主機を使用しない状態から港内全速力前進とした場合で計算した場合、「プロペラ推力で錨泊状態を維持できる状態になった」とあります。さらにはケース8として、「ケース6と同条件で錨鎖の繰り出し量を220mにした場合は、風圧力、波漂流力およびプロペラ推力の合力とほぼ釣り合う結果となった(=走錨が止まった)」と記載されております。これを見る限りでは事故は防げたようにも思われますが・・・。

 清水 ケース7の場合は最大瞬間風速が28.8mという設定であるため、双錨泊を用いれば走錨が止まるということは予測できますし、その瞬間に限っていえば一時的に走錨は収まるかもしれません。しかし、実際その後の風速はどうだったかというと、弱まるどころかむしろ勢いを増しておりますので、ケース6の結果から判断すると、結果的に走錨は防げなかった可能性が高いと思われます。ケース8に関してですが、計算上そうなったとしても、そもそも宝運丸の錨鎖の繰り出し量は最大210mしか持ち合わせておりません。シミュレーション上とはいえ、ケース7とケース8の事例はそもそもの設定に無理があるのではないかとも思います。

 ちなみに、ケース1とケース5の設定では、主機は「不使用」とされていますが、実際はエンジンを切っておりません。このケースで「エンジンを切ったことが走錨および事故原因につながった」ともとられがちなのですが、もしエンジンを切った場合、30分ぐらいは船がまったく動けない状態に陥るため、そのようなことはしません(できません)。エンジンは常に回しておりましたし、プロペラも常に回っている状態で、あの状況下でエンジンを切るという選択肢は考えられません。

 ケース6の最大瞬間風速に関しても、関空島に設置された風速計の58.1mを公式記録として用いているようですが、宝運丸に設置されていた風速計は60mを振り切っていましたし、宝運丸の近くにいた船の最大瞬間風速は73.8mを指していたという記録も残っています。事故調査の際、この73.8mの記録を証拠資料として提出いたしましたが、残念ながら今回の報告書では採用されませんでした。

 ――報告書46ページの(6)~(8)にかけて、「ジョイスティックをホバーの位置に戻した」とありますが、この時の状況について詳しくお聞かせください。

 清水 ホバー状態と言うのは、エンジンもプロペラも動かしたままで舵を使い、船のポジションを維持する状態を指し、この状態になると船はその場に止まった状態になります。船長は対地速力が0になった際、走錨が止まったと思い、いったんジョイスティックを「ホバー状態」にしたことは認めています。なぜホバー状態にするのかというと、報告書の15ページの図を見てもらうとわかりますが、ホバー状態にしなければ船は微速前進を続けることになります。前進を続ける=錨を引きずる、錨を引きずる=錨が海底にきちんと引っかかっていない状態が続き、走錨の確率が高まるわけですから、時にはホバー状態にすることも必要なのです。これを行わないと、最悪の場合、鎖が切れてしまい、まったく錨が利かない状態になり、走錨し続けることになるのです。

 船長は適時、風の向きや強さに合わせてエンジンとジョイスティックを調整し、船を動かしておりました。走錨が止まったからと言ってエンジンを切ったわけではなく、ジョイスティックに手をかけ、いつでも動ける体制を整えておりました。報告書の要旨では、「ホバー状態にし続けた結果、再び走錨し、関空連絡橋に衝突した」とされておりますが、実際のところは、「船の動きを調整する動きの一環として、態勢を整えるために一旦ホバー状態にした」というのが正しい状況説明であり、最終的には全速前進を行っておりました。中身をきちんと読めばおわかりいただけると思いますが、ここについては、要旨できちんと述べてほしかった部分でもあります。

 ――事故調査報告書が公表されたことで、今回の衝突事故は1つの区切りを迎えたと思います。今後は補償に関する問題などが出てくると思いますが、現時点で動きなどはありますか?

 清水 今のところとくに動きなどはありませんが、今後各社から問い合わせが来ることはあり得ると思います。やはり、今回の事故で多くの人々に迷惑をかけてしまったわけですから…

 各社からの対応には、まずもって誠実に対応していきます。仮に賠償に関する説明がなされれば、こちらもきちんと説明する義務があります。基本的なスタンスは「真摯に対応していく」―これ以外には考えられません。

(了)
【長谷川 大輔】

(5)

関連キーワード

関連記事