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2019年07月08日 15:10

ビジネスリーダーに捧げる「アートの愉しみ方」!(前)

 今ビジネスの世界では、粗製乱造で希少性が失われつつある経営学修士・MBAとごく限られた人しか入学できない美術学修士・MFAで学位の価値が逆転しつつある。

 一方、シリコンバレーでは、2000年代初めにステム「STEM」(Science・Technology・ Engineering・Mathematics)という概念が教育界で提唱され、世界に定着したが、そこに近年「Art」が加わり、スティーム「STEAM」となった。世界の多くの企業や教育機関で、アートやデザインが重要視されるようになっている。しかし、どういうプログラムで超多忙のビジネスリーダーがアートを学べばいいのか。大学の授業風にギリシャから2000年の美術史を逐一追いかけなければならないのか。

 講演会(京大・東京オフィス)で上京中の美術ソムリエ・美術評論家の岩佐倫太郎氏に聞いた。美術館、博物館や博覧会の日本を代表するスペースプランナー・プロデューサーとして、広告代理店で長年海外ビジネスを経験してきた岩佐氏は「心配におよびません」と一言。それはなぜか。

美術ソムリエ・美術評論家 岩佐 倫太郎 氏

過去の積み上げではブレイク・スルーができない時代

 ――本日は「アート」を私たちはどのようにして、身近に置くことが可能になるかについて、色々と教えていただきたいと思います。先ずは、近年よく話題になる芸術学修士・MFAについてはどのように思われていますか。

ドイツ・ベルリンの国立美術館。
フェルメールの傑作「ワイングラス」の前で。

 岩佐倫太郎氏(以下、岩佐) MBAからMFAへの流れはここにきて少しずつ浸透してきたように思います。かつては、MBAでケース・スタディをたくさん記憶した人がエリート。その人がロジカル・シンキングやプレゼンテーションなどを学び、マーケティングや危機管理などビジネスの成功法則を蓄積すると、企業のかかえるさまざまな問題に対して、いち早くソリューションを与えることができるだろう、すなわちすばらしい経営者になれるだろうと思われていました。今から思うとわりと平和な時代でした(笑)。ところが世の中がドラスティックに変わりました。

 未来は現在の延長線上には存在しません。過去の積み上げでは、今の時代にはブレイク・スルーは見い出せません。そもそもの発想の方法論を変えないといけない、というか崖から飛ぶことを求められています。そのために座禅や断食などに走る人もいるし、超論理の創造的アプローチとして「アートやデザインの発想」があるんだろうと思います。MFAが今注目されている背景はそんなことではありませんか。

「美術脳」を活性化させ解放や癒しを得ることである

 僕は、今起こっているアートやMFAブームを、少し冷静に見たいと思っています。あおるつもりはありません。ましてや、美術の基本知識がないと欧米のエリートたちに太刀打ちできないとか言った脅しに似た言説が流れるのは危険だと思います。美術を知識に置き換えてコレクションするのがどれだけの意味があるんでしょうか。それはMBAの科目が増えただけのことになりませんか。我々はなぜ絵を見るのでしょうか。スペインの「アルタミラの洞窟壁画」を見れば、絵を描き、見ることは、古来、人間だれにもある根源的欲求であることがわかります。

 ただ、日頃の私たちは、数字や知識など、ロジックでがんじがらめになっています。これは現代を合理的に生きるためにはやむを得ないことです。しかしながら、眼や脳を合理的なものに奉仕するのをやめさせて、言葉のない色やかたちの世界に自由に放牧し、好きなように遊ばせてやることも脳の創造力の復活のために必要ではないかと思っています。

 ビジネスリーダー(以降、次世代リーダーも含む)など要職にある方はとくにそうです。アート体験は大げさにいうと、個人としてのよみがえりを図ることです。人間の脳はもともと遊び好きなんです。絵を見て、個人が解放や癒しを得て、「美術(アート)脳」を活性化することで直観力や創造力を得る、それがアート体験の最大の価値ではないかと僕は考えています。逆説的ですが、積み上げて多くのものを得ようとするのでなく、自分の今までの方法論を解体することなんですね。ここに早く気付いていただきたいなと思います。

ギリシャから2千年の美術史を逐一追いかけている?

 では実際にどういうプログラムで、ビジネスリーダーがアート体験をすればよいのか。ここが意外と盲点になっています。本来ならリベラル・アーツとして絵の見方を身に付ける、その必要最小限の技法がもっと語られてもいいと思うんですが・・。どこから入って、どの程度のことを把握しておけばいいのか。仮に大学の授業風にギリシャから2千年の美術史を逐一追いかけていたなら、いくら時間があっても足りません。また、たとえばバロックなどの絵画鑑賞には、聖書の知識、ギリシャ神話の知識などが必要です。

 僕の考えではこうした分野は後でいくらでも勉強することができます。いまいちばん重要な所を鷲づかみにし、手繰り寄せるには、絶対外せないポイントがあるんです。そこをお話しします。しかし、日本の多くの美術史家は専門に別れてタコツボ状になっているので、俯瞰的に美術史を見て今のビジネスパースンがどういう手順で、リベラル・アーツとして絵を学んでいったらいいか、などと言ったことは多分いえないでしょうし、また関心もないでしょう。そのあたりで僕の美術ソムリエとしての出番があると思っています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
岩佐倫太郎氏(いわさ・りんたろう)
 
美術ソムリエ・美術評論家
 大阪府出身。京都大学文学部(フランス文学専攻)卒業。大手広告代理店で、美術館、博物館や博覧会などの企画とプロデューサーを歴任。ジャパンエキスポ大賞優秀賞など受賞歴多数。「地球をセーリング」(加山雄三)ほか作詞。美術関係の記事を企業のPR誌や雑誌に執筆するほか、大学やカルチャー・センターで年間50回を超える美術講演をこなす。近著として『東京の名画散歩~印象派と琳派がわかれば絵画がわかる』(舵社)。美術と建築のメルマガ「岩佐倫太郎ニューズレター」は、多くのファンをもつ。ブログは「iwasarintaro diary」。

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