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2019年07月31日 12:27

【NEXT(次世代)カンパニー】AI点検ロボットで インフラ点検業界に挑む(前)

オングリット(株)

オングリット(株)の森川春菜・代表取締役(右)と
森川歩・取締役コンクリート構造物・研究開発事業部調査技術部本部長

 オングリット(株)は、独自開発したAI(人工知能)ロボットやテレワークを活用し、橋梁を始めとする道路構造物の点検などを手がけるベンチャー企業だ。同社の売りは、現状経験者に頼っている道路構造物の点検業務などを、AIロボットなどを活用することで、「素人でもできる」簡単な作業にした点にある。

 2018年3月、わずか3名で起業して以降、主に九州地方の橋梁やトンネル点検を約15件受注した。実質稼働期間は半年程度だったが、3,600万円を売り上げ、社員を10名に増強、初年度から黒字スタートを切っている。19年3月には、北九州市に研究拠点を設置。同社は、「日本アントレプレナー大賞」受賞を始め、数多くのビジネスコンテストで入賞をはたしている。「道路構造物の点検」というニッチな業界で、同社は何に挑んでいるのか。

問われる社会インフラ点検のあり方

 国土交通省によると、2018年3月の時点で全国に約73万橋(橋長2m以上)の橋梁があり、33年には、建設から50年を経過した橋が約63%を占めるようになる。トンネルは全国約1万1,000本あり、33年には50年経過のトンネルが約42%に上る。橋梁やトンネルなどの構造物は、コンクリートや鉄などの経年劣化により、徐々に損傷腐食していく。損傷腐食が進むと、崩落や倒壊のリスクが高まる。9名の死者を出した12年12月の中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故も老朽化が原因だった。社会インフラストラクチャー(インフラ)の老朽化対策は、国を挙げた大きな課題になっている。

 社会インフラの老朽化による事故などを未然に防ぐには、定期的な点検が必要になる。同省は14年、道路維持や修繕に関する具体的な基準などを定めるために道路法施行規則を改正。橋梁など道路構造物の点検は、「近接目視により、5年に1回の頻度で行うことを基本とすること」とし、点検態勢の強化に乗り出している。

 市町村道の点検は、原則として道路管理者である市町村が行うことになっている。福岡市など規模の大きな自治体では点検ノウハウをもった技術職員が作業を行うが、規模の小さな自治体では技術者が不足しており事務職員が点検業務を担当するケースもある。このようなケースの場合、実際の点検業務は、職員のノウハウの有無にかかわらず、民間のコンサルタントに丸投げすることがほとんどだ。

 橋梁点検を行うコンサルタント会社には、全国に出先をもつ大手から地方の零細企業までさまざまあるが、実際の点検業務は、やはり資格やノウハウをもつ技術者を社員として抱える専門会社がコンサルタント会社から請け負うケースが多い。

 基本的に1つの現場につき、現地点検を始め、書類作成、写真整理などのデスクワークを担当技術者が行う。現場での点検作業は、目視で損傷箇所を見つけ、野帳に手書きで記入した後、デスクワークを行うスタイルが一般的であり、長時間労働が常態化している。「1日16時間働かないと、仕事が終わらない」という声もあり、過酷な労働条件のため人手不足も深刻化している。

AIとテレワークを組み合わせ新たなインフラ点検ビジネスを

 「AIロボットで点検し、テレワークでデスクワークすれば、人手不足を解消できる」―。社会インフラの老朽化対応が国家的課題となっている今、オングリット(株)が目をつけたのが、ここだ。独自開発したAIによる画像解析システムと作業ロボットによる現場点検により業務を半自動化。同じく独自開発した「CADアプリ」システムにより、CAD図面を作成、納品するやり方だ。

 どちらの業務も、システムの操作さえ覚えれば、点検の素人でも作業が可能になる。点検データを自社クラウド上で共有化することで、CADアプリ作業は全国どこにいてもテレワークでの作業が可能になる。システム開発の陣頭指揮を執ったのが、森川歩・取締役本部長だ。

 歩取締役はこれまで、橋梁メンテナンスなどを手がける東京の建設会社で、道路構造物などの点検に必要なツール開発に携わっていた。具体的には、iPhoneのパノラマ機能を利用した構造物の歪み補正アプリ。歪み補正のほか、ヒビ割れや損傷箇所も抽出できるツールなどを開発してきた。「みんなが便利になるものをつくりたい」という情熱に溢れるアイデアマンだ。

 AIロボット&テレワークによる道路構造物点検を思いついたのは、当時、専業主婦だった妻である森川春菜・代表取締役の「シングルマザーは仕事がないみたい。何とかできないかな」という言葉がきっかけだった。歩取締役は「建設業界なら、シングルマザーの仕事を生み出せるかもしれない」と考えた。なぜなら「保守的な建設業界では、医療業界など異業種ではすでに陳腐化している技術でも、最新技術になる場合がある」と考えたからだった。

 当時2人は大阪で暮らしていたが、「なんとなく好き」という理由で福岡に移住。ある橋梁点検会社を買収しオングリットを起業、福岡市の支援を受け、スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」の一角にオフィスを構えた。

(つづく)
【大石 恭正】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:森川 春菜
所在地:福岡市中央区大名2-6-11
仮オフィス:福岡市博多区綱場町2-2
本 店:北九州市若松区ひびきの1-8
設 立:2018年3月
資本金:100万円(連結200万円)
TEL:050-3568-3248
URL:https://www.on-grit.com

<記者プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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