2024年04月20日( 土 )

【ネクスト(次世代)カンパニー】水産業でのプラットフォームビジネスに一生を賭ける(前)

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(株)ベンナーズ 代表取締役 井口 剛志 氏

 「日本の水産業が抱える構造的な課題は、プラットフォームビジネス(以下、PB)で解決できる」。(株)ベンナーズは、生産者とバイヤーが直接売買できるプラットフォーム「Marinity(マリニティ)」の開発運営、卸販売などを手がける。井口剛志代表は福岡大学附属大濠高等学校を中退し、単身渡米。現地大学でアントレプレナーシップ(起業家精神)などを学びながら、昨年4月に起業した。水産業を選んだのは、「非効率な日本の水産業の流通構造を変えたい」という思いがあったから。

 また、祖父母、父親が水産業を営んでいたことが大きく影響している。衰退産業といわれる日本の水産業。24歳の若き経営者は、どのようなソリューションを携え、新たなビジネスの大海原に漕ぎ出そうとしているのか。

<プロフィール>
井口 剛志(いのくち・つよし)

 1995年5月26日長崎生まれ福岡育ち。2011年4月大濠高校入学。12年3月同校中退。同年8月John Bapst Memorial High Schoolに編入留学。14年9月ボストン大学経営学部(Questrom School of Business)に進学。18年4月にベンナーズ創業。同年12月に大学を卒業。19年5月からFukuoka Growth Next(FGN)入居開始。趣味は釣りと温泉巡り。好きな言葉は、バスケット漫画『スラムダンク』の登場人物・安西先生の決まり文句「諦めたら、そこで試合終了ですよ」。

祖父母、父親が水産会社を経営していた

 (株)ベンナーズ・井口剛志代表の祖父母は、鳥取県米子市で総合水産会社を営んでいた。日本の水産会社として初めて液体窒素冷凍を導入したほか、海外に刺し身工場を設置するなど手広く事業を行っていたが、井口代表が幼稚園のころに、あえなく倒産。祖父母の会社の従業員だった父親は、長崎へ移り、新たに水産会社を起業。ほどなく福岡市内に会社を移転した。井口代表は少年期の多くを福岡で過ごした。

 人生の転機が訪れたのは、福岡大大濠高校1年生の夏休み。経団連主催、宗像市で開催された「高校生のための日本の次世代リーダー養成塾」に参加した際、米国の高校に通う日本人の学生と知り合う。「高校から留学できるんだ」と感銘を受け、1年生の終わりに退学。2年生からメイン州のJohn Bapst Memorial High Schoolに編入留学する。

 渡米当初は戸惑ったが、3カ月もすると英会話にも慣れた。無事高校を卒業し、ボストン大学経営学部(Questrom School of Business)に進学する。専攻はアントレプレナーシップと経営学。いつか自分で起業するという思いはあったが、「その前に社会人としての修行を積もう」と思い立ち、在学3年目に就職活動を始める。そして、日本のある総合商社から内定をもらう。

高校時代のホームステイ先のホストファミリーと

PBを学び就職から起業にシフト

ビジネススクールのクラスメイトと
(左から2人目が井口代表)

 内定後、次の転機にめぐり合う。プラットフォームビジネス(PB)のエキスパートで、マサチューセッツ工科大学(MIT)でも教鞭を執るAndrei Hagui教授のプラットフォーム戦略を受講したときのことだ。PBとは、「複数のプレイヤーがお互いに直接情報交換や商品の売買などを行うことができる仕組み、場を提供し、当事者間の取り引きを容易にする」ビジネスを指す。「日本の水産業に必要なのは、まさにPBじゃないか」と衝撃が走った。「やるなら今だ」ということで、就職から起業にシフト。その年の4月、べンナーズを立ち上げた。

 社会人経験がない、人脈もない状態から起業するのは、やはり不安があったが、祖父母、父親が培った水産業の人脈がある。「自分にはお金では買えない人脈という財産を活用できる」と考え、踏み切った。社名は、エジプト神話の不死鳥「ベンヌ」にちなんだ。「最後まで決してあきらめない」という井口代表の思いが込められている。起業の場所として、「起業家にフレンドリーなまち」である福岡市を選んだ。

 この決断に対し、両親や親族から反対の声が挙がった。「せっかく内定をもらっているのに、それを捨てて起業するヤツがあるか」というわけだ。投資筋の反応も芳しくなかった。「水産業なんて衰退産業なのに、なぜそこで起業?」とまったく乗ってこなかった。

 これらは当然といえば当然の反応だが、井口代表は「いや、日本の水産業にはまだまだノビシロがある。60兆円ある食品流通全体の電子商取引(EC)化率はわずか2.4%。水産業界は1%を割ってくる。そういった意味では、まだまだ水産業界はブルーオーシャン!」と押し切った。周りを説得するに十分なエビデンスがあったわけではなかった。「なんと言われようと、最後まであきらめない」という意地と、根拠のない自信だけだった。

 井口代表の同級生には、無料タクシー「nommoc」などを運営する(株)nommocの吉田拓巳さんがいる。起業に際しては、吉田さんからアドバイスを受けた。「彼は10歳からお金を稼いでいた」そうで、それを横目に少年時代をともに過ごしたという吉田さんからの影響が少なくないようだ。後述する同社システム開発は、吉田さんが手がけるフィリピンの会社の協力を得た。「お友達価格でやってもらった」と明かす。

(つづく)
【大石 恭正】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:井口 剛志
所在地:福岡市中央区大名2-6-11
設 立:2018年4月
資本金:1,700万円
売上高:(19/10見込)2,500万円

<記者プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)

立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com

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