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2019年10月07日 07:00

高齢者への出資はコストでなく投資である(後)

神奈川県立保健福祉大学 学長 中村 丁次 氏

「疾病リスク低減食」と「栄養リスク低減食」に分類

 介護予防やフレイル予防を想定した場合、「特別用途食品」について私なりに提案があります。まず、特別用途食品を「疾病リスクを低減する食品」と「栄養リスクを低減する食品」との2つに分けることです。疾病リスク低減食品は、薬理作用を補助して治療効果を高めることができる食品です。

 たとえば、低たんぱく食品、脂質調整食品、低糖質食品、アレルゲン除去食品などを「疾病リスク低減食品」とし、味覚を改善し消化吸収・代謝を促進し、自然治癒力を高めるものを「栄養リスク低減食品」と位置付けてはどうでしょうか。今はこれらが混在していますが、疾病リスクと栄養リスクという目的に応じて明確に分類すれば、高齢者にとっては、もっと使いやすいものになるでしょう。

 医療においても、病態や治療法により栄養障害が発生します。そして、その状態を放置すると栄養性疾患が発生し、薬物治療、外科療法、リハビリ療法の効果が低減します。傷病者であればこそ積極的な栄養・食事療法が必要になりますので、病者用、高齢者用食品、栄養補助食品の開発と積極的活用が必要になるのではないでしょうか。

75歳を超えると医療費は下がる

 話は先程のWHOレポートの内容に戻りますが、高齢社会における医療費負担の問題についても「高齢化=医療費増加」といったステレオタイプの発想を変える必要があります。この点についてWHOレポートでは、「高齢化が進むと保健医療のコストが維持できなくなるといった固定観念があるが、その根拠は不確かなものである」と指摘しています。

 一般的に、高齢者が増加するのにともない健康・医療ニーズは増加するというイメージがあり、財政的には負の側面が強調されますが、高所得国のなかには、1人あたりの医療費がおよそ75歳を超えると大幅に下がっている国もあるのです。世界的に高齢化はますます進んでいます。人々が長く健康的な生活を送れるようにすることが、医療費の膨張という負担を実際に軽減することになるでしょう。

 この点についてWHOレポートでは「高齢者への出資は投資であって、コストではない」と指摘しています。最後にその部分を紹介したいと思います。

※クリックで拡大

 「保健システム、介護、より広範な対応を可能とする環境づくりへの出資が、コスト(費用負担)と表現されることがよくある。このレポートでは、それとは異なるアプローチをとる。これらの出資を投資として捉えるのだ。その投資により、高齢者の能力を培い、その結果として満足できる生活が可能となり、高齢者が貢献できるようにもなる。また、こうした投資により、高齢者の基本的権利に関する責務を社会が果たせるようにもなる。経済的合理性の枠組を再構築することで、コストを最小限に抑えることに焦点をあてた議論から、社会が適切な運用と投資に失敗すれば、失ってしまうであろう利益を考慮した分析へと、議論を移すことになる。政策立案者が本当の意味での情報に基づく政策を打ち立てようとするならば、投資とそれにより生じる利益の程度を十分に定量化し考察することが非常に重要となるだろう」(WHO「高齢化と健康に関するワールドレポート」。

(了)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
中村 丁次(なかむら・ていじ)

 1948年生まれ、山口県出身。徳島大学医学部栄養学科卒、医学博士(東京大学)。聖マリアンナ医科大学病院を経て、2003年から神奈川県立保健福祉大学教授、11年から同学長に就任。(公社)日本栄養士会会長、日本栄養学教育学会理事長、日本臨床栄養学会副理事長、日本栄養・食糧学会評議員、厚生労働省「日本人の長寿を支える『健康な食事』のあり方に関する検討会」座長など。日本静脈経腸栄養学会名誉会員、聖マリアンナ医科大学内分泌代謝学客員教授。

 主な著書:「からだに効く栄養成分バイブル(最新改訂版)」(主婦と生活社)、「身体診察による栄養アセスメント 症状・身体徴候からみた栄養状態の評価・判定」(第一出版)、「食生活と栄養の百科事典」(丸善)、「子供の肥満を防ぐ100のレシピ」(成美堂出版)ほか多数。

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