2024年04月16日( 火 )

浦江をここ数年で「中国一ゴミのない」県に再生させた政策科学の力!(3)

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立命館大学政策科学部教授 周 瑋生 氏

周 瑋生氏を挟んで、向かって(左)中川十郎氏、(右)張沖氏
周 瑋生氏を挟んで、向かって(左)中川十郎氏、(右)張沖氏

政策科学とは「社会に対する処方箋」のようなもの

 周 さて、ご質問の政策科学ですが、「社会における問題の原因を明らかにしたうえで、多様な利害関係者の立場を考慮しながら、最善の解決策を提示する“問題解決型”の学問」と言われています。政策科学の研究では、社会で起きている具体的な問題に対して、その本質をみきわめ、社会的効用を最大化すると同時にコストとリスクを最小化する解決策を提示していくことが重要です。

 そのために、社会科学の基礎を幅広く学び、それらを総合して、現場で実践し、そのプロセスで得た知見を理論と交互にフィードバックして学びを深めていきます。目の前の問題を解決したつもりでも、別の問題が起きたり、後になってもっと大きな問題が出てきたり…。「個別の最適化ではなく、全体の最適化を図りたい」というのが、システム思考と政策科学であり、大局の流れを読み、全体像を把握しながら、本質的で持続的な働きかけを探るアプローチです。

 私はわかり易く「社会に対する処方箋」のようなものであると表現しています。人間は病気になれば、医者に行って診断を受け、処方箋に基づいて薬をもらうなどして病気の治癒に務めます。その場合、病気の治療を最大限にすると同時に、早く、無痛で、副作用などが少なく治癒することが望まれます。社会も同様です。

 たとえば、急速な経済発展をすれば、数多くの産業廃棄物、生活廃棄物が必然的に生まれます。その廃棄物を、地球・環境問題を念頭に置きながらどのように処理していくかがとても重要になってきます。今、全世界で話題になっている原子力問題も同様です。「中止するのか、中止しないのか」どちらを選択してもそのデメリットを最小化するための処方箋を提供するのが、私たち政策科学研究者の仕事です。

 張社長が推進する「浦江ごみ処理モデル」について、私の研究室では、計量評価しています。-1経済性(事業として採算がとれるかどうか)-2社会性(社会の進歩と発展に効果的な影響をおよぼしているかどうか)-3環境性(ゴミだけでなく二酸化炭素などほかの環境物質の低減につながるかどうか)-4持続性(長期的にこのモデルは持続可能かどうか)の4つの点で評価し、この「浦江モデル」そのものはとても効果的効率的なものであると分析しています。

 「浦江ごみ処理モデル」は以下の3つの特徴をもっています。1つ目は、浦江県は、東沿岸地域の浙江省に位置し、都市化率が全国平均レベルで、中国の都市農村二元複合型地域であり、生ごみの割合が高く経済発展レベルが比較的に高い農村地域の特徴をもっています。2つ目は、ごみ分別遵守率が約90%で、ごみ減量化率が50%と大きな成果を収めています。3つ目は、官民連携のPPP(Public Private Partnership)モデルを生かし、政府と民間企業提携(政府・企業・住民・共産党員の4者が協働)のかたちで生活ごみの資源化を中心としたごみ分別収集処理システムを構築しています。

 ただし、中国の特色ともいえる「党建+」制度(ボランティアとして共産党員にごみ分別の指導と分別効果をチェックするなどの仕組み)は、厳格なごみ分類に効果的ではあるが、担当者の業務量が増加し、負担が大きいという課題も残っています。

環境問題先進国の日本で学んだ経験が役立っている

 張 日本の立命館大学政策科学部の周先生の研究室で学んだこと、そして環境問題先進国の日本で学んだ経験が今とても役立っています。約10年前の私の日本留学時代、浦江は水晶ガラス加工などの廃液で河川も汚れて、水が白色となり、「牛乳の河」と揶揄されており、都市部も農村部もゴミだらけでした。私は自分が住んでいた日本の京都と比べ、常に残念に思っていました。周先生の教えの1つに「後発者利益」というものがあります。環境問題に関しては、発展途上国は先進国に学び、その経験を生かしながら、自国の問題を解決していくことが重要であるという意味です。

 それは、たとえば日本で公害問題が起こった1960年代・70年代に開発されていなかった技術は今普通に手に入ります。そのため、公害問題に対処する時間も短縮でき、効率も上げることができます。

 日本は1960年代に、世界的にも注目された「四大公害病」(水俣病・新潟水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそく)を経験されました。もちろん、欧米の経験も大切だとは思いますが、やはり一衣帯水で、文化も似ており、近代一時期を除けば、歴史的にも密な交流関係にあった日本から学ぶことはとても大切であると実感しています。

金獅湖 改善前
金獅湖 改善後
翠湖 改善前
翠湖 改善後

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
周 瑋生氏(シュウ・ウェイション)

 1982年浙江大学工学部熱物理工学専攻卒(工学学士)、1986年大連理工大学大学院動力工学科専攻修了(工学修士)、1995年京都大学大学院物理工学科高温物理工学専攻(工学博士)、1995年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員として(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)に勤務(研究員)、1998年RITE主任研究員、1999年立命館大学法学部准教授、2000年立命館大学政策科学部准教授、2002年から現職。

 これまでRITE研究顧問、立命館孔子学院初代学院長(現在名誉学院長)、立命館サステイナビリティ学研究センター(RCS)初代センター長、大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、東京大学大学院原子力国際専攻客員研究員、浙江大学、大連理工大学、北京大学、上海交通大学、同済大学、中国浦東幹部学院、四川大学など複数大学の客員教授を併任。全日本華僑華人聯合会名誉会長(初代会長)、日本浙江大学校友会名誉会長(初代会長)、日中発展促進会会長など日中関係で数多くの要職をもつ。

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