2024年04月24日( 水 )

【凡学一生のやさしい法律学】さくら疑獄事件(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

はじめに 命名の由来

 さくら疑獄とは安倍晋三総理大臣主催の国家行事である「桜を見る会」をめぐって発生した一連の政治的疑惑について伊藤乾氏が命名したものであり、簡明であるゆえ、筆者も借用することとした。

 さくら疑獄では毎度のこととはいえ、公務員の詭弁に振り回される野党議員の浅知恵疑惑追及に、そろそろ国民はウンザリしかかっている。筆者の解説が多少とも国民の疑念の解消と溜飲を下げることに役立つことを期待したい。

1:事件の本質

 総理大臣主催の国家行事であり、巨額の国家資源・税金が投入された行政行為(事実行為)であるから、それに関する一切の文書記録は、必要な限り、保存されなければならない。これが基本的に公文書管理法の制定理念である。(同法第1条)

 現在、本年度に開催された「桜を見る会」(以下同会)が不当な政治目的などに利用されていないかという疑惑が生じており、その疑惑を解消することも「必要な限り」に含まれることはいうまでもない。国家資源・税金の正当な使用方法に関する問題提起だからである。

 具体的には同会に招待した招待客名簿が開催後のわずか1カ月も経たない、しかも野党国会議員の開示請求直後に廃棄処分された行為の当否が問題となっている。

 菅義偉官房長官は、ルールに従った適正な廃棄処分であると繰り返し説明した。それは、

 同名簿は保存期間が1年未満とされた文書であるから、その規定に従っており何らの違法性はないという。従って、同名簿を保存期間が1年未満と規定することが適法であるか否かが法的論点である。ただし、念の為説明するが、同名簿が直接1年未満の保存期間文書とする規定が存在するのではなく、同名簿は公務員の解釈によって、つまり法的には総理大臣安倍晋三の解釈によって、保存期間が1年未満文書とされたものであるから、論点はその解釈が妥当か否かである。

2:法的評価の重複性

 三木由希子氏によれば、同名簿が保存期間1年未満とされた根拠は、内閣府課長級が決定権限を付与された「保存期間表で定めたもの」であり、一方、安倍事務所から送付された推薦者名簿は「定型的・日常的な業務連絡、日程表等」であるから、ともに、公文書管理法の運用指針である文書管理ガイドライン(2017年12月改定)による1年未満に該当する場合の7つの基準に該当するとされた。(11月29日 現代ビジネス)

 まず、同名簿と安倍事務所送付推薦者名簿とは一見、文書の法的性質が異なるように見えるが、メールにしろ文書にしろ、推薦者名簿は官公署に提出された時点で、公用文書となるのであり、公務員が業務で作成した文書であれ、業務で受領した私文書であれ、行政行為たる事実行為の桜を見る会の業務執行に不可欠の文書として組織的に使用利用した文書であることに変わりがない。ちなみに、公文書管理法第2条第4項の「行政文書」の定義では公務員が作成した文書と取得した文書を一括して行政文書と定義している。

 問題は法的評価(要件事実の定義)の重複性が完全に無視されていることである。しかもその結果は基本法の文書管理法そのものを否定する結果となっていることである。

 同会の執行は国家資源・税金を多額に費消する重大な行政行為(事実行為)であるから、それの適法性を根拠づける一切の文書はそれ相応の保管方法(ファイル管理)と保管期間が法定されている。

 公文書管理法の規定を確認すれば、招待者名簿と推薦者名簿はともに行政文書に該当する(同法第4条第2項)。そして、行政文書の保存期間については公文書管理法施行令の別表に具体的に規定されている。別表では5年から30年の期間のみが規定されており、1年未満の行政文書など存在しない。つまり、行政文書であるかぎり、少なくとも5年以上の保存期間が法定されている。結局、招待者名簿と取得した推薦者名簿はともに行政文書ではない、との解釈が前提となっている。野党議員は誰もこの行政文書該当性の問題を追及しないため、公務員の詭弁も聞かれない。

 招待者名簿と推薦者名簿がともに行政文書であれば、保存期間満了後にしか廃棄はあり得ないから、廃棄当否の議論の前に、保存期間の議論がないのは極めて奇妙という他ない。また、そもそも行政文書でなければ、廃棄の当否そのものが、まったく問題・議論にならない。野党議員の頭のなかは一体どうなっているのかと心配してしまう。

 要件事実定義の重複は法律論では頻繁に発生している。民法理論で有名なのが請求権の競合であり、刑法理論で有名なのが、観念的競合である。さくら疑獄事件では公文書管理法・同施行令の規定と公文書管理法運用ガイダンスの競合ということになる。

 定義要件事実の競合の場合、法令の全趣旨を合理的に考案して妥当な結論を導くことが当然の論理的結論となっている。行政文書の保存は可能な限り長期であることが望ましいのであるから、1年未満というそれ自体無意味な期間定義を選択すること自体が違法であることは明白である。

 具体的に示せば、安倍事務所から送付された推薦者名簿は「定型的・日常的な業務連絡、日程表等」という要件事実定義に該当するため保存期間1年未満文書に該当するとされたが、内閣府が「定型的・日常的な業務連絡」として安倍事務所から推薦名簿を受け取ることなどあるはずもない。完全に内容を無視した一部の外形的共通性だけを取り上げた詭弁そのものである。運用ガイダンスは純然たる定型的・日常的な業務連絡を意味するのであり、年に一度しか開催されない「桜を見る会」は文字通り、非日常的である。

 招待者名簿が「保存期間表でさだめたもの」に該当するから、という理由に至っては、もはや、保存期間表を作成する権限者(本件では課長級クラスとされている)の恣意的判断に保存期間を委ねたに等しく、まったく正当性も合理性もない。それ自体が違法である。課長クラスが経験的に保存期間が不要なもの・些末的なものを適正に判断選択できることを前提として正当性が認められるもので、課長クラスにフリーハンドを与える趣旨は毛頭ない。

(つづく)

(2)

関連記事