2024年04月23日( 火 )

アロマセラピーで認知症を予防・改善(後)

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星薬科大学先端生命科学研究所ペプチド創薬研究室
特任教授 塩田 清二

香りによる認知症の改善

 認知症の改善に、香りの効果があることが証明されている。嗅覚とアルツハイマー病が密接に関係していることがわかってきたが、すでに香りが認知症患者の周辺症状の治療に有効であることは経験的にいわれていた。

 抑うつや不眠障害については、アロマセラピーが効果的なことは古くから知られている。しかし、アルツハイマー病の中核症状である認知機能障害についての有効性はまだ検討されていなかった。

 我々は、横浜市にある老健施設において、医師の協力の下で交感神経系を活性化するレモンやレモングラスなどの柑橘系の香りを用いて毎日2時間芳香療法をアルツハイマー病の患者さんに施術した。

 その結果、患者さんは日中活動的になり、夜は疲れてよく眠れるようになった。その結果、生活リズムが整い、物忘れなどの中核症状が改善されることがわかった。認知症の初期、中期、末期いずれの時期においてもレモングラスにより芳香療法が効果的であることが実証された。

 また、NIRS装置を使って被検者の患者さんの脳機能を調べたところ、レモングラスの香りは大脳の前頭葉の脳血流量を有意に増加させることが確認された。

アルツハイマー病にアロマセラピーが効果

 我々の臨床研究で、高度のアルツハイマー病患者でもアロマセラピーに一定の効果が見られることがわかった。脳が機能不全を起こしているアルツハイマー病の重症の患者さんでも認知症改善効果がみられたことから、アロマセラピーが認知症の症状改善の有望な手段になり得るということになる。

 現在臨床で使用されている認知症の薬は、症状を遅らせる効果はあるが、認知能力をあげる点ではまだ効果が低いといえる。アロマセラピーを、従来の西洋医学的治療と併用することで、認知症の予防や改善に役立つことが期待できる。

 最近我々は、認知症の予防や改善を目的として「忘れないで1日2時間マスク」を製造・販売することになった。このマスクを装着すると2、3分で大脳皮質前頭葉の脳血流量が上昇し、集中力が増加してやる気が出てくるということもわかってきた。

 また、このマスクにはレモングラスのセルエキストラクトを用いているが、低温真空抽出法で作出した天然の細胞水を使っており、一切化学香料を使用していないのが特徴である。

 天然の香りを嗅ぐことによって免疫機能の向上や精神安定作用、あるいは記憶の神経回路の調節など、ヒトの健康のみならず社会行動にも嗅覚情報は深く関与している。

 さらに嗅覚に関与する嗅細胞の神経再生の本質的理解が進めば、嗅覚障がいの予防・治療法の開発、脳や脊髄の神経再生医療にもつながると考えられる。

 今後、認知症などの精神神経疾患の予防や改善にアロマセラピーが役立つと考えられる。また、セルエキストラクトを用いたマスクを装着すれば高齢者のドライバーの事故防止やさらにうつ病対策にも使えると我々は考えている。

(了)

参考文献:『<香り>はなぜ脳に効くのか アロマセラピーと先端医療』塩田清二著(NHK出版新書)2012刊

<プロフィール>
塩田 清二 (しおだ・せいじ)

 早稲田大学卒業後、新潟大学大学院修士課程修了。昭和大学医学部にて医学博士号を取得(1983年)。アメリカのチューレン大学客員教授、昭和大学医学部顕微解剖学講座主任教授(1999年〜2015年)を経て現在、星薬科大学特任教授。2018年に中国ハルビン医科大学の客員教授に就任。日本アロマセラピー学会名誉理事長、糖尿病肥満動物学会の名誉会員。「米田賞」「後藤賞」を授与。VIP/PACAP関連ペプチドおよびRegulatory Peptides国際学会の理事。英文原著論は500を超える。

(前)

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