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2020年01月28日 16:52

【特別寄稿】コロナウィルスの蔓延する中国の現状

福岡大学名誉教授 大嶋 仁 氏

 広東省の珠海から九州に戻ったのは10日ほど前だ。すでに武漢で新型ウイルスによる肺炎が発生し、それが少しずつ各地に波及しているということは聞いていたが、これほどになるとは思ってもいなかった。今になってみると、いい時に帰ってきたと思う。珠海と武漢の距離は1000km以上。ウイルスによる発病者が珠海で見つかったのは、日本に戻って数日後のことだ。

 中国にいる時は、いつもマスクをかけて外出する。中国人でもマスクをしている人がいるが、空気汚染で喉や肺がやられないようにするためである。私の場合は、それもあるが、道を歩いているとあちこちに生ゴミが散らかっており、「衛生の悪い国だ」という印象があるからだ。あちこちで悪臭がするのも我慢できない。中国ではマスクが売り切れになり、値段も高騰しているという。日本に来る中国人旅行者は大量にマスクを買って帰るそうだ。中国は経済大国には違いないが、発展途上国でもある。

 それにしても、やはり気の毒である。せっかくの春節だというのに、外出も思うままにできないとは。北京の友人は故郷の長春に帰るのをあきらめたという。広州の友人はほとんど家から出ないそうだ。中国全体が天罰をくらったかのように沈痛な面持ちでいる。

 中国政府の対策は大変厳しく、武漢は完全に閉ざされてしまった。主要都市の繁華街も人っ子1人いない状態になっているという。そういう緊急体制を敷ける政府など、世界のどこにもないだろう。これを「全体主義」などと非難することは誰にもできまい。

 EUの保健部門の代表が言っていた。「中国政府のとった措置はヨーロッパでは到底できないことだ」と。アメリカの大学で教鞭をとる中国人教授は自国の政府の「断固とした姿勢」を賞賛している。しかし、中国政府にはそうしなければならない事情があるのだ。

 というのも、今度のウイルスは国家体制をも揺るがしかねないからだ。政府もそれを知っているから、必死なのだ。昨年の国慶節のときのメディア対策の厳重さを思い出す。中国に住む外国人のネットユーザーのほとんどがGoogle検索のためにVPNというソフトを使っている。それがないと、中国でGoogleを使うことはままならないからだ。しかし、国慶節のときばかりは、それがまったく機能しなかった。

 政府は情報コントロールを徹底させたのだ。しかし、生物としてウイルスは、そうした制御装置がなかったために蔓延してしまった。政府として予想外の落とし穴である。経済発展に拍車をかけてきたこの国の勢いを確実に削ぐ病原菌。これを食い止めなければ、政府の面目は丸つぶれとなる。

 中国人は国家体制に忠実で、世界のなかで模範的な国民と言ってよい。しかし、この国の民衆は、ひとたび政府が信用できないと感じるや、一気に立ち上がることは過去の歴史が示している。そのことを誰よりもよく知っているのがほかならぬ政府である。だからこそ、政府は言論を徹底して統制するのだ。日本など、その点では政府にとって極めてやりやすい。メディアや世論をそこまで操作せずとも、国体は動かない。

 「一帯一路」を掲げ、アメリカに対抗する勢力圏を構築しようとしてきた矢先の中国。世界におけるこの国の評判はウイルスの脅威でガタ落ちになるおそれがある。であればこそ、政府は国家の威信をかけてウイルスと戦う。人命以上に大切なのが国家だからだ。

 この緊急問題の根本原因は何か。私が日常感じている不潔さ、衛生管理の欠如、それに尽きるのではないだろうか。今のままでは国民は安心して飲食できない。食べて飲んで皆で歌を歌い、踊る。これが中国人の日常には不可欠であり、政府はそれを国民に確保しなくてはならないのである。安心して暮らせる環境づくりを優先させねばなるまい。国家の経済発展ばかりを追求していては、国の安定は保てなくなる。

<プロフィール>
大嶋 仁 (おおしま・ひとし)

 1948年鎌倉市生まれ。日本の比較文学者、福岡大学名誉教授。 75年東京大学文学部倫理学科卒業。80年同大学院比較文学比較文化博士課程単位取得満期退学。静岡大学講師、バルセロナ、リマ、ブエノスアイレス、パリの教壇に立った後、95年福岡大学人文学部教授に就任、2016年に退職し、名誉教授に。

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