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2020年02月13日 07:00

「検察崩壊元年」ゴーンの反撃(6)

人質司法の意味を理解していない日本のマスコミ

 一般市民が突然、犯罪の容疑で逮捕され、それが報道されれば、その被疑者は事実上、一切の社会的信用・地位を失い、収入の道も閉ざされ、家庭生活も破壊され、裁判の結果を待たず、地獄に突き落される(公訴権の絶対性)。この過程では検察による過酷な取り調べが続き、とくに犯罪容疑を否認する被疑者には容赦ない身柄拘束が続く。自白するまで身柄拘束が何カ月も何年も続く状況を世界の人々は、日本の「人質司法」と非難している。

 上記の過程は主に起訴前の話である。被疑者が真実、犯罪者であることは適正適法な裁判手続で公的に認定されるのであって、ここに「迅速裁判」の問題が存在する。公訴権の絶対性の効果は依然として継続しているのであるから、裁判手続が迅速でなければ、無罪を主張する被告人の苦痛は継続する。

 もし、今回のゴーンへの被疑事件が「冤罪」であったら、一体誰が責任を取れるというのか。いまだに裁判が開始されないことの異常さを日本のマスコミは極めて鈍感に何も感じないのか。不当な長期拘留の後に、遅々として進まぬ裁判手続も公訴権の絶対性に苦しむ被告人には耐え難い苦痛である。

 母国に戻ること自宅に帰ること、そしてそれを公表することを「逃亡」とは日本語では言わないはずである。母国に戻れない、自宅に帰れない、家族とも会えない「保釈条件」が人質司法そのものではないかとの疑念を抱かない日本のマスコミには、まともな人権感覚を語る資格がないかもしれない。

 フィクションの世界ではあるが、冤罪を晴らすため何度も脱獄という犯罪を行った岩窟王を脱獄犯として非難したら、さすがの日本の新聞記者も笑うだろう。

 密出国罪は懲役1年以下の比較的軽い犯罪であり、ほぼ形式犯に近い。出国自体が犯罪行為ではなく、適法な手続をとらず、国の出入国管理を妨害し、国の安寧秩序と国民の安全で平和な生活を守るための法制度を抽象的に侵害する抽象的危険犯である。もっとわかり易くいえば、密出国犯人が侵害したものは抽象的な国の出入国管理権である。誰かが具体的に法益を侵害されたという形態の犯罪ではない。さらに法定刑が短いのも、その犯罪が目的手段に過ぎないことも関係している。密出国が目的で密出国罪を犯す愚か者はいない。重罪犯人が密出国するのも当然、その重罪の摘発から逃れるためである。

 従って、重罪犯人が国外逃亡を続けている限り、検察も密出国罪だけの捜査をすることはない。犯罪者引渡し条約などにより重罪犯人が国内に戻った場合、検察は遡って密出国罪を捜査するか。これも多分しない。

 それは刑事法上、密出国罪と重罪とは併合罪となるから、科刑範囲は重罪の1.5倍に広がるが、実際の科刑を判断するのは裁判官で、論理的科刑範囲が拡大したから実際の言い渡し刑が1.5倍になる関係にはない。密出国罪を独立して捜査する検察を異常とも思わないマスコミがすでに検察の御用報道機関であることを自覚することは不可能かもしれない。

 とくに、ゴーンの場合、あたかも有罪判決を受けて投獄されることから逃げたかのようなイメージで「国外逃亡」とけん伝されており、すでに誤報道が乱舞している。そのような報道がしたかったら、まずは有罪判決手続を迅速に進めるべきことをマスコミは主張しなければならない。ゴーンが有罪判決を受けて初めて、有罪判決による投獄から逃げたといえるからである。検察と一緒になって「逃亡するとはけしからん」と言っていては、世界の人々からますます信用されなくなる。人質司法の主宰者と一緒になってゴーンを非難しているだけだからである。

 今回の検察の密出国罪の捜査は、仮に本来の事件でゴーンが無罪の判決を受けた場合、単独で密出国罪が裁かれる史上初の事件となる。巌窟王の脱獄だけを取りあげて裁判をすることになるのだが、ここまで日本を世界の笑いものにする検察は崩壊せざるを得まい。

 筆者がどうしても理解できないのは、元代表取締役・西川氏の一連の行動である。西川氏はゴーンによって引きたてられ取締役の地位まで上り詰めたとされる。

事実、嫌疑となった違法役員報酬の内部決定権者3名が西川とケリーとゴーンであった。

 しかし、逮捕検挙されたのはケリーとゴーンの2名だけである。西川が司法取引者であるとの報道はなく、西川は自身の別の違法行為が暴露されるまで代表取締役の地位にいた。

 このような不条理な事実がまったく合理的に解明されていないのが「ゴーン事件」である。

(つづく)
【凡学 一生】

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