2024年03月29日( 金 )

ビジネスで社会問題を解決~目指すは年間100社の起業!(後)

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(株)ボーダレス・ジャパン社長 田口 一成 氏

 ユニークなビジネスモデルでソーシャルビジネスを手がける(株)ボーダレス・ジャパン。同社を率いるのが代表取締役社長・田口一成氏である。ボランティアやNPO(非営利団体)などと異なり、ビジネスを通じて貧困や環境などの社会問題の解決に取り組むのがソーシャルビジネス。田口氏はこれまで、社会起業家を育て、国内外でいくつもの事業会社を立ち上げてきた。その数は30社超。今後は年間100社を立ち上げるべく、その仕組みづくりに精力を傾けている。

バングラデシュの貧困問題、牛革工場で雇用を増やす

バングラデシュ工場
バングラデシュ工場

 ボーダレスグループの事業の1つを紹介しよう。

 バングラデシュの貧困問題の解決を目指すビジネスレザーファクトリー(株)がある。バングラデシュは日本の約4割という狭い国土に、約1億5,000万人の人口を抱え、この過剰な人口が高い失業率を招いている。貧しい人々は働いたことがない、あるいは教育を受けていないため、職場や工場で採用してもらえない。とくに、女性や障がい者は労働差別に合いやすい厳しい状況にあった。

 田口氏が注目したのが「牛」だ。バングラデシュでは、イスラム教の宗教的行事「イード」があり、大量の牛肉が消費される。しかし、その後に残った大量の牛皮は輸出されていて有効活用されていなかった。そこで牛皮を日本の技術を使って製品化できるのではないか。

 こう考えた田口氏は、牛革製品をつくる工場を立ち上げ、貧しい人たちに働いてもらうことにした。日本の革職人に依頼し、技術を教えてもらい事業を開始した。工場では、仕事のない人、貧しい人、障がい者、シングルマザーなど、一般の工場で仕事に就けない人を積極的に雇用し、革職人としての技術を教えている。

 ビジネスレザーファクトリーは、商品開発・生産・販売を一気通貫で行い、付加価値の高い本革製品に加工された商品を、日本の直営店舗と自社サイトで販売している。圧倒的な低価格と高品質の本革製品は、「本革は高くて手が出せない」と合皮製品を購入していた消費者に受けている。豊富なカラー展開や、革と相性の良い刻印サービスなどでリピーターも多いという。東京の八重洲地下街や品川プリンスホテル内に店舗を構えるなど、全国に約20店舗を展開している。

ビジネスレザーファクトリー店舗
ビジネスレザーファクトリー店舗

余剰利益は次の社会起業家へ「恩送り」によるエコシステム

 ボーダレス・ジャパンには、「恩送り」と呼ぶ約束事がある。

 事業会社の立ち上げに際して、ボーダレス・ジャパンは資金面を含めてさまざまな経営支援を行う。そして事業会社は黒字化すると、その恩返しをする。余剰利益を次の社会起業家に投資するのである。田口氏は、恩送りについて「社会起業家を目指す人が恩を受けられるように、資金の出し手にまわるということ。自分が受けた恩を次に送るというかたちで、グループのなかでお金が回るエコシステムをつくっていく」と説明する。

 事業会社が増えて黒字化していけば、恩を送る側が増えていく。そうなると、より多くの起業家をサポートできるようになる。多くの新しい会社、新しい起業家を生み出すのがボーダレス・ジャパンの向かう方向だ。

 黒字化後は、「MM(エムエム)」という経営会議がある。マンスリーマネジメントミーティングの略で、2年ほど前から始めた。事業会社の経営者4人が月に1回集まり経営会議を開く。個々に抱える経営課題をチームで検討し、アドバイスし合いながら解決していこうというものだ。その狙いについて、田口氏は「経営者には自立してもらう。だから、コントロールもしないし、指示もしない。だが、経営者は孤立したいわけではない。仲間がいることが大切」と話す。

 ボーダレス・ジャパンはまだまだ変わろうとしている。目指しているのは、事業会社を年間100社立ち上げられる体制にすることだ。この仕組みができれば、それを韓国、台湾、バングラデシュなど各国に導入し、最終的には世界各国でソーシャルビジネスを立ち上げられるようにしたいという。

 「社会起業家はプロダクトをつくって磨き込んでいく。私にとってのプロダクトは、社会起業家が集うボーダレスグループのエコシステムはどうあるべきかを追求すること」(田口氏)。年間100社というと途方もない数に見えるが、田口氏にとっては実現可能な目標なのだろう。ボーダレス・ジャパンは進化し続けることで新しい社会的価値を生み出していこうとしている。

(了)
【本城 優作】

<COMPANY INFORMATION>
代表:田口 一成
所在地:(東京オフィス)東京都新宿区市谷田町2-17 
(福岡オフィス)福岡市東区多の津4-14-1
資本金:1,000万円
グループ年商:49億2,000万円(2018年度)

<プロフィール>
田口一成 (たぐち・かずなり)

 1980年生まれ。福岡県出身。大学2年時に栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。早稲田大学在学中にワシントン大学へビジネス留学。(株)ミスミにて入社後25歳で独立し、ボーダレス・ジャパンを創業。世界12カ国で32社のソーシャルビジネスを展開し、2018年度の売上は49.2億円。2018年10月には「社会起業家の数だけ社会課題が解決される」という考えのもと、社会起業家養成所ボーダレスアカデミーを開校し、1年半で250名以上が受講。次々とソーシャルビジネスを生み出すボーダレスグループの仕組みは、2019年グッドデザイン賞を受賞。2019年日経ビジネス「世界を動かす日本人50」、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」に選出。

(中)

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