2024年05月13日( 月 )

傾斜のマンションで匿名文書が配布される!(4)

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構造計算書が紛失!

 ――六番館の構造計算書は ご覧になりましたか?

 仲盛 昨年末に佐々木特別理事から相談を受け、その際、私は「構造スリットの問題などを追求されてはいかがですか?構造技術者の目で私も協力しますので、ほかの棟でも結構ですから構造計算書を見せてください」と提案しました。私の提案に対して後日、佐々木特別理事からは「構造計算書が見当たらない」という返事がきました。「構造計算書がない」ということは 構造上の安全性や法適合性を客観的に証明できないということです。

 マンション売却の際に 買主から「構造上の安全性は確保されていますか?」と ごく当然の質問を受けても「構造計算書がないのでわからない」としか回答できません。つまり、「構造計算書がない」ということは マンションの価値を証明できないということなのです。

 通常のマンションであれば、構造計算書がないという事態はあり得ません。管理組合が責任をもって保管し、区分所有者からの求めがあれば理由の如何にかかわらず開示しなければならないのです。構造計算書は区分所有者共有の財産でもあるのです。

 構造計算書を復元しようとしても、このマンションの設計当時と同じバージョンの構造計算プログラムは現存しないので、復元することは基本的に不可能です。私は例外的に設計当時のバージョンのプログラムソフトとハードウエアであるパソコンを現役のまま保存していたので、構造スリットの部分的な問題がわかったのです。

 構造計算書を紛失したということは マンションの価値を著しく損ねる重大な落ち度です。管理組合の責任者は、区分所有者に対して 構造計算書紛失の経緯と理由を説明し、しかるべき対応をすべきではないでしょうか。

 重要な構造計算書を紛失したこと、20年以上も時間を費やしながら一向に解決できず 除斥期間という時効を超えてしまったことなどは、特別理事たちなど、現在の管理組合執行部の失策です。管理組合執行部が交代しない限り、解決への道は遠いと言わざるを得ません。

 ――仲盛さんは、以前から、東京都豊洲市場の鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の設計偽装について指摘をされていました。ベルヴィ香椎の場合は鉄筋コンクリート造(RC造)です。SRC造でもRC造でも 設計や施工の問題点を抱えていると考えられるでしょうか?

 仲盛 日建設計による豊洲市場の設計偽装は、鉄骨柱脚が埋め込まれていない構造であるにもかかわらず、鉄骨柱脚が埋め込まれている場合の低減された係数を不正に採用し、構造耐力が高いかのごとく偽装した悪質な事例です。柱脚の鉄量が規定の半分程度であることは東京都も認めています。

 豊洲市場の場合は、日建設計による設計偽装を 豊洲市場の発注者であり審査機関でもある東京都が擁護し、さらに東京地方裁判所が東京都に忖度をしたという まさに官民癒着の典型的な事例です。

 SRC造にせよ、RC造にせよ、地震により建物のもっとも弱い部分が崩壊すれば、そこが建物の耐震強度ということになります。

 ベルヴィ香椎は、六番館だけではなく全棟において構造スリットが施工されていません。施工業者が手抜き工事を行ったという点では区分所有者は被害者の立場です。しかし、上の絵のように一番弱い部分が崩壊し 建物全体の倒壊に至った場合、一転して 近隣の建物や歩行者に対して加害者という立場となってしまいます。

 加害者であれば 当然 被害者への賠償責任を負います。そのような事態を避けるためには、建物を適法な状態に戻すべきです。地震はいつ発生するかわかりません。販売会社や施工業者の不手際により 区分所有者が加害者となる事態は 絶対に避けるべきだと思います。

 ベルヴィ香椎では、若築建設が謝罪の意向を示したことにより、六番館だけの問題として終わらせようとしており、全棟に共通する問題である構造スリットの未施工を置き去りにしています。六番館だけの問題が、合意すれば、全棟に共通する構造スリットの未施工に関する交渉はできなくなります。地震が発生した場合に加害者となるリスクを抱えているということは 全棟の区分所有者が近隣に対して加害者となる可能性を意味します。そのことを真剣に考えていただきたいと思います。

 私が これまでに検証をした建物では8割前後の割合で、設計偽装・施工不良による耐震強度不足(20%前後の耐震強度不足)が判明しました。このなかには、耐震偽装問題の後、行政から安全証明書なるお墨付きが発行されている建物も数多くあります。つまり、行政による安全証明書は、肝心なことを検証せずに発行されたものだということです。今後、大きな社会問題になると思います。

(最後に仲盛氏からの言葉を下記に記します)

私は、ベルヴィ香椎の構造設計を担当した当事者の立場としての「技術見解の進言書」を、4月末まで棟の役員であった方(現・特別理事を追及されている方)に託しました。この方は 単独での訴訟も視野に入れておられます。進言書には このマンションが抱える問題点の真相、マンション区分所有者のために紛争を終結させる方法などを進言として記しています。(仲盛)

(了)
【桑野 健介】

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