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2020年10月12日 16:26

朝鮮戦争―日本の民主主義の変節、自由主義の崩壊の原点!(1)

 第38回「世界友愛フォーラム」が9月24日、「鳩山会館」(東京都文京区)において開催された。(一財)東アジア共同体研究所理事・所長(元外務省国際情報局長)の孫崎享氏(『朝鮮戦争の正体』著者)が「朝鮮戦争―なぜ起こったか、日本政治への影響―」と題して講演を行った。
 70年前の朝鮮戦争の正体を今になって振り返ってみると、私たちが直面している「憲法の形骸化」「民主主義の変節」「自由主義の崩壊」「軍事大国に邁進するアメリカ」「アメリカに隷属する日本」という複雑に絡み合った糸がまるで嘘のように解きほぐされる。

「核禁条約」参加呼びかけに元首相など56人が署名

鳩山 友紀夫 氏

 第38回「世界友愛フォーラム」では、芳賀大輔・東アジア共同体研究所事務局長の挨拶の後、進行役である鳩山友紀夫・同所理事長が登壇した。

 鳩山氏は「世界の元首脳ら『核禁条約参加を』」(東京新聞9月22日付朝刊)に触れ、「核の傘」について言及した。北大西洋条約機構(NATO)加盟国と日本、韓国の元首相ら56人が、核兵器禁止条約に参加していない自国の現職指導者に対し、条約への参加を呼び掛ける公開書簡が9月21日、2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によって発表された。

 書簡では、新型コロナウイルスの世界的大流行により、核戦争を含むあらゆる脅威に対する国際協力が緊急に必要になったと強調、同時に「核兵器が爆発するリスクが高まっている」と危機感を示し、各国首脳に対して、核軍縮を進めるために核兵器禁止条約(以下、核禁条約)を支持し、他国にも参加を働きかけるように求めている。

孫崎 享 氏

 公開書簡に名を連ねた56人のなかには、カナダやドイツ、イタリアなど20カ国の元首相や元外相らのほか、韓国元外相の潘基文・前国連事務総長、NATO事務総長経験者2人などが含まれる。日本からは鳩山友紀夫元首相、田中真紀子・元外相、田中直紀・元防衛相が署名した。核兵器の使用や保有、製造などを禁止する同条約は、これまでに44カ国・地域が批准しているが、発効には50カ国の批准が必要である。日本政府は、米国の核抑止力を維持することが必要として参加していない。 

 鳩山氏は、広島や長崎で大変な犠牲者を出した、世界唯一の被爆国である日本が「『核禁条約』を批准しない」ことを憂い、「『核の傘』は、世界で日本人だけが持つ幻想に過ぎない」と喝破、この問題について、当日の講師である孫崎享氏の見解を求めた。

日本の上空に核の傘はない

 孫崎氏は、「核の傘」は日本人だけが持つ幻想にすぎないとして、次のように語った。

 この話は、日本の安全保障の根幹に関わります。まず、日本の上空を見上げても「核の傘」は見あたらず、核の傘とは、物理的には存在せず、私たちが頭のなかで考えた概念にすぎません。では、「核の傘」とはどのような概念でしょうか。

 たとえば、日本の仮想敵国を中国として、尖閣列島で日中間に生じた問題解決のために、中国が日本に「核爆弾を投下する」と宣言したとします。すると、日本はアメリカに「今、中国から核爆弾を投下すると脅されています」と訴えます。そうすると、アメリカは中国に対して「あなたは日本に核爆弾を投下すると脅かしているが、本当に実行した場合は西安、重慶、杭州などに私たちも核爆弾を投下しますよ」と伝え、中国はアメリカに対して「日本への核爆弾投下を中止します」と応える、というシナリオが「核の傘」と言われているものです。

アメリカは国益と判断したときに初めて戦う

 しかし、シナリオ通りに本当にうまくいくのでしょうか。結論からいえば、うまくいくはずがありません。まず、その時点でアメリカは中国と戦争はしていないという大前提があり、中国は当然のこととして、「戦争をしていないにもかかわらず、あなたが核爆弾を投下する」ならば、「私たちも、その見返りにユタ州、アリゾナ州などに核爆弾を投下しますよ」と報復宣言をすることになります。そのとき、アメリカの大統領を含む政府首脳には、「日本を守ることができれば、米国内に核爆弾を投下されることをいとわない」といえる人は1人もいないでしょう。そのため、「核の傘」という概念は幻想にすぎず、米中の間にも存在しないのです。

 このことは、ヘンリー・キッシンジャー氏()の代表的な著書『核兵器と外交政策』(日本外政学会、1958年)のなかに書かれています。また、キッシンジャー氏は中国の周恩来首相との会談で「我々は日本と中国で戦争があったときに、あなたと戦うことがあるかもしれない。しかし、それは『日米安保条約』があるためではない。我々は、我々の国益となると明確に判断できたときに初めて戦う」と伝えています。「我々の国益になると明確に判断できたときに初めて戦う」という言葉はその後も一貫して使われており、歴代のアメリカの大統領もこの考えを踏襲しています。従って、「核の傘」などという概念は、米中の間にも存在しないことが明らかになっているのです。

 加えて、孫崎氏は「日本社会では、右派も左派もこの問題を正しく理解できていません。今でも『核の傘』があることを前提で議論しています」と問題点を指摘した。

(つづく)

【金木 亮憲】

※:ドイツに生まれ、1938年渡米、ハーバード大学卒業。国際政治学者として〈柔軟反応戦略〉を提唱する。69年~72年大統領補佐官、73年~77年国務長官としてベトナム和平、中東和平工作などを行い国際政治に一時期を画した。73年ノーベル平和賞受賞。著書として『キッシンジャー回顧録 中国』、『核兵器と外交政策』などがある。 ^


<INFORMATION>

(一財) 東アジア共同体研究所
 東アジア共同体研究所は、鳩山友紀夫内閣時代に国家目標の柱の1つに掲げられた「東アジア共同体の創造」を目的とするシンクタンク。2013年3月15日に発足。理事長・鳩山友紀夫(第93代内閣総理大臣)の下、理事・所長の孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、理事の橋本大二郎氏(元高知県知事)、理事の高野孟氏(ジャーナリスト)、理事の茂木健一郎氏(脳科学者)を中心に、プロジェクト形式で研究活動を行っている。


世界友愛フォーラム
 アジア共同体研究所の事業の一環として、東アジアのみならず、広く世界の平和と共生を「友愛」の理念に基づいて推進していくための自由な議論や交流の場。これまでに、「東アジア共同体構想」や「東アジアの安全保障」「東アジアと沖縄」をテーマに勉強会やシンポジウムを開催、参加者は講師との意見交換など活発に議論を交わし、「世界の平和と共生」への理解を深めている。

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