• このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年10月13日 15:00

朝鮮戦争―日本の民主主義の変節、自由主義の崩壊の原点!(2)

 第38回「世界友愛フォーラム」が9月24日、「鳩山会館」(東京都文京区)において開催された。(一財)東アジア共同体研究所理事・所長(元外務省国際情報局長)の孫崎享氏(『朝鮮戦争の正体』著者)が「朝鮮戦争―なぜ起こったか、日本政治への影響―」と題して講演を行った。
 70年前の朝鮮戦争の正体を今になって振り返ってみると、私たちが直面している「憲法の形骸化」「民主主義の変節」「自由主義の崩壊」「軍事大国に邁進するアメリカ」「アメリカに隷属する日本」という複雑に絡み合った糸がまるで嘘のように解きほぐされる。

安全保障が「嘘と詭弁」の出発点

 次に、孫崎氏は「森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題、黒川元検事長の検察官の定年延長問題など、「嘘と詭弁」が横行しています。しかし、この嘘と詭弁が最初に使われたのが安全保障の分野。その1つである『朝鮮戦争』について皆さんと一緒に勉強していきたい」と語った。以下に、孫崎氏の言葉で講演内容をお伝えしたい。

序論:朝鮮戦争について学ぶ意義とはなにか

日本・世界情勢は朝鮮戦争と密接に関係する

 朝鮮戦争は70年も前の話で、参加者のなかには、まだ生まれていなかった方もたくさんいるでしょう。
 教養を高めるという点を除けば、朝鮮戦争について学ぶことは、現代に生きる我々にとって何の役に立つのでしょうか。実は朝鮮戦争は、今日の日本情勢、世界情勢と密接に関わっています。そのことを、1つひとつ解きほぐしていきたいと考えています。

 参加者の皆さんは「日本は民主主義国家で、かつ自由主義を大事にする国家である」と考えていると感じます。しかし、第2次世界大戦後、日本の民主主義と自由主義が初めて蹂躙されたのが朝鮮戦争です。さらに、日本の憲法の柱である第9条「戦争の放棄」も戦後、朝鮮戦争で初めて破られました。さらに、今同じことが繰り返されようとしています。

本論:論点1「朝鮮戦争はなぜ始まったのか」

朝鮮半島を大国数カ国で「共同信託統治」

孫崎 享 氏

 1950年6月25日、金日成氏が率いる北朝鮮軍が事実上の国境線であった38度線を越えて、韓国に軍事攻撃を行い、戦いは53年7月27日に国連軍と中朝連合軍(北朝鮮軍と中国人民義勇軍)が休戦協定に署名するまで、3年以上続きました。これらの経緯から、多くの人は朝鮮戦争の始まりは「ソ連にそそのかされた金日成が率いる北朝鮮軍が、事実上の国境線と化していた38度線をソ連製の戦車で越えて、韓国に侵略を仕掛けた」というイメージをもっているでしょう。

 しかし、私はこの本を書く過程で「朝鮮戦争が始まった出発点」は、フランクリン・ルーズベルト大統領(1882‐1945)が亡くなった時にさかのぼるという結論に至りました。45年4月にルーズベルト大統領が亡くなり、ハリー・S・トルーマン大統領(1884‐1972)が就任したとき、世界の動きが大きく変わりました。

 朝鮮分割案が提示される以前は、米国の朝鮮半島についての考え方はルーズベルト大統領が推進した大国数カ国(米・中・ソ連など)による「共同信託統治」でした。第2次世界大戦の終結前には、日本の占領地をどうするかは米国やソ連の関心事でしたが、朝鮮半島に関する限り、米ソの勢力範囲は確定しておらず、米国の政策担当者らは、日本が降伏するまで朝鮮についてはほとんど言及していません。しかし、トルーマン大統領になり、米国が一部を支配する「分割」に変化しました。これは米国が「国際協調主義」から「一国主義」に移行し、「冷戦」が次第に世界の潮流になることを意味します。

トルーマン大統領は「アメリカの国益に力点」を選択

 戦後の世界におけるアメリカの役割には2つのビジョンがあり、いずれの議論に従うべきかという論争が行われていました。1つのビジョンは、「資本主義の長所を強調する性格」で、具体的には、自由貿易、開放社会、世界市場のメカニズム、議会制民主主義、貧者に対する援助であり、大国主義であるかもしれませんが、気前よくアメリカの豊かさを分かち合う方針です。

 もう1つのビジョンは「アメリカの国益に力点」を置く方針です。より強引な性格のものであって、領土を拡張し、アメリカ経済の支配区域を拡大し、アメリカ的生活様式を敵視するものとの対決を辞さない方針です。ルーズベルト氏は前者のビジョンを提唱した第一人者と言われ、アメリカの対朝鮮政策に強力な影響をおよぼしていました。一方、トルーマン氏は、根っからの一国主義者であったと考えられています。

金日成政権も李承晩政権も支持を得られず

 第二次世界大戦後、トルーマン大統領は、45年9月6日に、朝鮮人が自らの統治を目指した「朝鮮人民共和国」を認めず、38度線を境界線にした「分割統治」に向かいます。

 ソ連はスターリン氏が、「朝鮮人だが、長い間朝鮮半島には住んでいなかった」金日成氏を持ち込み、米国は同じく「朝鮮人だが、長い間朝鮮半島には住んで入なかった」李承晩氏を持ち込んで傀儡政権を樹立させました。

 当然のこととして、朝鮮の政治家、朝鮮人民からは猛反発が起こり、北の金日成政権も、南の李承晩政権も朝鮮の人々の支持を得られませんでした。そこで、金氏も李氏も、49年頃から「我々が軍を出して戦えば、一般市民も立ち上がって一丸となり、国づくりが進むのではないか」と考えるようになります。両者とも、「力での南北統一」を最優先課題にするのです。

 金氏はスターリン氏に対し「朝鮮半島を統一したい」と申し出ます。スターリン氏にとっては嬉しい話ではなく、「米国が参戦しないこと、中国の毛沢東主席の承認が得られることなど」の条件を付けて承認します。結果的に、金氏は米国の反応に対する読みを誤って、軍事攻撃を開始してしまいます。

 米国は、朝鮮戦争勃発前には、朝鮮半島に興味を示していなかったと思われますが、「もし韓国が陥落するのを許せば、共産主義者はこれに勇気づけられて、米国の沿岸に近い諸国まで蹂躙するようになるだろう」と考え、ミズーリ州インデペンデンスにいたトルーマン大統領は50年6月24日にワシントンへと向かい、参戦します。このトルーマン大統領の反応が、基本的に朝鮮戦争の解釈の定番です。

(つづく)

【金木 亮憲】


<INFORMATION>

(一財) 東アジア共同体研究所
 東アジア共同体研究所は、鳩山友紀夫内閣時代に国家目標の柱の1つに掲げられた「東アジア共同体の創造」を目的とするシンクタンク。2013年3月15日に発足。理事長・鳩山友紀夫(第93代内閣総理大臣)の下、理事・所長の孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、理事の橋本大二郎氏(元高知県知事)、理事の高野孟氏(ジャーナリスト)、理事の茂木健一郎氏(脳科学者)を中心に、プロジェクト形式で研究活動を行っている。


世界友愛フォーラム
 アジア共同体研究所の事業の一環として、東アジアのみならず、広く世界の平和と共生を「友愛」の理念に基づいて推進していくための自由な議論や交流の場。これまでに、「東アジア共同体構想」や「東アジアの安全保障」「東アジアと沖縄」をテーマに勉強会やシンポジウムを開催、参加者は講師との意見交換など活発に議論を交わし、「世界の平和と共生」への理解を深めている。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年10月21日 12:00

構造スリットの第一人者・都甲栄充氏が来福~構造設計一級建築士・仲盛昭二氏とベルヴィ香椎の施工不具合問題を対談(1)NEW!

 Net I・B Newsでは、福岡市東区の分譲マンション・ベルヴィ香椎における建物の傾斜や構造スリットの未施工に関する報道を重ねてきた。記者が構造スリットについて調...

2020年10月21日 11:30

第一生命が詐欺容疑で『実録 頭取交替』登場の元社員を刑事告発(16)山口銀行に近かった関係者談NEW!

 今回は、山口フィナンシャルグループに極めて近かった関係者Aに取材した...

2020年10月21日 10:22

【みやき町】リコージャパンと包括連携協定を締結~IoTを活用したまちづくり推進へNEW!

 佐賀県みやき町は20日、リコージャパン(株)と包括連携協定の締結調印式を行った。両者は4月30日に包括連携協定を締結していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受...

「デジタル庁が目指すべき“人間中心”のAI戦略とサイバーテロ対策」(3)

 菅義偉新総理が打ち出した新たな政策の目玉が「デジタル社会の実現を促進する司令塔」と位置付けられるデジタル庁の新設である。その実現に向けて、「21世紀の石油」とも呼ば...

2020年10月21日 07:00

SCにリニューアル~健康を意識した店舗づくりに イオン野芥店

 イオン九州は10日、福岡市早良区にある「イオン野芥店」をショッピングセンターとしてリニューアルオープンした...

2020年10月20日 17:28

朝鮮戦争―日本の民主主義の変節、自由主義の崩壊の原点!(7)

 朝鮮戦争を境に、米国と日本に1つの明白な流れが定着しました。米国には軍事産業が根を下ろし、戦争を戦い続ける国になりました...

2020年10月20日 17:00

ヤクルト本社、仏ダノンとの資本関係解消 背景にはダノンを利用した経営陣と販社の対立(前)

 仏食品大手ダノンは10月6日、保有するヤクルト本社の全株式6.61%を売却すると発表した。売却額は600億円規模...

2020年10月20日 16:48

話題を呼んだDeFi(分散型金融)市場(後)

 保有する暗号資産を元手に融資を行うことができるサービスを展開するコンパウンド社は、新しいアイデアとしてガバナンストークンのコンプ(COMP)を発行し、暗号資産を預け...

2020年10月20日 16:40

【10/25】糸島の逸品をお得にGET!「第5回Laboフェス」開催

 10月25日(日)、伊都物語の販売を手がける(株)糸島みるくぷらんとの直売イベント、「Labo(ラボ)フェス」が糸島工場で開催される

2020年10月20日 16:08

What to do next?~先人たちが問う新たな「独自性」

 fabbit(株)と(一社)東京ニュービジネス協議会が共催の注目のスタートアップ企業経営者とのピッチイベント「スタートアップ・メンタリング・プログラム~シリコンバレ...

pagetop