オリンピックの発信力
2026年冬季オリンピックが2月6日~22日、イタリアのミラノとコルティナ・ダンペッツォを主会場に開催された。大会の様子、日本人選手の活躍ぶりは、皆さんの目にどう映ったろう。イタリアは北部に恵まれた山岳スキーの環境を有し、アルペン競技で優れた選手を輩出してきたし、選手や関係者の今大会中の滞在も快適なものだったと推察する。
開催経費が膨大となることから、今どきはオリンピック開催へ立候補する都市が減っているが、IOCはドル箱コンテンツを魅力の乏しい大会にしたくないから、開催地条件への配慮に加え、夏冬とも天候に影響されにくい人気種目の獲得を、参考/正式競技への採用あるいは中継映像/発信メディア等の革新を通して、知恵をさまざまにめぐらせていくのだろう。
ふもとの街へ向け滑り降りるスキーヤー
(出展:welcome to the Dolomites, a UNESCO World Heritage Site)
さて筆者、コルティナ・ダンペッツォには思い入れがある。冬場のレジャーとして日本でスキーがメジャーだった時代、筆者は上達に努め、冬季オリンピックやワールドカップスキーで現地からのテレビ放送があるときは、アルペン競技を熱心に観戦していた。回転種目では選手のスキー操作を食い入るように観察し、滑降種目では猛烈なスピードに振り飛ばされない脚力に目を奪われた。そして実のところ知らぬ間に、コースの先、とくにヨーロッパ開催の大会では、テレビカメラが選手の背中を追う都度、フィニッシュ地点に見え隠れする集落の風景に魅せられていた。
申し合わせたように高さや角度をそろえた三角の屋根、木造の建物、同系色の外壁。全体の佇まいがメルヘンの挿絵のようだった。日本の“スキー場”とは違う“ウィンターリゾート”という時空間の存在、余暇スタイルをテレビ中継の端っこから知り、興味を抱いた。
そして筆者は、ヨーロッパの上流階級の人たちがバカンスを過ごすそうした山間の街の様子を、コルティナ・ダンペッツォで最初に垣間見たのである。いや、実際に訪れたことはない。映画『ピンク・パンサー』(1963年)によってである。
このコメディミステリーは、ピーター・セラーズ演ずるクルーゾー警部が、高級山岳リゾート地・コルティナ・ダンペッツォを舞台に巻き起こす騒動を描く。シチュエーション・コメディの傑作だ。シックで趣ある建物が連なる街路を、馬車だったか馬そりだったか、穏やかな交通手段で移動する人たち、風情ある明かりと温もりを満たす暖炉の炎、おいしそうな食事、お洒落な服装と物腰の大人たちが優雅に社交するシーン等々。もちろんレジャー活動としてのスキーと、整備された広大なゲレンデ、アルプスの風景。世界最大のダイヤモンドが狙われるに相応しい豪華な舞台設定が、不自然さなく描かれていた。
こんな素敵な情景を目にし、欧米のリゾートへの憧れが芽生えないではいられない。フランスやスイス、カナダやアメリカ、国や地域ごとに個性を有する山岳リゾートへの気付き、そして出会いは、競技の周辺視野に偶然収まった美しい小村が端緒だった。そうした余所見が発端となり、魅力の基本要素を学んだことが、筆者が“観光まちづくり”の領域に関わってきた理由かもしれない。
刺激を求めるマニア欲求
周辺視野については、こんなことも考える。『風雲!たけし城』は、1980年代にTBS系列で放送された視聴者参加型テレビ番組だ。アトラクティブなゲームエリアを突破していくバラエティ番組で、世界150カ国で放送された人気ぶり。お行儀良さなんて念頭にない。「竜神池」は運と成り行き任せ、「ジブラルタル海峡」は不安定に揺れる細い吊り橋を挑戦者たちが渡ろうとする。対岸からは強力なピッチングマシンで彼らを狙ってバレーボールを次々と放ち、容赦なく下の水面に撃ち落としていく。無様にもんどりうって水没する姿かたちが滑稽さを生み、視聴者は腹を抱えて大笑いとなる。攻守それぞれに予想を超えた振る舞いに、痛快極まりない。こんなテーマパークがあれば、ぜひ行ってみたいと思った。自分なら数々の難所を突破できるはずだという、根拠なき自信とともに。
このバラエティ番組の周辺視野という点では、不格好な落伍となっても、最低限の安全は配慮されているだろうという思いか。テレビ画面からこぼれ落ちていく参加者の断末魔の有り様が、酷い扱いではあっても平和な可笑しみに満ちているに違いないという思い。そして、この情け容赦ないフィールドアスレチック風アトラクションには、優れた体力と機略が欠かせないということ。
この要素を純粋培養し競技化したのが、同局で現在も時々放送する『SASUKE(サスケ)』につながっていると思える。そしてその『SASUKE』が、2028年ロサンゼルスオリンピックの正式競技になる。近代五種の馬術が廃止され、『SASUKE』の海外版『Ninja Warrior』を基に考案された障害物レースが、新種目として採用されたのだ。運や滑稽さを排し、真っ当に体力、知力、持久力を競わせる。
深い谷底に立ち向かう姿は、未来のオリンピック選手かも
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九州観光は、有望株を画角の外へ見落としてはいないだろうか?本筋を外れたところに未開の観光交流資源を見出す、“天邪鬼力”が大切な気がする。
<プロフィール>
國谷恵太(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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