2024年03月29日( 金 )

【凡学一生の優しい法律学】日本学術会議推薦無視事件(1)

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はじめに

 日本学術会議(以下、学術会議)をめぐる諸事件については今後、表題に「任命拒否」や「任命見送り」という言葉を用いることを回避し、端的に「推薦無視」の表現を使い表題のように改めた。

 これまでの議論を振り返ると、総理大臣に実質的な「任命権」があるとする立場とその権利を否定する立場に大別され、依然として両者の決着がつかない。このような状況自体が異常であると認識するためには、まず事実を正確に理解するする必要がある。これらの論者に共通して欠けているのが「推薦無視」に対する法的評価である。

 実質的任命権を有すると解釈する論者が「推薦無視」は当然と認識することは止むを得ないとしても、実質的任命権がないと解釈する論者も、推薦行為が実質的な任命行為であるため「推薦無視」は任命権侵害となることを見逃している。なお、制度目的論、政治と学問研究との関係論などの抽象度の高い論議は必要とはしていない。

 実質的任命権論者である橋下徹弁護士が自ら主張したように「推薦のない任命はアウトだ」ということであり、実際には実質的任命権論はすでに破綻している。実質的任命権は無条件の任命権であり、事前の推薦・指名・調整・協議などの一切の条件を必要としない。任命行為の前工程に法律で「推薦」を規定していることこそ任命権が実質的なものでないことの明白な証拠である。

 すべての実質的任命権論者が、この「推薦無視」が条文に違反していること、言いかえると明白な違法行為であることを無視している。

 以上の論理を意識するために、表題の事件名を「任命拒否」から「推薦無視」へと言葉遣いを変更した。

本論

1. 詭弁家内閣

 以前に日本を代表する詭弁家として橋下弁護士と加藤勝信官房長官を挙げたが、実はテレビやネットで論理構築の上手さに定評があるもう1人の詭弁家が高橋洋一氏である。

 高橋氏は東大数学科を卒業して大蔵官僚になった後、経済学者としてテレビ言論界で活躍している人物であるが、実のところ彼も詭弁の大家である。その高橋氏が「学術会議推薦無視事件」について学術会議を批判し、菅政権を「よいしょ」する論文を立て続けに発表していたが、なんと10月13日付で内閣官房参与に任命された。 

 菅内閣の内野と外野に日本を代表的する詭弁家が守備として配置されたのであり、正に「詭弁家内閣」の誕生である。菅氏が高橋氏の内閣官房参与任命を事前に伝えてくれれば、筆者は高橋氏の詭弁についてもこの連載で指摘していただろう。

 このような理由により、高橋氏の「経済学者らしい」詭弁についても指摘する。論文のなかで明らかに詭弁とわかる部分を取り上げて、簡明にその詭弁性について論証する。

(つづく)

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