2024年05月03日( 金 )

<特別インタビュー>強いまちと強靭な国をつくるのは社会インフラ整備と災害リスクの平準化

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福岡県議会議員 栗原 渉 氏

 2019年5月から1年間、福岡県議会議長(第69代)を務めた栗原渉・福岡県議(55歳/4期/朝倉市・朝倉郡)。保守分裂した福岡県知事選の余波で紛糾した県議会をまとめ上げた調整力は、高く評価されている。「有権者から付託を受けていることを常に意識している」と話す栗原県議。新議長へのバトンタッチを終え、さらに大きな舞台でその手腕を発揮することが期待されている。

災害復旧では商工業者への手当も必要

 ――保守分裂の知事選からコロナ禍への対応まで、「激動」と表現してよい時期に県議会議長を務められました。1年を振り返っていかがですか。

 栗原渉(以下、栗原) 知事も県議も、それぞれが選挙戦のなかで自らの主義主張を正面に掲げて当選してきました。議長はそういった多種多様な価値観や主義を、どう折り合わせるのかという調整役です。県知事の新たな4年間がスタートし、さまざまな取り組みに対して、同じく民意の付託を受けて議席を預かった県議1人ひとりがどう考えるのか。とくに福岡県議会は、執行部と議会の関係性でいうと「議会が強い」といわれてきましたが、まさにそれが表れたケースも多くありました。

 2017年の九州北部豪雨によって被害を受けたJR日田彦山線の復旧などは完全に議会主導で行われて、「九州の自立を考える会」の藏内勇夫会長が中心になって取り組みました。超党派の会ですから、全会派で議会を中心として取り組んだということです。コロナ禍対策でもそういう場面が多くあり、福岡県議会の実力を改めて認識させられた1年だったと思います。

 ――栗原県議は常々、災害に強いまちづくりや災害リスクの平準化を持論としていました。

福岡県議会議員 栗原 渉 氏
福岡県議会議員 栗原 渉 氏

 栗原 そうした分野の手当ては、今後も課題になっていくと思います。災害リスクを平準化したい思いというのは、災害を経験して復旧事業に取り組んでいくなかで生まれたものです。太田(誠一)先生の秘書時代にも福岡西方沖地震を経験しているため、私の政治理念からは切っても切り離せないものだと思っています。結局、災害対策というのは、防災・減災をもっと手厚くしたうえで、これだけ災害が頻発することを前提とするなら、「社会インフラってなんだろう」という部分をきちんと整理すべきだと思うのです。道路や河川、ダムなど従来型のインフラをきちんと整備しておけば、ある程度は災害に耐えられるかもしれません。

 しかし、いざ災害に遭遇した場合に経済的、社会的な停滞をどう復旧するのか。農業は瞬時に生産基盤を失いますが、実は商工業についても同じなんですね。営業が止まれば企業に在籍する従業員さんたちの給与が払えなくなるわけで、住民の生活そのものが停滞してしまうリスクをいち早く復活させなければならない。そうであれば、社会インフラ整備として商工業をいち早く復旧させる仕組みをつくるべきで、たとえば「貸し付けの条件を緩和する」「給付を早める」など、具体的に詰めなければならない時代になったと思います。要するに税金をどこまで投じることができるか、その法的整合性を考える時代になったのだと。

 たしかに自由主義経済の下、商工業には利益を追求していくという基本があり、そこに存在意義があるわけです。しかし、こと災害の復旧という観点からすれば、公的補償を考える部分が広がってもよいのではないでしょうか。

可処分所得を増やし、地域格差を解消する

 ――コロナ禍対策においても、各種給付金が支払われるなど災害と同様の取り組みがなされてきました。

 栗原 基本的な認識は、コロナ禍も自然災害も同じなんです。国民に一律の給付金を支給することなど通常はあり得ませんが、大規模な災害に遭ったと想定すれば、整合性がとれます。そういう視点でいうのなら、災害であれば一律に支給しなくても、被災者をある程度特定できるわけです、もっと手厚くできるはずです。コロナ禍では、県内でも財政基盤の弱い中小企業に被害が広がっています。倒産や廃業が今後も増え続けるという予測がありますから、ほとんど災害といっていいレベルの被害だと思いますね。消費が落ち込むことで製造業の設備投資にも影響が出て、“玉突き”倒産が増えるのでは。

 ――各種報道などで栗原県議の名前を目にすることが増えてきました。新たな舞台に上がる可能性があるとすれば、何を目指すのでしょう。

 栗原 かねてより主張してきた税の再配分、災害リスクの平準化もそうですが、人口減少社会に対する取り組みが必要になると思います。基本法となるものの多くは、人口が増えていた時代につくられたもので、人口が減るということをほとんど想定していません。法改正や特別措置法などで対応はしてきているものの、今後は人口が減って社会構造自体が変わることを、しっかりと法制度に織り込んでいくことが必要になると考えます。

 また、このまま人口が減り続ければ、今以上に大都市圏への一極集中が進むことは間違いありません。生活していくために賃金のより高い地域へ移動するのは当然のことで、そこを変えなければ、地方の衰退は止められないでしょう。政府が進めている最低賃金の引き上げは、こうした手当の1つだと思います。

 ただし、いくら最低賃金を引き上げても、地方の企業ではそれを払うことができないという問題があります。生産性を上げるために、人が減った部分を新技術でしのぐという考え方もありますが、たとえば3人でやっていた仕事を新技術の導入で、2人でできるようになったとすると、同時に1人分の消費も消滅するわけです。機械は飲食しませんし、服も着ないので、消費部分は新技術でもカバーできない。ではどうすればよいのか―。

 私は、消費を喚起するために、可処分所得を上げなければならないと考えています。その方策をどう練っていくのか、まずは問題意識を明確にしたうえで、さまざまな専門家の知見を取り入れながら、具体的な政策を考えていきたいと思います。

<プロフィール>
栗原 渉
(くりはら・わたる)
1965年朝倉市生まれ。84年福岡県立朝倉高等学校卒業。90年東京国際大学教養学部卒業。90~2009年衆議院議員太田誠一(公設第一)秘書。10年福岡県議会議員補欠選挙当選(1期目)。11年福岡県議会議員選挙当選(2期目)。13年福岡県議会農林水産委員会委員長、自由民主党農政懇話会副会長。15年福岡県議会議員選挙当選(3期目)。17年自由民主党福岡県議団政策審議会会長。18年福岡県議会議会運営委員会委員長。19年福岡県議会議員選挙当選(4期目)、福岡県議会議長。

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