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2021年01月14日 11:00

「人間の経済」を基軸に、環境問題を考察する!(3)

京都大学名誉教授 松下 和夫 氏

 2020年は、新型コロナ騒動一色に塗りつぶされた1年であったと言っても過言ではない。「地球という有限の閉鎖体系のなかでは、無限の経済成長は不可能である」と経済学者のケネス・E・ボールディング(当時のアメリカ経済学会会長)が警告したが、ほとんどの国の政府や指導者は「経済成長がすべての問題を解決する」との神話を信奉してきた。
 コロナ禍が起こった今こそ、人類は考えを改めることができるのだろうか。京都大学名誉教授・(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェローの松下和夫氏に聞いた。

日中韓の政府は「脱炭素社会」へ向かう宣言

 ――中国、韓国など東アジア諸国は、地球環境問題にどのように対応していますか。

京都大学名誉教授 松下 和夫 氏
京都大学名誉教授
松下 和夫 氏

 松下 中国の習近平国家主席は、2020年9月22日の国連総会で、二酸化炭素排出量を30年までに減少に転じさせ(ピークアウト)、60年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ(ネットゼロ)にする炭素中立(カーボンニュートラル)、脱炭素社会の実現を目指すことを表明しました。中国は、太陽光パネルや風力発電設備の生産、電気自動車の生産台数で世界一になっています。ただし、習近平国家主席が行った国連演説では、炭素中立を実現するための具体策への言及はなく、今後どのような具体策を示すかということが注目されています。

 韓国与党は20年4月の総選挙で、韓国版グリーンニューディール、炭素中立、石炭火力からの撤退などをマニフェストに掲げて勝利しました。文在寅大統領は7月14日に「グリーンニューディール」政策に114兆1,000ウォン(946億ドル)を投じると表明し、さらに10月28日、国会の施政方針演説で「50年にカーボンニュートラルを目指したい」と表明しました。

 中国、韓国など東アジア諸国の動きに関しては20年12月21日に、下記のテーマでオンライン公開セミナーが行われました。

■日中韓の温暖化政策と2050年温室効果ガス実質ゼロに向けた課題
<主催・司会>
李秀澈 名城大学教授

<総括コメント>
松下和夫 京都大学名誉教授

<韓国の動向>
趙容成 韓国エネルギー経済研究所所長
「韓国文在寅政権のグリーンディール政策と2050年温室効果ガス実質ゼロ目標に向けた課題」

<中国の動向>
:周瑋生 立命館大学教授
「中国『2060年温室効果ガス実質ゼロ』目標のロードマップの実態と課題」

<日本の動向>
:工藤拓毅 (一財)日本エネルギー経済研究所理事
「日本の温暖化政策と2050年温室効果ガス実質ゼロ目標に向けた課題」

 日中韓3国の政府は、「50年(中国は60年)温室効果ガス排出の実質ゼロ」を表明し、東アジアでも「脱炭素社会」に向けた道程が始まろうとしています。そのため、日中韓の温室効果ガス排出の実質ゼロに向けた政策課題を比較して考察することは、お互いに有益な示唆が得られると考えました。

 日中韓3国はEUとは異なり、石炭火力発電への依存率が依然として高い状況です。中国は電力の約60%を石炭火力発電に依存、日本は約30%、韓国も日本以上に石炭への依存度は高く、3国とも足元だけを見ると「グリーンリカバリー」の実現にほど遠い状態にあります。セミナーでは、「石炭への依存度をどのように減少させていくか」「再生可能エネルギーをどのように増やすか」「省エネ対策をどのように進めていくか」「原子力をどうするか」などについて、意見交換が行われました。

 さらにセミナーでは、日中韓以外の東アジア諸国が「脱炭素社会」への道を歩み始める際に、日中韓の3国が支援できる点についても言及されました。日本は、小泉進次郎環境大臣も強調しているように、東アジアの発展途上国(ベトナム、タイ、インドネシア、バングラデシュ、ミャンマーなど)が「脱炭素社会」に向かうロードマップづくりにおいて支援することを表明しています。

緑の気候基金が、発展途上国を支援強化

 松下 東アジアに限らず、環境問題でもっとも大きな影響を受けているのは、太平洋をはじめとした小島嶼国連合(パラオ、ナウル、モルディブなど約43の国・地域)です。気候変動の影響を受けて国が水没したり、毎年、台風など自然災害で大きな被害を受けたり、移住を考えたりしなければならない事態にまで追い込まれています。これらの国々は、気候変動の影響を受けやすい小島嶼国などへの国際的支援を強化するよう呼びかけています。

 緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)は、開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動への適応を支援する基金として、10年の「COP16」で設立が合意されました。当初はアメリカが最大の拠出金国になる予定でしたが、トランプ大統領が拠出を止めたことから、今は日本が最大の拠出金国になっています。GCFに対する支援を強化することが、発展途上国の支援強化につながります。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
松下和夫氏
(まつした・かずお)
 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー、国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長。
 1948年徳島県生まれ。71年東京大学経済学部卒。76年ジョンズホプキンズ大学大学院政治経済学科修了(修士)。72年環境省(旧・環境庁)入省、以後OECD環境局、国連地球サミット(UNCED)事務局(上級環境計画官)などを歴任。2001年京都大学大学院地球環境学堂教授。持続可能な発展論、環境ガバナンス論、気候変動政策・生物多様性政策・地域環境政策などを研究。
 主要著書に、『東アジア連携の道をひらく 脱炭素・エネルギー・食料』(花伝社)、『自分が変わった方がお得という考え方』(共著 中央公論社)、『地球環境学への旅』(文化科学高等研究院出版局)、『環境政策学のすすめ』(丸善)、『環境ガバナンス論』(編著 京都大学学術出版会)、『環境ガバナンス(市民、企業、自治体、政府の役割)』(岩波書店)、『環境政治入門』(平凡社)など多数。監訳にR・E・ソーニア/R・A・メガンク編『グローバル環境ガバナンス事典』(明石書店)、ロバート・ワトソン『環境と開発への提言』(東京大学出版会)、レスター・R・ブラウン『地球白書』(ワールドウォッチジャパン)など多数。

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