【BIS論壇№490】トランプ2.0

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は7月13日の記事を紹介する。

イメージ    1月20日にトランプ大統領が再登場して6カ月、180日で矢継ぎ早に打ち出された高関税政策が世界を混乱に陥れている。そもそも米国一国主義で世界全体の貿易相手国に高関税を課すこと自体、戦後、自ら打ち出したブレトンウッズ協定による世界銀行、IMF、 GATT、1995年創設の世界貿易機関(WTO)の自由貿易の精神に反しているのではないか。

 トランプ高関税政策に対し、中国をはじめ、グローバルサウスは対応策を模索している。ブラジル・リオデジャネイロで7月6・7日に開催されたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興国グループ)首脳会合には、24年から加盟したイラン、UAE(アラブ首長国連邦)、サウジアラビアなども参加した。グローバルサウスで影響力を強めつつある。この会合を主宰したブラジルのルラ大統領は、米国の高関税政策を批判。これに対し、トランプ大統領は直ちにブラジルに50%の関税を課すと、タリフマンぶりを発揮。発展途上国からは批判の声も上がっている。

 6月にカナダ西部・カナナスキスで開催のG7会議では、トランプ大統領が会議中に退席・帰国で十分な成果を上げられず、G7の衰退を際立たせた。米国を除くG6の2000年の世界GDPに占める比率は35%から、24年に18%へと半減。なかでも日本は00年の15%から24年に4%と4分の1に急減。日本の世界経済における衰退ぶりが顕著である。

 かかる日本経済の衰退に関し、日本政府も財界も真剣に対応策を打ち出していないことは誠に慚愧(ざんき)に堪えない次第だ。90年始めには1人あたりGDPが米国に次いで2位を占めていた日本が、24年には38位に落ち込み、カリブのプエルトリコ(30位)、バハマ(32位)、アジアのブルネイ(33位)、台湾(34位)、韓国(35位)、欧州のスペイン(36位)、スロベニア(37位)に差を付けられつつある。このままでは50位、三流国に落ち込むのは時間の問題とみられている。日本の早急なる対策が強く要請される次第だ。

 一方、01年にWTO(世界貿易機関)に加盟した中国は、豊富な労働力を生かし、「世界の工場」となり、24年にGDPは世界の17%に達し、G6のGDPに肉薄している。米国のGDPは2000年に30%が24年に26%と低下幅は小さい。米一強ともいえるG7内の格差がトランプ氏のG7軽視につながっている面がある。7月11日、マレーシアのクアラルンプールで開催のASEAN地域フォーラム(ARF)では、米中ロの大国間対立が平和と安定を損なわないよう、「対話から、具体的な行動の実践への前進」を求めた。

 日本は中国が人類運命共同体を目指し、鋭意推進中の広域経済圏構想「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行」への積極的な協力、8月の横浜での第9回TICAD(東京国際アフリカ開発会議)で2050年に25億人に達するアフリカとの協力強化、WTOを補強する意味でのCPTPPの拡大など、トランプ高関税への対応策を真剣に考究すべきであろう。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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