2024年05月06日( 月 )

電気自動車シフトで、電池業界では「ハイニッケル戦争」が進行中(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 電気自動車の普及が本格化しつつある現在、電気自動車の「心臓」ともいえる電池に対して関心が高まっているのは当然の結果であろう。電池の容量を大きくしつつ、なるべく小型化、軽量化しようとする技術開発競争が全世界で繰り広げられている。今回は、電池の正極材であるニッケルについて取り上げたい。

来る電気自動車時代、注目が集まる車載電池

 私たちの生活は地球環境に大きな負荷を与えており、その結果、気候変動などに悩まされるなど、大きなつけを払っている。そのようななか、自動車業界でも電気自動車へシフトすることで環境負荷を少しでも軽減しようとする動きがある。

 本題に入る前に、予備知識として電池について振り返ってみたい。電池は、正極、負極、電解質、セパレーターで構成されている。電池の特性を議論する際には容量と出力がもっとも大事な項目であるが、実は、電池の特性は正極材によって決定づけられる。

 また、負極は正極から移動してきたリチウムイオンが貯めこまれ、それを放出する過程で電流が流れる仕組みであるため、負極材は電池の寿命と関わっている。電解質はリチウムイオンの通路であり、セパレーターは正極と負極が直接接触することを防ぐ。そのため、電解質とセパレーターは電池の安全性と関わっている。電池の原理としては、リチウムイオンと電子が電解質を通って負極に流れるのが「充電」、逆にリチウムイオンと電子が負極から正極に移動するのが「放電」である。

正極材とは

 正極は、アルミニウム基材、「活物質」(リチウムイオンを取り込んだり、放出したりする)、「導電助材」(電子の伝導性を助ける)、「バインダー」で構成されている。

 リチウム酸化物で構成された活物質に少量の導電助材を混ぜて伝導性を高め、バインダーで密着性を上げたものをアルミニウム基材の両側に塗布すると、正極になる。正極の特性を左右するのは活物質だ。活物質の性質によって電子の数が変わるので、電池の容量や電圧も活物質によって決まる。現在、車載用電池に使われている正極材は、主にNCA(ニッケル、コバルト、アルミニウム)、NCM(ニッケル、コバルト、マンガン)、 LFP(リチウムリン酸鉄)などであるが、そのなかでも電池のエネルギー密度を上げるために、高容量のNi(ニッケル)であるハイニッケル(High-Ni) の素材開発に余念がない。

 正極の活物質はリチウムと金属成分の混合物であるが、ニッケルは高容量、マンガンとコバルトは安全性の確保、アルミニウムは出力の向上に寄与するので、これらをどのような比率にするかによって、電池の特性が決まる。電池のエネルギー密度が高いということは電池の重量と体積が小さくなることを意味する。これは、電気自動車の走行距離とも深い関係がある。

(つづく)

(後)

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