2024年04月19日( 金 )

神の怒り、自然の破壊力の慢心人間無力(6・後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

特別取材・南海トラフ最前線(5)~現地取材記者座談会

 南海トラフ巨大地震にともなう地震津波による影響は、関東、中部、四国、九州までの広範にわたり、11都県に対し10m以上の津波が襲うことが想定される。その被害は、経済的損害約214兆円、避難者約950万人、水道断水約3,440万人――。規模の上では東日本大震災を上回る巨大災害だ。弊社では、津波被害が予想される宮崎県、高知県、三重県、静岡県に記者を派遣し、現地取材を敢行。これまでレポートを掲載してきた。特別取材の締めくくりとして、現地取材記者による座談会を行なった。

 ――取材後の率直な感想を。まずは宮崎県から。

 児玉社長(宮崎県担当) 宮崎県民の気質は、よく言えば「牧歌的」、厳しく言えば「楽天的」を超えて「何も考えないボンクラ」である。南海トラフ地震に切実感を抱く人は皆無という現実が横たわっている。日頃から避難訓練を繰り返していないと、とんでもない打撃を受けるであろう。港周辺部は、壊滅的な被害の発生が予測される。しかし、近くには大半、高台が隣接している。「大地震」と察知できたら、他人に構わず必死で我が身を守るために逃げることが肝要だ。
 致命的な被害が予想される日向市細島港周辺では「高台に住宅を建てて身を守ろう」というキャンペーンで建売が売り出されていた。たまには宮崎にも、目ざとい商売人もいるものだ。

20160428_047 ――高知県は。

 大石記者(高知県担当) 今回訪れたのが足摺岬~室戸岬間で、その距離は約260kmある。高知県はgoogleマップを活用した津波浸水予測図を公表しているが、ほぼ全域で5m以上の津波が襲来し、とくに県西部では、多くの沿岸部で10m以上の津波に見舞われる。県都である高知市は、津波高は大したことはないが、数カ月間の長期浸水に晒される。もちろん予測は最悪の場合の数字ではあるが、何の対策もしなければ高知県が救われる道はないだろう。

20160428_048 ――救われるには、何が必要なのか?

 大石記者 誤解を恐れずに言えば、万全な事前防災を行なうためには、戦時体制のように国家総動員して事に当たるぐらいの気構えが必要だ。財政、人員などのリソースをどれだけ被災予想地域に注入できるか。
 また、高台移転に関する規制緩和など、特別措置を講じられるかにかかっている。財政的、権限的にも限界のある個々の自治体に押し付けてもダメだ。さらに、リソースの使い方も重要だ。ある専門家は、防潮堤をつくるには200億円かかるが、200億円あれば、2万人を高台に移転させることができると言った。ハード整備に対する発想の転換も必要なことだと思われる。

 ――では、三重県。

 永上記者(三重県担当) 取材した三重県鳥羽市の最大津波高は27m。三重県の伊勢湾沿岸部はリアス式海岸で、カキや真珠の養殖が盛んだが、津波が押し寄せればこれら水産業が甚大な被害を受けることは容易に想像できる。また、伊勢市にある伊勢神宮は海岸から5km以上内陸にあるが、14世紀頃、津波が外宮に到達した記録がある。伝説のような話で真偽のほどは定かではないが、内陸部にも大きな被害がおよぶ危険性はある。

20160428_049 ――県の対応は?

 永上記者 三重県は、『本県では最大クラスとされる南海トラフの巨大地震等による津波に備えて、海岸堤防等を整備することは、費用、景観や土地利用におよぼす影響など多くの課題があり、命を守るためには、「とにかく逃げる」という迅速な避難行動が重要と考えています』との考えを示している。その一方、海岸堤防の早急な補強対策にも取り組んでいる。
 太平洋に面する海岸線はリアス式海岸であることから大きな被害は出ないと思われるが、三重県には伊勢神宮ほか、重要な文化拠点が多くある。これら文化拠点を守るための対策を講じるだけでなく、津波から「とにかく逃げる」ための一刻も早い避難経路の整備が急務だ。

 ――最後に静岡県。

 山本記者(静岡県担当) 静岡県は南海トラフと最も接している県で、沿岸部も長く、南海トラフ巨大地震が起きた場合、全国でも最大級の被害が想定されている。静岡県では1976年に東海地震説が発表されて以降、東海大地震対策を県の重要施策に位置付けており、危機管理体制の整備や学校での防災教育などに積極的に取り組んでいる。しかし、巨大地震による津波が来た場合には、沿岸部の多くが浸水すると想定され、甚大な被害は免れない。
 静岡県は沿岸部と山間部に分かれ、山間部と近い地域は逃げ場があるが、沿岸部で平地が広がる浜松市、磐田市、焼津市、静岡市などは、とくに被害が大きいとされ、さらなる津波・防災対策が必要だろう。

 ――浜岡原発の印象は?

 山本記者 今回の取材で改めて感じたのは、浜岡原発の地盤の悪さである。同原発は浜岡砂丘の延長線上に立地している。東日本大震災では、東京でも浦安市など地盤が軟弱の地域に液状化現象が起きた。南海トラフによる巨大地震が起きた場合、津波は防げたとしても、浜岡原発は液状化現象による被害が起きる恐れもある。
 中部電力は早期の再稼働を目論み、津波対策や地震対策などを実施し、地域住民にアピールしている。再稼働すれば、雇用面などで地域経済は活性化するだろうが、ことは原発が立地する御前崎市や静岡県だけの問題ではない。
 6月16日に投開票を控えた静岡県知事選では、原発再稼働や再稼働の是非をめぐる住民投票をするかどうかが争点になると見られているが、より踏み込んで原発廃炉についても再考する知事選にしてもらいたい。

20160428_050


(了)

 
(6・中)

関連記事