2024年04月29日( 月 )

サムスン電子の先行きに懸念(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 世界の半導体市場でトップ争いを繰り広げるサムスン電子。いまや韓国経済を支える存在となった。ビジネス面で好調が続く一方、将来的な不安要因も噴出。サムスン電子の先行きに“黄色信号”が灯りつつある。

スマホの不振、メモリ分野にも異変が

 サムスン電子はスマホの世界シェア1位をキープしていた。しかし、その座もアップルに明け渡している。2013年の世界シェアは32%だったが、昨年には19%に落ち込み、10年ぶりにもっとも低いシェア率となった。昨年の第4四半期と今年1月のスマホの世界シェア1位はアップルである。

 昨年の世界シェアトップ10位のうち、7社は中国企業で占められた。つまり、サムスン電子は高級機種ではアップルに、低価格機種では中国企業の板挟みとなっている。

 サムスン電子はメモリ分野では名実ともに世界王者である。技術格差は2年くらいあり、サムスン電子の1人勝ちが長く続くだろうといわれていた。ところが、昨年11月に米国マイクロン社が業界初の176段ナンドフラッシュを出荷。さらに今年1月には、10nm(ナノメートル)の第4世代DRAMの開発に成功した。サムスン電子のメモリ覇権に亀裂が生じるのではないかという懸念の声が上がっている。

 また、米中対立が先鋭化し、米国が韓国に、中国向けの半導体供給を見直すように圧力をかけている。それだけではなく、サムスン電子の需要拡大に大きく貢献してきた中国市場がこのまま続くことには無理があるだろう。中国は米中対立を回避するため、技術独立を目指し、自国企業の育成に力を入れていることから、結果的に中国需要の減少につながる公算が大きい。

経営者不在の事態

 サムスン電子のイ・ジェヨン副会長は、朴槿恵前大統領の知人に賄賂を提供した罪などに問われ、1審で懲役5年の実刑判決を受けて17年に収監されたが、2審で執行猶予が付いたため、1年間の服役を経て18年に釈放された。

 ところが、前大統領の知人への贈賄罪に問われた差し戻し控訴審で、ソウル高裁は今年1月18日、懲役2年6月の実刑判決をイ・ジェヨン副会長に言い渡した。これによってイ副会長は再び収監されることとなった。

 今後の裁判は企業の合併をめぐる複雑極まりない内容で、証拠記録だけでも19万ページにおよぶという。法曹界では、今回の裁判は最低でも3年くらいかかるだろうとされている。

 TSMCとの差を縮めるために、巨額の投資を決定しなければならない大事な時期に、意思決定権者が不在であるのは、サムスン電子にとって懸念材料である。サムスン電子は100兆ウォン以上の資金を手元にもっている。しかし、半導体の業界再編を促すような大型M&Aが行われているなかで、サムスン電子はこの4年間、まったく動きを見せていない。

 日本は1980年代に半導体の覇権を握っていた。しかし、韓国のサムスン電子が果敢な投資を実行したのに対し、日本は投資に躊躇したことが今の状況を招いた。AI半導体や自動運転など、半導体需要がますます拡大していくと予想されるなか、ほかの業界からも半導体チップの設計に乗り出そうとする企業が現れている。

 さらに、米国もヨーロッパも、半導体産業の育成は国の安全のためにも大事であることに気づいている。とくに、米国は巨額な予算を編成し、自国企業の支援に乗り出そうとしている。アジアでは台湾のTSMCとの競合、米国企業の台頭、それに大きな自国市場をもっている中国企業の独自展開は、サムスン電子の将来にとって楽観できない要因となるだろう。

 新型コロナウイルスで総崩れのような状況のなか、韓国の輸出の2割を占める半導体業界の健闘により、韓国経済は比較的浅い傷で済んでいる。だが、半導体産業の今後の行方次第で、韓国経済にとって深刻な問題が生じる恐れも。国を挙げての支援と戦略が求められる時期に差しかかっていることは間違いなさそうだ。

(了)

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