史上空前の警察大スキャンダル

政治経済学者 植草一秀

 木原事件に重大な新証拠が提示された。木原事件とは自民党元幹事長代理で衆議院議員の木原誠二氏の妻の元夫の安田種雄さんが2006年4月9日に東京都文京区の自宅で死亡した事件。警視庁大塚警察署は元夫の安田種雄さんの死亡を自殺として処理したが、真実は他殺である疑いが濃厚だ。事件は長く闇に隠されていた。闇に光が当てられたのは2018年。事件の概要は以下のとおり。

 06年4月9日夜に、木原誠二・前官房副長官の妻X子さんの元夫である安田種雄さんが死亡した。警察への通報時刻は4月10日の午前3時59分。種雄さんの父親が種雄さんに貸していたハイエースを返してもらおうと深夜に種雄さん宅を訪れて死亡している種雄さんを発見して警察に通報した。

 仮にこの事件が殺人事件だった場合、10日未明に種雄さんの父が種雄さんの死亡現場を訪問して警察に通報することは犯人にとって想定外の事象だったと考えられる。犯人は死亡現場の証拠隠滅を図る考えだったと思われる。しかし、種雄さんの父が想定外に現れたため、証拠隠滅の作業が完了しなかったと推察される。現場の状況は「自殺」ではなく「他殺」を示していた。ところが、警視庁大塚警察署は直ちに事件を「自殺」として処理した。

 このために事件は闇に隠されたままだった。事件に光が当てられたのは18年4月。大塚署の女性刑事が過去ファイルを検証。この事件が自殺で処理されたのはおかしいと考えて再捜査が始動した。再捜査で木原氏の妻X子さんの捜査を担当したのが元警視庁捜査1課警部補の佐藤誠氏。ところが、佳境に差しかかった18年10月に捜査が突然打ち切られた。木原誠二氏が自民党情報調査局長に就任したタイミングである。

 捜査を担当した佐藤誠氏は安田さんの死亡は自殺によるものではなく他殺によるものだと断言する。そもそも、06年4月10日の時点での大塚署の対応があまりに不自然だった。4月10日の夕刻に警視庁大塚署に呼び出された種雄さんの父は、取り調べ刑事から次のように言い渡されたという。

「息子さんの死に、事件性はありませんから」

 弁護士の西脇亨輔氏の取材によれば、亡くなった安田種雄さんの死体検案書が作成されたのは4月11日。死体検案書とは死者の死因を医師が遺体を検案(調査)して判断して記述するもの。その日付は4月11日である。ところが、警視庁大塚警察署は医師による死体の検案が完了する前日の10日夕刻に種雄さんの実父に「事件性がない」と伝えている。

 弁護士の西脇亨輔氏は元テレビ朝日法務部長。現在はテレビ朝日を退職して弁護士として精力的に活動している。西脇氏は東大在学中、木原誠二氏のクラスメートだった。同じクラスに現衆議院議員の丸川珠代氏も在籍していたとのこと。西脇氏は4月11日付の死体検案書に「不詳の死」と記述されていることを明らかにしたうえで、

 「医師は〈自殺〉を選ばず、あえて〈不詳の死〉に丸を付けた。
これは医師が自殺とは判断できなかったことを意味している。
それなのに大塚署は「事件性なし」と早々に宣言した。」と指摘する。
https://x.gd/9ppKE

 18年の再捜査に際して事件を直接担当した佐藤誠元警部補は警視庁の殺人捜査エキスパート。木原誠二氏の妻X子さんに対する事情聴取を担当した。今回存在が明らかにされた新証拠は事件の当日、現在の木原氏の妻であるX子さんとその愛人であったY氏との間で交わされたメールのやり取りが保存されているY氏の携帯電話とX子さんとY氏との間でやり取りされた100通以上の手紙およびその手紙全文をY氏が書き写したノートである。このなかに、事件の概要を示す生々しいやり取りが綴られている。

 警視庁大塚署は再々捜査に際してもほとんど捜査を行わずに「事件性なし」で検察に書類を送付したが、この取り扱いが全面的に誤っていることを示すものになっている。事件当日、X子さんはY氏に対して「種雄君を刺しちゃった」「どうしたらいいか分からないのですぐ来て」とメールで送信している。

 この連絡を受けたY氏はX子さんがいる居宅に向かっている。現場の実況見分の資料を精査した佐藤誠氏は種雄さんの死亡が自殺ではなく他殺であると確信した。18年の再捜査は不自然なかたちで中止されてしまったが、この事実を23年に週刊文春が報道して疑惑が初めて世間に知られるようになった。

 報道を受けて安田種雄さんの父などの遺族が刑事告訴した。警視庁大塚署は告訴状を受理したものの、実質的な再捜査を行わずに検察に「事件性なし」とする書類を送付した。この事態に対して佐藤誠氏は事件性があるとの見解をまとめた意見書を検察に提出したと週刊文春が報じた。告訴状には種雄さんの死が「自殺」によるものではなく「事件」によるものであることを示す数々の不審点が列挙されているとのこと。

 そのひとつが「血痕」。遺体発見現場は種雄さんの自宅2階の居間だったが、2階と1階をつなぐ階段に血痕が「ぽたぽた」と落ちているのが見つかったという。大量出血していた生前の種雄さんが自分で階段を移動したなら、血痕は「ぽたぽた」程度で済まない。他方、死亡したあとで種雄さんが階段を移動する可能性はない。そうなると、階段の「血痕」は、種雄さんではない人物が凶器を持って移動したと考えるのが順当。

 佐藤誠氏は「死体は歩かないじゃないですか。だから自殺ではないんです」と語ったという。また、種雄さんの遺体の手に傷があったとされることが告訴状に記載されている。種雄さんが自殺したのなら、自分で刺した刺し傷以外に遺体に傷はないはずだが、遺体には刺し傷以外に、手の甲に擦り傷があったという。種雄さんが亡くなる前に何者かと争ってできた傷であることが疑われる。

 佐藤誠氏は真犯人の目星をつけている。事件の現場となった住居は、当時現職の警視庁警察官であったX子さんの父親Z氏が所有する物件だった。実は種雄さんが死亡した当日、当該住居にZ氏が存在したと見られている。Z氏は当時、現職の警察官で学生時代はアマチュアボクサーをしていた人物。X子さんの愛人のY氏は現場に呼び出されて犯人に仕立て上げられる可能性があったとも見られている。

 事件発生当時の警視庁大塚署の対応が不自然すぎる。遺族が刑事告訴しても実質的な再捜査を行わない。しかし、多くの実力ある関係者が真相解明に動き始めている。佐藤誠氏は実際に18年に捜査を担当した本人である。この佐藤氏が自殺で処理することはおかしいとの声を上げている。また、弁護士の西脇亨輔氏は木原氏の大学時代のクラスメートであったとのつながりを有して真相解明に力を注いでいる。

 そして、遺族の代理人として活動しているのが勝部環震弁護士。勝部弁護士がY氏の当時の携帯電話およびXとYの間でやり取りされた手紙とそれを書き写したノートを入手した。極めて重大な意味を持つ新証拠である。

 警察・検察の不祥事が毎日のように報じられるが、警察と検察の巨大犯罪を許すわけにはいかない。殺人事件を自殺として処理することは殺人犯人を無罪放免にすることを意味する。犯人が警察関係者であることも考えられる。犯人が警察職員であったから自殺で処理したとなれば、驚天動地の大スキャンダルになる。「天網恢恢疎にして漏らさず」の言葉の重みを改めて認識する必要がある。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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