2022年08月13日( 土 )
by データ・マックス

【BIS論壇No. 340】ユーロの父、ロバート・マンデル教授の死去を悼む

 NetIB‐Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は2021年4月10日の記事を紹介。

 欧州における通貨統合の支柱となり、「ユーロの父」と呼ばれ1999年にノーベル経済学賞を受賞した米コロンビア大学教授・ロバート・マンデル氏が、受賞記念に購入したイタリア中部のシエナのお城の邸宅で4月4日、88歳で死去した。

 ユーロ実現に大きな影響を与えたのは61年に発表した論文「最適通貨圏の理論」と言われている。共通通貨の成功には、労働力の自由な移動が必要になると強調。欧州統合の理念を確立。革新的な業績が多く、経済学者のマーカス・フレミング氏と有名な「マンデル=フレミング・モデル」を構築。為替と財政、金融政策の関係を明らかにした。80年代のレーガン政権の財政政策の後ろ盾にもなった。

 マンデル教授は、筆者が2002~03年、コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所客員研究員として留学した際にご縁ができた。

 筆者はマンデル教授の経済学の講義を聴講した際、東京経済大学経営学部教授として国際経済、国際マーケティング担当をしていた。マンデル教授はMIT(マサチユーセッツ工科大学)で数学を専攻したというだけあり、数学や数式をふんだんに使った講義はなかなか難解であった。

 講義後、近く東京に出張するとの話があった。それならば、ぜひ東京経済大学経済学部出身の村上勝彦学長、および筆者が理事をしている日本貿易学会会長の山田晃久横浜商科大学教授にも紹介したいと話した。その後、東京外語大時代のイタリア語の先輩が高田の馬場に「文流」というイタリア料理店を経営しているため、そこを予約すると伝えた。

 マンデル教授は、皇太子殿下(現・天皇陛下)が学習院時代、ゼミの先生とよく「文流」に訪問していると聞いており、加えてシエナのお城を買収した際、同じ不動産業者からイタリア料理研修用に「文流」の経営者の西村暢夫会長が購入した修道院も近くにあり、西村会長とは面識があるという。不思議なご縁に驚いた。

 マンデル教授には、日本訪問前に教授が贔屓にしているマンハッタンのイタリア料理店に招待された。お返しに、マンデル教授ご家族を筆者の家族で日本料理店に招待し、親交を深めた。

 後日、マンデル教授、BIS顧問の豊島 格・元(独)日本貿易振興機構(JETRO)理事長ともども筆者もオリンパスの特別委員に任命され、マンデル教授とは東京、箱根・湯河原、長野、会津、香港、深圳などにご一緒し、親交が深まった。

 さらに、東京経済大学創立100周年記念講演会に講師として来日いただき、東京商工会議所国際会議場で行った「アジアにおける共通通貨」の講演には500人を超える聴衆が詰めかけ、大盛況であった。一緒に出張した香港のホテルのバーで対岸の高層建築の夜空を眺め、教授の好きなイタリアワインを一緒にいただきながら、「ポストチャイナのインドについてどう思いますか」という筆者の質問に対して「ポストチャイナはチャイナだ」「インドが中国に肉薄するには、まだまだ時間がかかる」「日本は一衣帯水の中国との関係を強化すべきだ」と強調されたことを、昨日のことのように懐かしく思い出している。

 国際経済学の世界的権威者であったマンデル教授のご冥福を、はるかにお祈りする次第である。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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