2024年04月20日( 土 )

成功するための身だしなみ「Dress for Success」とは(4)

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Princess Hiromi ファウンダー&デザイナー
島津 洋美 氏

 服の歴史とは、西洋(ヨーロッパとアメリカ)の衣服および服飾の歴史を指し、そのルーツははるかギリシャ・ローマ時代にまでさかのぼる。そして、日本における本格的な服の歴史はわずか100年に過ぎない。欧米世界では「Dress for Success」という言葉がよく知られており、「成功するための身だしなみ」という意味だ。私たちにどのような知恵を授けてくれるのだろうか。

 この言葉が現代にもつ意義について、Princess Hiromiファウンダー&デザイナーの島津洋美氏(ニューヨーク州弁護士)に話を聞いた。陪席は中川十郎・日本ビジネスインテリジェンス協会理事長。中川氏は商社時代(ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長)にイタリア、フランス、ニューヨークファッションを手がけた。

日本人の服装の問題、男社会が要因の1つ

 ――日本人の服装はいかがでしょうか。基本的にコンサバ(保守的、無難)であるという話をよく聞きます。

 島津洋美氏(以下、島津) 日本人の服装がコンサバになっているのには、いくつかの理由があると思います。洋服の歴史が浅いこともあり、基本的に市場に出ているものがコンサバやはやりのものが多いので、多くの消費者はそれを買い求める以外に方法がありません。

 企業は売れるものを市場に出すようになり、大量生産のなかでデザイナーも必ず売れるような高い打率を求められます。その結果、市場には似たり寄ったりのものがあふれているのです。また、企業や商社の幹部には男性が多く、女性服の需要に対する理解(とくに仕事服)が偏り、生産されるものも、輸入されるものも限られているからだと思います。

 今後のことを考えれば、メーカー、商社、デザイナー、消費者がもっと意見を密に交換して、企画を進展させていく必要性があると感じています。しかし、女性の仕事服については欧米も、日本より多様性はありますが基本的に似たような傾向です。

 中川十郎氏(以下、中川) 商社幹部の話は耳が痛いですね。先にお話した入社3年目に関わったイタリア女性ファッションの商談関係者も商社、デパート、デザイナーを含めて全て男性でした。

 また、フランスのシャルルジョルダンの高級婦人靴の商談に関与することがありました。東京・池袋のSデパートのT社長が関心を示され、輸入販売をすることになりました。約60年前でも1足3万円もするおしゃれな高額商品でした。高額のため需要には限りがあるので、一計を案じ、浅草のL社との技術提携・委託製造によって、価格も約半分に下げることができて、売れ行きも急増しました。しかし、このときもSデパートの担当部長・課長・係員はすべて男性でした。

 今の島津さんのお話を聞いて、60年経った今も、日本の企業が男性社会であることに正直驚いています。早く、島津さんのような次世代を担う女性の経営者やデザイナーの方々が自由に力を発揮できる社会になるように、自分も含めて尽力していきたいと思っています。

日本のキャリアウーマンにふさわしい服づくりが使命

 島津 リズクレボーン社時代、アメリカ人の上司と一緒に日本の某大手企業の管理職を訪ねたことがありました。当日、上司が「部長さんはどこにいますか?」と私に尋ねたとき、当の部長は目の前にいました。しかし、その部長はニットウェアを着ていたので、私の上司からすると、とても部長の服装とは思えなかったのです。同じ日本の女性として、洋服で差がついてしまうのはとても悔しいことです。何とか日本の女性のためにお役に立ちたいと思い、ひと目でボスだとわかる服をつくり、提供したいと考えました。

 私が日本のキャリアウーマンの方に申し上げている基本的なアドバイスは、次の3点です。

1.自分が好きな服を選ぶ。
2.自分に似合う服を選ぶ。
3.自分の社会的立場にふさわしい服を選ぶ。

 上記3つをすべて満足させる洋服を見つけることです。国際社会におけるビジネスを前提にして考えた場合、そのなかでも3つ目は必須条件です。日本人は男性も女性も、欧米人に決して劣りません。それどころか、国連など国際機関での評価は世界トップクラスです。

 ところが、エグゼクティブプレゼンスを知らずに服装で誤解を与えてしまうのはもったいない、低い評価になってしまうのは損だと思います。

 私は20年以上アメリカで法曹界や服飾業界で働き、欧米人エグゼクティブの感性や服装は熟知しているつもりです。そのため、日本のキャリアウーマンの社会的地位にふさわしい上質な服、それでありながら堅苦しくない魅力的なデザイン性のある服をデザインすることが自分のミッションだと考えています。

(つづく)

【聞き手・文:金木 亮憲】


<プロフィール>
島津 洋美
(しまづ・ひろみ)
Princess Hiromi ファウンダー デザイナー 島津洋美 東京都出身。ジョージタウン大学卒、ボストンカレッジ法科大学院で法学博士(J.D.)、ニューヨーク州弁護士資格を取得。ウォール街の法律事務所で働く。その後、コロンビア大学経営大学院で経営修士号(MBA)取得。ニューヨークの大手アパレルメーカー・リズクレボーン社で日本担当統括マネジャーとして日本・アジア地域のブランド戦略を担当。経営コンサルタントの傍ら、ニューヨークと東京でテキスタイル、立体裁断、デザインについて各分野の第一人者に師事。2011年Princess Hiromi創業。デザイナーとして、国際感覚をもつ知的で女性的な「個性を魅せる服」を創り出している。駐日スウェーデン大使館からの日本起業家賞、DELLグランドブレイカー賞など多数。著書に共著 「カラーセオリー イン ショップ」(日本実業出版社)がある。


中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、米国競争情報専門家協会(SCIP)会員、中国競争情報協会国際顧問。2014年東久邇宮国際文化褒賞を授章。

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