インドネシア・パーム油生産農園視察（ボルネオ直行ルポ）（5）時代の勢いへの布石の重要性

バイオマス発電の期待の台頭

　薩摩氏（以下、登場人物は仮名）のもとにパーム油農園会社の話が転がってくるまでには、前史がある。「このパーム油精製事業が貴重な戦略分野であることを身に染みて感じる体験があってこそ」ということを強調しておきたい。この体験がなければ、ビジネスの価値もわからない。

　ここからは今回、同行した佐賀氏を主人公に仕立てて、話を進める。

　経済産業省が再生可能エネルギー重視を叫び始め、具体的な政策が打ち出され始めた。そのトップバッターとなったのは太陽光発電による電力の高値買い取り政策であったが、陰では、バイオマス事業にもスポットライトが当てられた。そのなかで新参者として、パーム油燃料による発電も電力の高値買い取り政策の一環に加えられた。これ以降、佐賀氏のビジネス人生は転機を迎えることとなる。

　さまざまな機械プラントを開発していた友人が、パーム油を燃料にした発電機を製作し、売り出すことになった。この友人から「パーム油を使った発電はCO2の削減効果があり、地球温暖化を防ぐ上で大きな役割がある。この販売戦線の陣頭指揮を執ってくれ」という誘いを受けた。「社会貢献、地球貢献」が佐賀氏のビジネスの指針であるため、断る理由はない。即座にこのオファーを快諾した。

　パーム油発電機の販売は気持ちのよいものであった。「地球温暖化に貢献できる発電ビジネス」をうたうと、お客が同調して契約してくれることに喜びを覚えたのだ。しかし、実際にはパーム油発電の採算が十分に合うから同調してくれただけなのである。パーム油発電の台頭という時流の変化を直感的につかみ、行動に踏み出すという決断はあっぱれだ！転職は間違いなかったと佐賀氏は確信したが・・・。

パーム油が入手できない

　ところが、パーム油の需要が世界中で拡大するようになり、状況が暗転し始めた。パーム油の用途は、食糧用、燃料用の2つに大きくわかれるが、その使い勝手の良さが知れ渡るようになったため、どの分野においてもパーム油の需要が世界的に増大していった。パーム油発電の時代が台頭するのはありがたいことであるが、品薄になればパーム油発電のビジネスの成立が危うくなる。

　パーム油の価格が上がっても大量に確保することができれば、どうにかしてやり繰りが可能であろうが、予期もしなかった最悪の事態となった。パーム油を入手できなくなったのである。発電機を売らなければ飯を食えないが、発電機を購入したお客はパーム油を確保できないために稼ぐことができないため、佐賀氏はプレッシャーのあまり、体に異変をきたしてしまった。

薩摩氏との出会い、パーム油との出会い

　このパーム油発電機製作会社の経営が傾き始めた矢先に、佐賀氏と同社の経営者は薩摩氏との知己を得ることとなった。相談を受けた薩摩氏も社会貢献できる同社とのご縁であると判断して、共同経営案を提示した。先方も納得し、同社を薩摩氏のグループ会社の1社にしたのが、1年前のことである。

　もちろん、パーム油ビジネスの将来性を買ったうえでの判断である。薩摩氏は頭の中では「パーム油の取り扱いと発電機の販売という組合せで面白いビジネスが組み立てられる」という構想を練っていたであろうが、パーム油農園経営の機会が転がってくるとは夢にも思っていなかったのも当然だ。

　薩摩氏は、このパーム油発電機製作会社を傘下に置く機会がなかったら、パーム油農園会社の買収に執着をみせなかったのではないかとも推察される。やはりどのような強運に恵まれていても、必然的な流れになるのが道理。さて、パーム油を取り扱う企業の元締の立場となった佐賀氏のビジネス環境は、いかに変貌したのであろうか。佐賀氏からは「パーム油というバイオマス発電の根本となるものを押さえると、世界が変わります。こちらの動き次第で、市場動向に影響を与えられるようになりました。情報発信の主導権も握ることができます。また、発電機セールスにおいても、お客様本位で進めることが容易になりました」と自信溢れる言葉が返ってきたのである。その後、佐賀氏はジャカルタに2泊滞在して帰国した。

　ここで残念な事態が発生した。予定していたボルネオ行きについて、行きの便が12日のチケット、帰りの便が13日のチケットしか取れないという。目的地までの飛行機は1日1往復便しかないのだ。これではゆっくりと現地取材をすることができなくなってしまったが、「まあ仕方がない」とあきらめた。

（つづく）