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2021年06月02日 15:00

鳥栖市による「農地法違反」問題 法令違反より深刻な行政のやり口(前)

 鳥栖インターから約7kmの好立地で進められている「新産業集積エリア鳥栖」整備事業は、27haの農地を先進企業の集積地に変える大型プロジェクト。2006年の正式決定後に推進されてきたが、18年に鳥栖市による農地法違反が発覚。推進の足かせとして横たわっている。用地買収が終了しておらず問題解決のスタートラインにさえ立てていないなか、「違法状態」是正の方法をめぐって市と区長ら一部地元住民が対立していることが明らかになった。

鳥栖市が農業委員会を経ずに農地転用

 農地法では、農地転用や転用を前提としたところ有権の変更を行う場合、市の農業委員会を経由した県知事の許可が必要と規定している。農業委員会は県知事に判断材料となり得る意見書を提出し、その後知事が意思決定する。ところが、2016年4月以降、鳥栖市は整備用地の大半を購入し、許可を受けないまま市名義に登記を変更していた。

 17年5月に市農業委員会がこの違法状態を指摘し、18年9月に地元紙の報道により発覚した。第三者委員会は市職員による「農地法への誤った認識」が違法状態に陥った要因と結論づけた。その後、市は事後追認を目指しているが、今も違法状態が続いている。違法状態が発覚した時点で、地権者約150名のうち7名以外と契約し、約16億7,800万円の支払いを終えていた。

事後追認を目指す理由が変容した鳥栖市

現地の風景
現地の風景

 違法状態を是正する手段は、登記名義をいったん所有者に戻す方法と、そのままにして事後追認する方法の2通りが考えられる。前述した通り、市は一貫して事後追認による是正を目指している。19年7月、市商工振興課はデータ・マックスの取材に対し、「登記を戻す方法では支払った売買代金の返金義務が生じる」ことを大きな理由に挙げている。

 これに対し、地元住民や同市幸津町区長は「地域住民への十分な説明やそれに基づく同意を怠ったなかで発生した違法状態である」と指摘し、「地元の理解を得て登記を戻し、違法状態を解消してから推進すべき」としている。

 周辺地域とのトラブルを回避するため、各農業委員会では関連団体の同意書の添付を求めている。鳥栖市農業委員会では少なくとも区長、生産組合長、水利組合長の用水(排水)同意書の添付が必要となる。幸津町ではこれら3団体の代表を区長が兼任しているが、「約束が守られていない」として20年7月、区長、生産組合長、水利組合長連名の「排水同意書」を撤回している。

 ある市民は「商工振興課には新幹線事業に関わった職員が複数いる。そのときに農地転用は経験しているはず。第三者委員会が結論づけた『農地法への誤った認識』は考えにくい」と指摘。「登記復帰をやりたくない理由はほかにある」と見立てる。

 今回改めて取材で、事後追認を目指す理由を市商工振興課に聞いたところ、「追認という表現は適切でないと思うが、戻さずに申請する方法を県が市の農業委員会で説明し文書で示した」からだと説明している。また、以前の取材で「返金義務が生じることが大きな問題」と回答したことについては、「戻さず申請する方法を検討していた。だからそういう答えをしたのだろうか」と言葉を濁す。

 前述の市民は安易な事後追認に懸念を示す。農業委員会の崩壊を招き、農業の衰退を加速させる可能性があるからだ。もし、鳥栖市農業委員会が追認を認める意見書を出せば、全国で初めて行政の無知・不手際による農地法違反を認めた農業委員会となる。農業や農業者の利益を代表する機関である農業委員会の構成員のほとんどを農業者が占め、本業の合間を縫って委員会活動を行っている。「意見書の妥当性が問われ無用な批判に晒されれば、今後農業委員の受任者がいなくなる」(同)。さらに、農業委員会の存在が形骸化し、各自治体が事後追認を連発する契機になる可能性も否定できない。

 20年7月に選任された現在の鳥栖市農業委員は11名(弁護士1名)で構成され、7名が新任。3年間の任期がある。

事後追認にこだわり、地域住民の態度が硬化

 こうしたなかで4月20日、定例の農業委員会の開催後に、農地法違反の現状に関する勉強会が開かれた。対象は農業委員と遊休農地の発生防止などに取り組む農地利用最適化推進委員(以下、推進委員、構成員15名)。市が事後追認にこだわり許可申請を提出した場合に、農業委員会として取り得る対応などについて、農業委員の弁護士から私見が示された。最終的な決裁権は知事にあり、責任を取るのは佐賀県であって鳥栖市農業委員会ではないことなどが説明された。用地担当の推進委員からは、市の姿勢への不信感が語られた。推進委員のなかには、この時初めて用地買収が終わっていないことを知る者もいた。市と地元のコミュニケーションが取れておらず、用地買収さえ終わっていないのが現状。一部の農業委員と推進委員の顔ぶれが前年に変わったばかりとはいえ、情報が共有されないなかで、「転用申請された場合」を想定した議論が先行するという異様さが浮き彫りとなった。

 かたくなに事後追認にこだわる市だが、違法状態を是正する手段はほかにもあることが明確になっている。農林水産省は当時の市農業委員会事務局の問い合わせに対し、県の事業として継続する方法があると回答。また、前期の複数の農業委員からは、国から公的文書を取得することを提案されている。国から追認やむなしの公式見解を引き出せば、市農業委員会の責任は回避できる。さらに、市が農業委員会を提訴し、裁判所など客観的な第三者に判断を仰ぐという手段もある。法的手続きは相応の費用負担が生じるが、判断が下されれば法的根拠が明らかになる。市はこのいずれも選択せずに、「県が示した方針だから」という理由で事後追認に執着している。「新たな買収が停滞している2年間に、過去の登記を復帰する時間はいくらでもあった」(前述の市民)のである。

(つづく)

【鹿島 譲二】

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