2024年05月04日( 土 )

新聞業界に激震、輪転機最大手・東京機械製作所が乗っ取られる?!~買収防衛策でアジア開発キャピタルに対抗(後)

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 輪転機の名門が買い占めのターゲットになった。新聞輪転機メーカー最大手の(株)東京機械製作所(以下、東京機械、東証一部)である。買収を仕掛けたのは中国・香港系金融会社が出資する投資会社、アジア開発キャピタル(株)(以下、ADC、東証二部)。新聞・通信40社が懸念を表明し、政府が情報収集に乗り出す騒ぎとなった。

経済安全保障の観点から政府が動く

経済産業省 波紋を広げたのは、時事通信(9月11日付)が「政府、東京機械株問題で情報収集 香港系が買収の動き、経済安保にらむ」と政府の動きを報じたことによる。

 会員制情報誌『FACTA』が中国系資金の関与と東京機械株買い増しに関する記事を掲載したことを受けて、〈経済安全保障政策に関わる内閣官房が東京機械買収の動きについて、経済産業省など関係省庁に情報収集を促した〉と報じた。

 東京機械は、外国資本による国内企業への出資を規制する外為法で、出資時に原則事前の届出が必要な「指定業種」だが、国内上場投資会社ADCによる株式取得は同法の規制対象外になるとの見方もある。時事通信は、〈内閣官房や経産省などは、中国・香港資本系のADCに経営権が移った場合に新聞発行事業など社会インフラに及ぼす影響を見極めたい考えとみられる〉と伝えた。

 ADCによる東京機械の買収問題は、今や経済安保のホットなテーマに浮上したのだ。

あの手この手の買収防衛策

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 新聞はこの問題をどう報じたのか。上場企業とはいえ、年商が100億円程度にすぎない企業の株の買い占め騒動だ。一般紙ならば、経済面の隅にベタ記事扱いが普通だろう。しかし、東京機械は違った。

 朝日新聞(9月14付朝刊)は経済面のトップに、「輪転機最大手、買収を警戒 投資ファンド、株式4割買い集め」と大々的に報じた。一般には馴染みのないさまざまな買収防衛策が紙面に躍る。東京機械には買収防衛策のプロが軍師に付いているのかと、得心がいった。引用する。

 〈経営側は8月6日の取締役会で、アジア社側を除いた既存の株主にだけ新株予約権を与える買収防衛策「ポイズンピル」を導入した。発動されればアジア社の株式の保有比率を引き下げ、影響力を薄める効果がある。経営側は10月下旬に開く臨時株主総会に提案する予定だ。

 アジア社はポイズンピルなどが発動された場合、差し止め請求を申し立てるとした。経営側が8月30日に発表した子会社の土地売却は、企業価値を下げる買収防衛策「焦土作戦」にあたると主張。全従業員の1割超にあたる55人の希望退職の募集についても、買収前に多額の退職金などを決める防衛策「ティン・パラシュート」にあたると指摘する。

 経営側は土地売却や希望退職は株買い増し以前から検討していたとして、アジア社の主張は「事実誤認に基づく言いがかり」だとする〉

   ADCの真の狙いは何か。高値売り抜けを狙った仕手戦なのか。マネーゲームなら大騒ぎすることはない。それとも中国系マネーが老舗企業を買収し、そこを中核にして、日本の経済、市場に浸透していくことを狙っているのか。新聞や政府が危惧していることだ。だが、その意図は見えてこない。

 新聞・通信40社は連名で、ADCの買収の動きに「懸念」を表明した。ADCに買収されれば、中国にとって都合の悪いことを記事にした場合、東京機械が行っていたような精緻な補修サービスが受けられなくなり、新聞発行の日常業務に影響が出ることを恐れているからだ。

 新聞社にとって輪転機は急所。中国系マネーに急所を握られようとしている。その危機感が、新聞・通信40社を突き動かした。

 東京機械とADCの攻防戦は、東京機械が10月22日に開催する臨時株主総会にもつれ込むことになった。新聞業界は固唾(かたず)をのんで見守っている。

(了)

【森村 和男】

(中)

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