2024年04月26日( 金 )

小売こぼれ話(12)関西スーパーをめぐる攻防(後)

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同質化の克服と新たな試み

スーパー レジ イメージ 追いかける者の成長は早い。卓越した売り場管理レベルも同業者のレベルアップでごく普通のレベルになった。ブルーオーシャンは時間の経過とともにレッドオーシャンに変わった。その結果、この10年間の売上は前年割れの年も多く、トータルは10%にも満たない。

 売上の拡大は企業生存の基本だ。10年も売上が成長しないとなると、それは経費の高止まりと粗利率の低下につながる。その結果が今回のH2Oとオーケーによる争奪戦だ。しかし、そのH2Oも傘下のイズミヤや阪急オアシスの業績が好調とはいえない。とくにイズミヤはGMSを捨ててスーパーマーケットに特化しなければならない状況に置かれている。

 本家の百貨店立て直しも急務だ。そんな状態でグループに関西スーパーを加えることがいかほどの効果を生むかは大いに疑問が残るところでもある。関西スーパーは今回の争奪戦で、株主に大幅な増益をコミットメントした。しかし、その達成は極めて困難だ。なぜなら、今回の合併で顧客に提供するものを大きく変えることができないからだ。合併によるスケールメリットや経費削減といった従来型の発想はお客の増加には何の役にも立たない。結局コミットメントは空手形に終わるだろう。業績が低迷する企業同士の合体は弱者連合に他ならない。取りあえずよそ者を排除するという地域連合的な合併は、しっかりした将来戦略がないままの規模拡大になるという結果はどの業界も同じだ。大手家電メーカーが政府の肝いりで誕生したジャパンディスプレイなどはその好例だ。

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 一方、関西スーパーが、オーケーと組んだとしたらどうだろう。オーケーとH2O傘下のスーパーマーケットの違いは一定売り場面積あたりの売上と粗利益率、経費率の違いだ。 オーケーの経費率は16%。一方、関西スーパーのそれは24%を超える。その差は8%だ。粗利益率は22%と26%と4%の差がある。それぞれの商品戦略を考えるとこの差はさらに大きいと考えていい。この構造は売り場での大きな価格差となる。もし、オーケーが関西スーパーを傘下に収め、経営手法をオーケー式にするとしたら完全な業態変更である。顧客の目に移る店内の風景はそれまでとまったく違うはずだ。

 考えてほしい。福岡市西区にあったダイエーの大型店舗がイオンに姿を変えてもお客は増えなかった。その後、同店がドン・キホーテに姿を変えた途端、大勢のお客が押し寄せた。その理由ははっきりしている。いわゆる「メーク ア ディファレンス」だ。

 ずいぶん昔から大手スーパーは看板を外せばどこも同じ店だと皮肉られた。そして、それは今でも変わらない。

 ダイエーの旧店舗にお客が押し寄せたり、小型スーパーマーケット跡に業務スーパーが出店してかつての賑わいを取り戻したりするのは不思議なことではない。売り場イメージが一新するからだ。消費者は未知のものと新しいものに敏感に反応する。逆に、既知のものへの反応は鈍い。そうした観点から今回の合併劇の結果を考えると、関西スーパーの業績改善は望み薄だ。

 オーケーはかつて教えを請うた恩返しの意味もあり、買収に手を挙げたというが、それは外交辞令に過ぎない。同社独特の経営戦略で、高い経常利益率と順調な規模拡大を手にしているが、さらなる業績の拡大ということを視野に入れると、関西という新エリアに食指を伸ばすのは戦略として至極当然のことだ。

 これまで百貨店主導の食品スーパーの組織改革、業績改善がうまく行った例はほぼ皆無だ。風土や習慣、文化などその融合は規模の拡大や経費の節減といった月並みな改善策では対処できない。

 不景気なH2Oグループだけでなく、少子化、人口減、高齢化と小売業を取り巻く環境は極めて厳しい。そう遠くない将来、百貨店を含む業態の混沌は何でもありのかたちになる。アマゾンなどのオンライン企業、国内最大の小売業イオン、地方の雄の連合など複雑怪奇ともいえる混沌競争のなかで、統合新会社関西フードマーケットのかじ取りは当然のことながら容易ではない。

(了)

【神戸 彲】

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