2022年05月26日( 木 )
by データ・マックス

新しい「からだ」、永遠の「いのち」〜わらび座の再出発に寄せて

 10月下旬、「(株)わらび座、民事再生法適用申請」の第一報に接したときは、文字どおり頭が真っ白になった。筆者がわらび座に出会ったのは比較的最近のことだが、初めて舞台に足を運んで以来、美しい音楽と躍動感あふれる踊りに乗せて紡ぎ出される「日本人のこころ」の世界に、すっかり魅了されてしまっていたのである。まさか、あの劇空間にはもう二度と…?そんな恐れの気持ちを察してか、この件を電話で真っ先に知らせてくれた友人は筆者をこう励ました。「かたちは変わっても、きっとよみがえることができますよ」。

 一義的には、事業承継のために前月に設立されていた「(一社)わらび座」のことを指してそう言ったのだと、いま思う。だが、この一言で筆者ははっと思い至ったのだ。わらび座は70年の活動を通じ、まさに自身が数々の「いのち」に新しい「からだ」を与え、再生させてきたのではなかったか、と。

 わらび座の作品は人の生きざまを描き出す。それは、フィクションであれ歴史上の偉人であれ、皆どこかで出会ったことがあるような、懐かしい思いに駆られる人ばかり。何年も前に、またねと別れたきりの友人、街で何気ない会話を交わした名も知らぬ人、今は亡き家族、なにより、日常に追われすっかり忘れていた過去の自分自身。演者の肉体を通して、その「ひと」はいまこの瞬間、現実世界に生き生きとよみがえる。

 演劇とはそういうものだと言われればそうかもしれない。だが、わらび座のそれは、その時どきの世相や出来事に即したテーマで、人々に「これから」を生きる力を与えてきた。『ジパング青春期』(2017年)は、1611年の慶長の大地震・大津波によって絶望に沈む三陸の人々が、藩主・伊達政宗の「慶長遣欧使節団」計画を通して再び立ち上がる様子を描きつつ、奇しくもその400年後に起こった東日本大震災で再び深い傷を負った東北の人々に力強いエールを送った。パイオニア精神に溢れた人々の活躍を描き出す『北前ザンブリコ』(18年)や、コロナ禍のなかで上演された『北斎マンガ』(21年)は、あらゆる領域で行き詰まりを見せる日本社会に、現状打開のヒントを与えたはずだ。

 そこでは常に、シスター渡辺和子もいうところの「置かれた場所で咲」く生が、1つひとつ輝きをもって立ち現れている。しかも、そうして生きた「いのち」はかたちを変えて永遠であると、手塚治虫の名作を原作とする『火の鳥 鳳凰編』(08年)・『アトム』(10年)・『ブッダ』(13年)の3作品を通じ、人々を励ましてきた。そんなわらび座が新しい「からだ」で復活しようとしているいま、そこに新しい「生」を与えるのは今度は我々の方であると、多くのファンとともに決意を新たにしている次第である。

【ライター・黒川 晶】

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