2024年04月27日( 土 )

【企業研究】受難の時代続く~(株)西日本新聞社

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 ブロック誌の雄として九州のメディア業界に君臨する(株)西日本新聞社だが、新聞業界の衰退の波には抗えず、業績は右肩下がりが続いている。さらに昨年7月には、元新聞販売店主から不要な仕入れを強制する「押し紙」で提訴されるなど難局が続いている。

押し紙訴訟始まる

西日本新聞 イメージ    2013年から20年まで長崎県の販売店を経営していた元店主が、21年7月に西日本新聞社を相手取り、約7年分の「押し紙」の仕入れ代金など約3,050万円の支払いを求めて福岡地裁に提訴した。訴状によれば平均15%程度が押し紙だったと主張している。新聞公正取引協議会のモデル運営細則では、雨濡れや破損、配達漏れに備えた予備紙は新聞購読部数の2%を超えない範囲と定めているが、それを大幅に上回る仕入れを強要された結果、販売店の廃業を余儀なくされたという。

 この裁判では、一般には馴染みのない「4・10増減」という言葉が出てくる。紙面広告や折込広告を発注する広告主は、毎年4月と10月のABC協会が発表するABC部数(新聞社の新聞発行部数)を広告発注の重要な指標としている。新聞社は4月および10月時点の発行部数が多いほど、広告料収入が増えることになる。西日本新聞社では4月と10月にほかの月より部数を増加させる「4・10増減」と呼ばれる販売方法が採られていたという。かつて80万部と言われた西日本新聞も、発行部数は右肩下がりで50万部をすでに割り込んだ。そこに「押し紙」の存在を考慮すれば、ピーク時の半分にまで発行部数は減少している可能性が高い。

本業は凋落一途

既往の業績(連結)

 西日本新聞社の連結売上高は、21年3月期では349億円にまで減少し、4億円を超える最終赤字に転落した。もちろん会社売却などの影響はあるが、主力事業である新聞発行の凋落が続いている。08年の売上高が約700億円であり、13年間で半分になった。この傾向は今期も変わらず、21年9月期(22年上半期)の業績も、対前期比で減収減益。セグメント別に見ると、メディア関連事業の赤字が上半期で7億円超にまで拡大しており、相変わらず赤字の新聞を不動産でカバーする格好だ。

セグメント別売上高(その他除く)

セグメント別営業利益(その他除く)

セグメント別従業員数(その他除く)

 次いでバランスシートを見てみよう。不動産や投資有価証券などの固定資産は分厚く、九州メディアの雄に相応しい内容だ。売上減少にコスト削減で対応する縮小均衡策により資産を守ってきた。現預金は120億円超あり、先述の固定資産と合わせて考えれば、資金繰りに問題はないが、今後も本業の不振が続けばそうもいかない。新聞発行はすでに採算割れの状態であり、これまでに蓄積した資産と、近年の土地高・株高の資産インフレに救われているのが実情だろう。縮小均衡策もいずれは限界を迎える。

要約貸借対照表(連結)

撤退戦の様相

 同社は創刊150年の2027年に向けて「2023中期経営計画」を策定し、3つの方針を打ち出した。要約するとデジタルシフト、不動産など新聞以外の事業へのシフト、各事業の連携強化だ。地方紙の最大の強みはローカル性であり、地域のニュースを深掘りする戦略を採るところが多い。一方で、緊急性や重要度の高いニュースが増えるわけではないため、深堀の労力に見合うニーズは生まれてこない。専門性に乏しい一般紙では、ビジネスモデルの拡張性もなく、基本方針が撤退戦の域を出ない。

 同社は22年4月1日を効力発生日として、会社分割により、新聞、出版物および印刷物の制作・発行事業の一部を昨年4月に設立した100%子会社の(株)西日本新聞プロダクツに継承させる。目的は発行部数が減っても持続可能な新聞製作体制を確立するためとされている。グループとして組織再編を進めるリストラ策だが、業績悪化から巻き返すというより、悪化を遅らせるのが精一杯という印象だ。「押し紙」訴訟を含め、今後の同社は受難の時代が続いていくだろう。

【緒方 克美】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:柴田 建哉
所在地:福岡市中央区天神1-4-1
設 立:1943年4月
資本金:3億6,000万円
業 種:新聞発行ほか
売上高:(21/3連結)349億7,400万円

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