2024年12月10日( 火 )

ウクライナ危機、大統領夫婦関係から読む米ロの思惑(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸 氏

 ウクライナ危機が起こるなか、これからの世界はどうなるのか。政治指導者や経済界の大富豪に寄り添って、ともに歩み、彼らを支え、操る夫人や愛人との関係から、世界情勢の裏側を解き明かした『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』の著者である浜田和幸氏に、今後の国際動向について話を聞いた。

オレナ夫人のソフトパワー戦略が成功

浜田和幸氏『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』

    ──ゼレンスキー大統領のインターネットを通じた情報戦略は、世界中の支持を集めています。大統領を支えるオレナ夫人は、ウクライナ危機でどのような役割をしていますか。

 浜田 ウクライナ危機は、ロシアの軍事力による「ハードパワー」と、SNSを使った戦略で世界の支持を集めるゼレンスキー大統領の「ソフトパワー」の戦いになっています。

 ゼレンスキー大統領は元役者であり、演出が巧みですが、米国CIAの息がかかった人々が大統領就任前からそばで情報や資金を提供してきました。3年前の人気ドラマ「サーヴァント・オブ・ザ・ピープル(国民の奉仕者)」では、ゼレンスキー氏が教師から思いがけずウクライナ大統領になった役を演じましたが、ドラマのシナリオを描いたのは米国のコンサルティング会社です。また、ゼレンスキー大統領がつくった映画制作会社「第95街区」の資金獲得を支援し、海外放送局とのネットワークを築いたのもワシントンのPR会社であり、大統領のソフトパワーを支えているのは、情報戦に勝てる方法をアドバイスする米国ワシントンのPR会社です。

 ゼレンスキー大統領を支えるオレナ夫人は、約260万人のSNSのフォロワーがいて、前線で戦う夫と2人の子どもをそばで支え、ロシアの圧力にめげずに戦っているとSNSで発信し、国民を鼓舞しています。また欧州の国にも、ウクライナのようにロシアの脅威が降り注ぐ可能性があると伝え、世界から注目を集めています。

 これはまさにバイデン政権が意識している、新しい時代の戦争の在り方ですね。米国は以前から、ロシアが実力行使でウクライナに攻め込んだときに、国同士が正面衝突して核戦争になることを懸念し、報道やSNSなどのソフトパワーこそが戦争を決する大きな要素であると考え、ロシアの対抗者としてゼレンスキー氏に注目するという戦略を描いてきました。

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 ゼレンスキー大統領はロシア独立系メディアの取材で、「真実を知ることはいかに大切か」を伝え、ロシア国内でも反響を得ています。米国は、プーチンに対し反旗を翻させるための情報工作を行っており、ロシアの新興財閥・オリガルヒには、プーチンに見切りを付けてロシア国外へ脱出する者も出てきています。米国は今回、ロシアを抑える方法が成功すれば、台湾有事の際に中国に対してもソフトパワーの戦略が使えると考えているようです。

 ソフトパワーを使ううえで、ゼレンスキー大統領を支えるディープレディ、オレナ夫人の役割は極めて大きいのです。オレナ夫人は3月8日の国際女性デーにロシアの子どもをもつ母親たちに向けて、ロシアが攻め込んで子どもたちがひどい目に合っているとSNSで発信し、共感を呼びました。

国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏
国際未来科学研究所代表
​​​​浜田 和幸 氏

    またオレナ夫人は、ウクライナの子どもの栄養状態を改善するために、栄養を考えて献立が工夫された日本の学校給食から学ぶべきだと伝え、目の見えない子ども向けに日本の昔話のオーディオブックをつくり、その価値を学ぶことを支援するなど日本への理解を示しています。加えて、世界のトップレディと会う時にはウクライナのデザイナーの衣装を身に着けて、国民に自信をもってもらえるよう心がけています。

 ゼレンスキー大統領はオレナ夫人と2人の子どもとウクライナの首都キエフに残り、自由のために戦う姿勢が報道されていますが、プーチン大統領は2人の娘を産んだ元妻と離婚し、別の女性との間に娘をつくったようです。その後、元新体操選手の愛人アリーナ・カバエワ氏を4人の子どもとともに、スイスにかくまっていると言われています。

 このように2人の大統領とその家族の有り様を比較して見ると、ウクライナに対する共感を呼び、「プーチンはひどい」という世論になります。米国が裏側に付いてうまく演出しているため、ロシアには厳しい状況です。

 スイスでは、プーチンの愛人であるアリーナ・カバエワ氏と4人の子どもたちをスイス国外に追放すべきだという運動が起こっていますが、ロシアがウクライナから撤退するように、プーチンを説得させるためにカバエワ氏を橋渡し役に使うべきだとする意見もあり、これから動きが出てくるかもしれません。

(つづく)

【石井 ゆかり】

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<プロフィール>
浜田 和幸
(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)は、2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は、政治指導者や経済界の大富豪と夫人や愛人の関係から、世界情勢の裏側を解き明かした『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』(ワック)。

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