2022年08月20日( 土 )
by データ・マックス

【7/20】ウクライナ危機と国連~谷口元国連大使講演

元国連大使
OECD事務次長
岩手県立大学長 谷口 誠 氏

webセミナー イメージ    (一財)アジア・ユーラシア総合研究所は20日に「第15回アユ研フォーラム」を開催する。同研究所は上記地域に関する国際会議、研究交流、教育・出版などを通じた社会文化貢献事業を行っている。

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 日本ビジネスインテリジェンス協会より、同フォーラムにおける谷口誠氏(元国連大使、同研究所代表理事)による「ウクライナ危機と国連の在り方」に関する講演のレジュメを提供していただいたので紹介する。

 参加を予定している方は事前に目を通しておくと、内容について理解をより深められる。参加を検討中の方も、申し込み(アユ研HP)は間に合うとのこと。

ウクライナ危機と国連の在り方を問う

1    ウクライナ危機は戦後、世界最大の危機

 米ロの対応次第では、人類を滅亡の危機に陥れる危険性があると考えられる。

2 ウクライナ危機の遠因

 ロシアのプーチン大統領のロシア帝国再建の野望。
 私の見たエリツィン元大統領とプ-チン大統領との相違。
 1994年ハンガリーの全欧安全保障協力機構(OSCE)での経験。
 NATOの敵国はどこなのか?
 NATOの拡大とプ-チン大統領の反発と強行対応。

3 長期化するウクライナ危機のもたらす世界的悪影響

 世界をさらに分断化し、エネルギー危機、食料危機をもたらし先進国のみならず、途上国が受ける悪影響は極めて大きい。中国が「漁夫の利を得る」との説があるが、私はそうは思わない。

4 最大の犠牲者はウクライナ

 私の印象では、ウクライナは極めて牧歌的な感じの良い国であった。現在は主として、米ロの最新鋭の武器による戦場と化し、何百万もの難民と多くの死者を出している。では誰がどのようなかたちで、ウクライナ危機を停戦に持ち込み、人類の危機を防ぐことができるのであろうか。米国は軍隊を派遣していないが、当事国であり、卒直に言って現在の米国にはその力はない。本来ならば国連が調停に乗り出し、その任務をはたすべきである。

5 国連の対応と限界

 今回のウクライナ危機においても、グテーレス国連事務総長は、さる4月25日にロシア、26、27日にウクライナを訪問したが、ロシアのプーチン大統領は、極めて冷たい待遇をした上、ウクライナ訪問中にロケットを打ち込んだ。このようなロシアの国連無視の行動は、世界の平和に貢献すべく選ばれ、特権を有する5大国の1国として、なすべき行為ではなく、糾弾されるべきである。

 私の長い国連での経験でも、1960年の第15回国連総会において、当時のソ連のフルシチョフ首相は、スウェーデンのハマーショルド国連事務総長とアフリカなどの植民地解放問題をめぐって、激しい議論を展開した。フルシチョフ首相の態度は横暴を極め、ハマーショルド事務総長への個人攻撃を行った。これに対し、ハマーショルド事務総長は、毅然とした態度で対応した。その結果かどうか明らかではないが、ハマーショルド事務総長はアフリカ訪問中に、彼の乗った航空機が撃墜され殉職した。

 これは一例だが、歴代事務総長は、5大国、とくにロシア、米国との関係に配慮しなければ再任されることは難しい。私の見るところ、国連事務総長のポストは極めてハ-ドではあるが、世界のなかで最高のアトラクティブなポストであり、これまでの事務総長は、おしなべて一期目の終わりに近づくと、5大国に配慮するようになる。ここに国連の弱点があり、5大国の在り方、とくに5大国のもつ「拒否権」(VETO)の在り方を考えなければならない。

 今回のウクライナ危機に際しても、2月25日の国連安全保障理事会においてロシアへの非難決議はロシアのもつ「拒否権」により無効となった。

 「現在の国連の5大国による『拒否権』行使の回数は、1946年から2020年8月までに、ロシアが116回、米国が82回、英国が29回、フランスが16回、中国が16回となっており、現在ではもう少し増えているだろう。『拒否権』が世界の平和に貢献するために、行使されるならばよいが、今回のロシアのウクライナ侵攻の際の『拒否権』の行使は、『拒否権』の乱用であり、大国の横暴としか言いようがない」。

6  新しい国連の設立に向けて

 今まで縷々述べたように、第二次世界大戦の戦勝国であった5大国が、いまだに拒否権をもち、牛耳っている国連は過去の負の遺産を引き継いだものであり、ウクライナ危機に際しても、ロシアに対してモラルのプレッシャーを加えることはできても、今のプーチン大統領には通用しない。

 そもそも、戦後世界は大きく変化しているのに、5大国のみが拒否権をもち、時に乱用している国連は、新しく建て直さなければ、世界の平和に貢献できず、存在する意味がない。

 「去る2月22日、外国特派員協会で、西原春夫先生の『東アジアの平和を守る会』の会合で、同協会の司会者から、国連の『拒否権』の問題を質問された。今から思うと、この司会者はロシアがその2日後にウクライナを侵攻する情報をもっており、この質問をしたのではないかと思う。これに対し、明石康さんは、現在の国連の『拒否権』で問題なしと答え、私は問題あり、改革しなければ、国連の平和維持機能は守れないと答えた」。

 現在の国連は多くの矛盾を抱えている。第1に、国連憲章では53条、77条、107条が敵国条項として残されており、日本、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドは敵国である。

 1986年の国連総会では、当時の中曽根総理が敵国条項を削除することを主張されようとしたが、明石さんなどの慎重論を唱える人たちの意見もあり、非常に残念がっておられた。おそらく自分が敵国条項の廃棄を主張する最後の首相になるだろうと予言されていた。

7 結語

 私は最後に、日本は今年から国連安全保障理事会の非常任理事国になるが、国連改革を目指す諸国と組んで、新しい国連の成立のため、最善の努力をすることを期待している。

 


<プロフィール>
谷口 誠
(たにぐち・まこと)
 1956年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に『21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦』(早稲田大学出版部)、『東アジア共同体 経済統合の行方と日本』(岩波新書)など多数。

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