2024年05月20日( 月 )

AOKI絶体絶命の危機 五輪汚職で創業者青木前会長逮捕の衝撃(後)

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 東京五輪・パラリンピック組織委員会元理事の資金受領事件で、紳士服大手の(株)AOKIホールディングス(神奈川県横浜市)の青木拡憲・前会長が東京地検特捜部に贈賄容疑で逮捕された、青木氏はスーツを売り歩く行商から身を起こし、グループ全体で1,500億円以上を売り上げる業界2位の大企業を築いた立志伝中の人物。大黒柱の逮捕で、AOKIは絶体絶命の危機に陥った。

高橋容疑者の紹介で組織委会長の森喜朗元首相と会食

 『朝日新聞』(8月25日付朝刊)は一面に「AOKI側五輪スポンサー契約前 森氏と面会『クリア』」との見出しで報じた。高橋容疑者が2017年7月、スポンサー就任を望む青木容疑者らと組織委会長だった森喜朗元首相(85)の会食の場を設けていたという内容。会食は、高橋容疑者が経営する都内のステーキ店だ。

 〈会食の終わり際、青木前会長は「末永くお願いします」と述べた。高橋元理事は「長い付き合いになると思います」と応じ、森氏は「ラグビーW杯が終わる(19年)秋ごろまでには決まっていると思うなどと言ったという。
 この発言を受けてAOKI側は、自社のスポンサー就任が森氏に認められ、決まったと認識したという〉

 青木容疑者が、同社が経営するカラオケ店で森元会長を“接待”していたことも分かった。最新号の『週刊文春』(9月1日号)は、森元会長とAOKI側のカラオケ会合のキーマンとして、今回逮捕された青木前会長の実弟で、前副会長の宝久容疑者の名前を報じている。

 AOKI側にとって、高橋容疑者だけでなく、五輪最大の実力者であり、中心の森喜朗元首相に接近できたメリットは大きい。青木前会長は、こうやって政界に人脈を広げていったのかということがよくわかる。

 驚くのは、高橋容疑者が、東京地検特捜部の調べに「AOKI側の依頼で森氏を紹介し、会食したことはある」とアッサリ事実を認めていることだ。

 〈高橋容疑者は、東京五輪の“闇”のすべてを知る男だ。特捜部は複数の政治家を捜査のターゲットにしているとされるだけに、政財界関係者は「高橋さんは何をしゃべる気なのか」と戦々恐々としている〉(『日刊ゲンダイDIGITAL』(8月25日付)

 五輪汚職がどこまで広がるかは、高橋容疑者の供述にかかっているといえそうだ。

超ワンマンの青木拡憲前会長が逮捕されたAOKIの行方

国立競技場 イメージ    青木拡憲氏は10年には息子である青木彰宏氏に社長職を譲り、自身は会長に就いた。会長になっても精力的な活動を続けた。最大の仕事が、東京五輪の日本選手団の公式ユニフォームを受注することだった。

 近年は働き方改革が加速し、年間を通じてカジュアルな服装での勤務を認める企業が増加。新型コロナの影響もあり、紳士用スーツは市場全体が低迷した。AOKIは時代の変化に合わせてコロナ禍でシェアオフィス事業に参入。本業の紳士服事業でも在宅需要を捉えた「パジャマスート」というヒット商品を生み出した。

 AOKIHDの23年3月期の連結決算は、売上高は1,661億円(前期比7.2%増)、営業利益は77億円(同41.5%増)、当期純利益は32億5,000万円(同26/8%増)と2期連続の増収増益を見込んでいる。コロナ禍前の水準(18年3月期の売上高は1,984億円)には戻っていないが、コロナの落ち込みから上向きに転じた。

 牽引するのは非衣料事業だ。4~6月期の連結売上高392億円のうち、祖業である衣料の「ファッション事業」は209億円。一方、複合カフェの「快活CLUB」、カラオケボックスや24時間営業のフィットネスジムの「エンターテインメント事業」は157億円。結婚式関連の「ブライダル事業」と合わせると、非衣料が連結売上高の半分弱を占める。エンターテイメント事業が「第2の柱」に育った。

 業績が回復してきたのを機に、6月29日の定時株主総会で、青木拡憲氏は会長を、実弟の青木宝久氏は副会長を退任。息子である社長・青木彰宏氏が会長に昇格、新社長には常務の東英和氏が就任した。創業家から社長が外れるのは創業以来初めてだ。

 その直後に、創業者として今日までトップであった青木拡憲氏が、東京五輪汚職で逮捕された。芸能人によるテレビCMなどでとブランドイメージを重視してきただけに、消費者の不信感が高まれば事業への影響が懸念される。「青木個人商店」の色彩が強いAOKIHDは最大の危機を迎えた。

AOKIホールディングス業績推移

(了)

【森村 和男】

(中)

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