2024年03月29日( 金 )

有澤建設通算100周年 中興の祖・木下泰博物語(10)~前途多難・5年早かった

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

有澤建設の財務改善は遅々と進まず

arisawa 木下英資氏が4代目に就任して6年を迎える。必死で立て直しに奔走しているのは認める。だが財務内容の進展にはいまだに至っていない。オヤジ・泰博氏が社長退任する際の財務内容を比較してみると一目瞭然である。2003年~2005年と2013年~2015年を比較してみよう。まずは当期利益比較でいえば前者は1.59%、1.31%、1.59%で推移している。後者は0.20%、0.47%、0.60%と収益性の悪化が顕著だ。

 また配当をみると前者は配当を行っているが後者は3期ともゼロ。借入は前者の最後は2億円と記録してあるが、銀行付合い分と説明した通り実質無借金になっていた。後者の15年期には8億を超える借入が記載されてある(木下泰博社長時代の借入はすべて事業資金の借入)。自己資本の変化であるが、前者は1億円の増加を果たしているが、後者は2,000万円しか増えていない。後者は蓄え不足期間といえる。

 一番の問題は総資産の水膨れである。前者の04年売上ピーク51億円を超えているときの総資産額は18億6,000万円台である。総資本回転率2.7倍という驚異的な数字だ。まさしく軽武装という理想の形であろう。ところが後者の場合、15年の例をとれば売上34億7,000万円に対して総資産26億4,100万円と回転率が1.3倍と半分に落ち込んでいるのだ。また利益がでていないのに15年8月期2,287万円使っている。2005年では518万円の支出しかない。すべての財務内容の劣化は如何ともしがたい。

 現在の受注環境で“赤字を出すのは無能経営者”とレッテルを張ってよい。永年、赤字を隠していたゼネコンの社長が小躍りして飛んできた。「隠し赤字が一掃できた」というのである。この例のように3年で隠し累積赤字を撲滅させたゼネコンの存在があるのだ。しかし、請負様天下の時代が永続するわけがない。英資社長は「50億円の完工高になってみせる」と豪語しているが、「自力でない、時代巡りが良い」と謙虚な姿勢を保つべきだ。
 「もうゼネコンにもバブル弾けがやってくる、冬の陣を支度しよう」という意識も持ち合わせていた方が賢明だと思う。

 最後に英資社長に助言をする。オヤジの経営ドキュメントをまとめてみた。ここは頭に叩き込むべきだ。「親父の成功は人の100倍の努力と気配りでなった。だが最大の要因は時代を読む力があったからである。3回の時代の風の流れを掴んだからだ。50億円の仕事はいまなら誰でも掴める。実力ではないことを戒めること」。
 5年間、英資4代目社長の健闘を認めるとして現在の建設業界のランキングを付記する。2006年度の調べでは売上高ランキングでは24位ながら評点ランキングは6位に躍り出ていた。泰博氏は有終の美を飾ったのである。ところが2016年調べでは完工高では33位に下り、評点ランキングでは40位に留まっているのだ。この厳しい現実がある。

泰博氏の判断ミス・5年早かった

 木下泰博物語も終わりとなった。このシリーズ10回をまとめる気持ちになったのは(1)平成時代の福岡建設業界の経営者として筆者が高く評価していること(2)100年の歴史(客観的には1963年創業)がある企業の事業承継のドラマに関心があったという2点があったからだ。とくに最近では多様な事業継承が建設業界に見られる。東区では駄目なオーナーに辞任を迫って事業再建した例もある。このシリーズ(10)には教訓になる項目は数多くあるはずと思う。

 では泰博氏はどうすべきであったのか!!結論*「辞めるのが早かった。あと5年社長をやるべきであった」というものだ。現在、同氏は75歳。70歳(2012年)までやるべきであった。そこから振り返ると泰博氏はビジネスでは鬼の厳しさで有澤建設を確固たる地位を築いたのだが、情に流される人間味(弱さではないが)の嫌いがあった。「木下建設として乗っ取った」という社会評価に過敏になり過ぎたのはないか!!引退を5年延ばしてあらゆる布石を打って英資氏に事業継承しておれば、現在、有澤建設は100億企業として評価ランキング5位以内には属していたであろう。

 義兄・有澤英一氏からも命ぜられていた「廣己を絶対に社長に就かせるな」の言葉は今や遺訓になっている。実姉(廣己氏の母親)に「姉さん!!兄貴(英一氏)の命令もあるから廣己は社長にはさせんよ」と断言すべきであった。だがしかし、家族関係の絆を重視する泰博氏の信条からいえば、非情な鬼の言葉と映り口が裂けても言いだしきれなかった。同氏の人間として篤い人柄がなした業なのであろう。

 本人も今となって率直に反省している。「企業を発展させるには鬼のような経営者判断をするべきであった。社長を譲って2年後には業績悪化となり、社員たちを動揺させる破目にさせたのは俺自身の責任だ」。物は考えようで英資氏へのバトンタッチを己の力で動乱に乗じてリスクを被る覚悟でなしたことは今後の大きな財産になるであろう。

 現在、廣己氏はまさしく貴族様の生活の暮らしをされている。まずは有澤建設の最大株主として代表会長に君臨されて外交活動に徹されているのだ。泰博氏が手当てした古賀ゴルフ場で対外活動に専念できる身分。長い間のお住まいであった南区からけやき通りの豪華マンションに移転されたのであるからご不満はなかろう。今後の懸念材料は株所有権の問題になる。英一氏の株も相続しているから過半数を制しているのが、廣己会長である。株主と経営権とがバランスが成立していれば支障はでないけれどもね。

hyouten uriage

hyou_a

gyouseki1_s

gyouseki2_s

※クリックで拡大 

 
(9)

関連記事