2024年04月29日( 月 )

FTX破産、暗号資産市場の「リーマン・ショック」になるのか(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

資金不足と流動性不足で破産申請

暗号資産 イメージ    低金利時代、投資家は伝統的な金融市場において期待するような収益をあげられなかった。そのため「新しい資産市場」として暗号資産ビジネスが急成長してきた。

 若い人を中心にビットコインなどの暗号資産に関心が高まり、昨年ビットコインは最高値を付けた。ところが、世界規模での物価高騰と大幅な金利上昇を受けて、伝統的な金融資産の運用利回りが上昇し、暗号資産に投資する魅力が薄れてきた。

 こうした2つの環境変化により、暗号資産市場にも大きな変化がもたらされた。また、今年5月に発生したステーブルコイン「テラUSD」の暴落は、暗号資産市場をより一層冷え込ませることとなった。

 そのような状況下、今回の暗号資産大手「FTXトレーディング」(以下、FTX)の経営破綻は、暗号資産市場と暗号資産ビジネスに対する投資家の信頼を大きく損なった。

 11月11日、資金不足に陥っていた暗号資産(仮想通貨)取引所大手のFTXは、米連邦破産法11条、いわゆるチャプターイレブンの適用を申請した。なお、FTXの創業者で最高経営責任者(CEO)のサム・バンクマンフリード氏は辞職している。

 FTXの破産で業界にはショックが走り、その後、波紋が広がりつつある。「取引所はこのままでは共倒れしてしまうのではないか」と懸念する声まであがっている。5月のステーブルコイン「テラUSD」の暴落とは違い、大手取引所が顧客の資金を流用したうえで破産したという点で、市場の信頼を大きく傷つけることとなったからだ。

 FTX破産は、FTXのグループ企業であるアラメダ・リサーチのバランスシートがよろしくないことを伝えた2日の報道がきっかけとなっている。またアラメダ・リサーチの総資産146億ドルのうち約60億ドル程度がFTT(FTXトークン)とSOL(ソラナ)で構成されていると報じられた。その後、6日に暗号資産取引所「バイナンス」CEOのチャンポン・ジャオ氏が、自身が保有している約2,300万ドルのFTTを売却する予定だとツイート。その結果、FTTの価格は急速に下がり始め、FTXは資金不足と流動性不足に陥り、破産申請をすることとなった。 

FTX破産で広がる波紋

 FTXとアラメダ・リサーチは2020年だけで、それぞれ3億5,000万ドルと10億ドルの利益をあげ、サム・バンクマンフリード氏は大金持ちになった。FTXとアラメダ・リサーチは暗号資産の取引業務にとどまらず、裏付け資産のないトークンFTTを発行し、借り入れ担保など金融資産として利用しながら、企業買収などでビジネスを拡大してきた。

 FTXがFTTというトークンを発行すると、アラメダ・リサーチはこれを買い入れ、FTTを担保にして資金を借りてきた。確保した資金でFTTを追加購入すると、FTTの価格はまた上昇し、アラメダ・リサーチの帳簿上の資産価値も増大する。

 FTTの価格が上昇する際には問題ないが、逆に価格が下がり始めると、一瞬にして市場が崩れるような仕組みだった。また、暗号資産の預金に、年8%などの高い利息を約束していた。これは「テラUSD」でも見られた運用ビジネスだが、暗号資産の価格上昇を前提としたリスクの高いビジネスモデルである。

(つづく)

(後)

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