2024年05月03日( 金 )

救済新法で泉代表の信頼失墜を招いた、維新共闘派の立民幹部

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 立憲民主党の安住淳国対委員長と岡田克也幹事長が、泉健太代表や党全体の信頼失墜を招きかねない言動を始めた。旧統一教会問題に長年取り組んできた「全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)」が「ほとんど役に立たない」とダメ出しした政府の被害者救済法案に賛成する“密室談合決着”を主導したのだ。

全国弁連の川井事務局長
全国弁連の川井事務局長

    全国弁連の川井康雄事務局長は7日の参考人質疑で、法案の実効性の低さを指摘したうえで、献金をする際の「配慮義務」を「禁止行為」にするよう次のように訴えた。

 「配慮義務というだけでは、実際に違反した場合にどうなのかというと、裁判所で不法行為と判断されるかどうかは、正直言って、極めて不透明と言わざるをえない。配慮義務として規定するだけでは、ほとんど役に立たない、意味がないと言わざるをえない。」

安住国対委員長
安住国対委員長

    だが、安住国対委員長は重く受け止めず、「十分な配慮」という文言を加える弥縫策にとどまった。「『十分な』を入れることで(立民の)対応は大きく前進する」と国会内で語り、この追加修正を与党側が受け入れれば、賛成する考えを滲ませたのだ。7日に時事通信が「『十分な配慮』追加修正へ――立民・安住氏、賛成示唆」と銘打って報じたのだが、前日の密談についても紹介していた。

 「茂木敏充幹事長と立民の岡田克也幹事長が6日、東京都内のホテルで会談し、配慮義務に『十分』との表現を追加することで折り合った。」

岡田幹事長
岡田幹事長

    しかし先の川井事務局長は、安住氏絶賛の“切り札的文言”である「十分に」について、「(入っても入らなくても)さほど差は生じない」と一刀両断にした。茂木・岡田の両幹事長の“密室談合決着”に対して異議申立てをするかたちにもなったのだ。

 このような事態は泉代表のイメージダウンを招く恐れもある。「茨城県議選(12月11日投開票)」への応援で茨城県筑西市入りした泉代表は12月2日、現職候補の出陣式で両幹部と正反対の考えを披露していたのだ。

「(被害者救済法案について)『岸田さんがどれだけ譲ったのか』、『茂木さんがどれだけ譲ったのか』ではない。まさに被害当事者の方にとって、その被害が救われる法案なのかがやはり一番です。我々も直接、いわゆる被害二世とお会いをして話を聞いた。そうしたらやはり無理やり献金をさせられたわけではないが、いつの間にかマインドコントロールのなかで自発的にとはいえ、ものすごい額の(献金をする)。土地を売って家も売って果樹園も売って、全部捧げてしまったような状況に陥ってしまう。しかも家族がそれを取り返すことができない。こういう被害にあっている方が多数いるなかで、強制的に献金をさせられるものだけを規制しようとなってしまったら救うことができないです。しかも献金したものの、ごく一部、子どもの養育にかかる部分だけを返せるようにすると言っている今の政府の法案では、被害者を助けることができない。その被害者の方に寄り添って法案の賛否を判断していきたいと思っています。」(泉代表)

泉代表
泉代表

    まさに正論だが、言行不一致となってしまった。「被害者の方に寄り添って法案の賛否を判断していきたい」と泉代表は明言したのに、被害者と同じ立場の全国弁連に寄り添わずにザル法に賛成してしまったからだ。ちなみに信者2世の小川さゆりさん(仮名)を含む被害者も全国弁連と同じく、政府案のさらなる修正を求めていた。安住国対委員長や岡田幹事長のように「『十分な配慮』とすれば合格点」とは考えてはいなかった。「泉代表は嘘をついた」と批判される羽目になったのだ。

 出陣式後の囲み取材で泉代表に、「今の政府案だとまだ実効性に乏しくて賛成しがたいのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「この救済法が現時点では被害者を救済することができないと思っており、修正が必要だ。」

 自民県議が7割(44議席)を占める「保守王国・茨城」だが、「統一地方選の前哨戦」と位置づけられる今回の県議選は、旧統一教会問題による逆風と地元(茨城3区)の葉梨康弘・前法務大臣更迭が重なって、自民党の議席減が懸念されていた。「与党、茨城県議選に注力」と銘打った『讀賣新聞』(11月28日付)が「党幹部は『40議席を割れば、政権運営に影響を与えかねない』と危機感を見せた」と報じたのはこのためだ。

 泉代表に続いてマイクを握った福島伸享(のぶゆき)衆院議員(茨城1区)に話しかけると、「『岸田首相はもうダメだ』という声が自民党関係者からも聞こえてきた。県議選で自民党はかなり議席を減らすだろう」と讀賣新聞と同じ見方をしていた。

 しかし被害者に寄り添わないザル法への賛成で立民は、自民党を県議選敗北に追い込むチャンスを生かすどころか、逆に信頼を失いかねない事態に陥ったのだ。

 救済新法をめぐる与野党攻防の最終盤で立民はなぜ初志貫徹できずに腰砕け状態に陥ったのか。その答えになる党内事情を紹介したのが『朝日新聞』(12月7日付)である。「立憲『共闘』意識 賛成に傾く」という小見出しの後、維新との共闘を重視したことが理由と記されていたのだ。

 「(配慮義務を入れた与党の修正案提示に対して)維新は態度を軟化させた。7日の党会合で対応を決めるが、『ここまでよく勝ち取った』(党幹部)として賛成する方向だ」という維新の方針変更と、立民党内でも賛成論が強くなったことを紹介したうえで、こう続けている。

「被害救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会が修正案の効果に疑問を呈していることなどを背景に、立憲の西村智奈美代表代行は6日の党会合で『被害者の救済に資する行動を取るべきだ』と言い、対峙を続けるべきだとの声もある。それでも立憲は、維新と異なる対応を取るのは得策ではないとの判断に傾いている。立憲内には今国会の『共闘』を成果として、来年の通常国会でも継続させようとの思惑があり、幹部は『注目法案で維新との対決姿勢が異なると、積み上げてきた関係が崩れてしまう』と話す。」

 最後の幹部コメントと茨城での泉代表発言を並べると、立民の驚くべき党内力学(構造的欠陥)が露わになる。トップの考えを軽んじる“維新共闘派”の幹部――恐らく岡田幹事長と安住国対委員長――が実権を握り、法案内容(政策)よりも党利党略を優先する意思決定をしているように見えるからだ。

 被害者救済法案で最後まで与党と対峙すべきではなかったのか。嘘つき呼ばわりされることになった泉代表の信頼失墜はもちろん、立民全体の退潮を招く恐れのある“密室談合決着”は正しかったのか。立民党内外でどんな議論が交わされるのかが注目される。

【ジャーナリスト 横田 一】

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