まさに別格の強さだった。ボクシングWBA・WBC・IBF統一バンタム級王者井上尚弥(大橋ジム)は13日、有明アリーナに同級WBO王者ポール・バトラー(イギリス)を迎え、4団体王座統一戦に臨んだ。
試合は序盤から井上ペースで進む。1R、ガードを固めるバトラーに対し、アップライトに構えた井上は、ガードの隙間を射抜く右ストレートからのコンビネーションで左ボディを打ち抜き、先制打を奪う。2Rも左ジャブから左ボディフック、さらに左フックと上下に打ち分ける連打を披露。手が出ないバトラーをロープ際に追い込み、優勢に試合を進めていく。必死に打ち返すバトラーのパンチに対し、井上はステップとスウェーで楽々とかわしていく。
4R、井上がガードの上から強烈なフックを叩き込むと、耐えるバトラーの身体全体が紅潮していく。6R、完全にリラックスした表情の井上は両手をぶらりと下ろし、バトラーを挑発。かがんで下から見上げてくる井上にバトラーはジャブを放つが、これもヘッドスリップで余裕をもってかわして見せた。
しかし、圧倒されながらもバトラーは粘り続ける。足は止まらず、単発とはいえ反撃のパンチも繰り出してくる。ガードの上から叩き込まれる強打、ボディを襲うフックがついに実を結んだのは、11Rだった。2分7秒、場内に響き渡る破裂音とともにバトラーのボディを井上の右フックが捉える。ロープを背負って足が止まったバトラーに対して井上がパンチを畳み込むと、たまらずバトラーはマットに崩れ落ちた。
ハンドスピード、パンチの強さ、コンビネーション、ステップワーク……すべてにおいて、井上はバトラーを完全に上回っていた。パウンド・フォー・パウンドランキング(体重差がないと仮定して、最強のボクサーは誰かを示すランキング)で1位に挙げられる実力を遺憾なく発揮し、激戦区のバンタム級では1973年以来の統一王者となった。
井上は試合後、2023年以降は1つ上の階級のスーパーバンタム級に挑むことを表明。上の階級に挑むにあたっての課題はディフェンス。敗れたバトラーが指摘したように、バンタム級では強力すぎるパンチを持つ井上はディフェンスに回る場面がほとんどなく、どれだけのディフェンス技術があるかは未知数だ。
ともあれ、史上最高級のチャンピオンが圧倒的な強さで王座統一を成し遂げたという偉業は変わらない。井上が次のステージでどんな戦いを見せるか、23年に新しい楽しみが増えた、といえるだろう。
【深水 央】