【広域連続強盗事件】実行犯を「闇バイト」で募った犯罪集団（前）

犯行の経過と実行犯の姿

    関東を中心に全国で相次いでいる強盗事件は、暴行したうえで現金を奪う荒っぽい手口により、死傷者が出ているという点で酷似している。

　捜査関係者によると、東京都中野区で発生した強盗傷害事件で逮捕された永田陸人容疑者の携帯電話を解析したところ「ルフィ」と名乗る人物から、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」などで、犯行の日時や場所などの指示が出されており、この犯行を指示するメッセージがフィリピン国内から発信されていることを突きとめているという。

　さらに「ルフィ」は、昨年10月に東京都稲城市で発生した強盗傷害事件、12月の東京都中野区で発生した強盗傷害事件、広島市の強盗殺人未遂事件、そして、1月19日の東京都狛江市で90歳の女性が殺害された強盗殺人事件も指示していたことが分かっている。

　これまで逮捕された実行犯たちは、SNSで高額報酬の「闇バイト」に応募・登録して集まっており、お互いまったく知らない者同士による犯行だという点が、一連の事件の特徴のひとつである。

捜査状況

　警察庁は昨年10月以降、8都県で発生した14件の事件が同一グループ、6府県で発生した事件は、その関係が疑われるとしており、このグループの関連が疑われる窃盗や強盗事件で、これまで10代から30代の30人以上を容疑者として逮捕している。

　これら逮捕者が所持していた携帯電話を解析すると、一連の事件に関与した指示役と見られる人物のSNSアカウントが浮上してきた。そして、発信されたメッセージのアカウントから判明した名前が「ルフィ」「キム」「ミツハシ」の3人であることが分かっている。

　この収容所には、過去にLINEや電話で特殊詐欺を行った日本人グループのメンバーが収容されていたが、その容疑者たちは、すでに強制送還されている。しかし、すでに警視庁から特殊詐欺に関わった窃盗などの疑いで逮捕状が取られている渡辺優樹容疑者、今村磨人容疑者と、特定こそできていないが、一連の事件で指示役の1人と思われる実行犯に「ミツハシ」と名乗った人物、その他1人の計4人は、フィリピンのマニラにあるビクタン入管収容所に収監されたままとなっている。「ルフィ」という名前に関しても、捜査の撹乱を狙って複数の人物が同じ名前を使っている可能性も視野に入れ、さらに指示役の特定を急いでいる。

警察庁の動き

　今村磨人容疑者が収監施設のなかから電話を使って特殊詐欺の指示を出している映像と音声が撮影されているため、警察当局は、今村容疑者が、この事件の指示役ではないかと考え、関連を調べている。日本の警察当局はフィリピン政府に対し、すでに逮捕状を取っている渡辺優樹容疑者と今村磨人容疑者の身柄送還のため、引き渡しを要請する手続きを行っており、フィリピンのレムリア司法相は記者会見で、「数日中にも日本側と協議を行う」と明らかにしている。

　さらに警察当局は、これら指示役の身柄を確保したうえで、犯行組織の上層に存在するはずの元締め役にも重点をおいて捜査を行い、事件の解明を進めるとしている。

特殊詐欺の変遷

　この事件の実行犯と同様、「闇バイト」で集められた特殊詐欺グループによる過去の犯行を振り返ってみる。

＜2000年代前半～＞
家のリフォームが必要だと騙す手口の「リフォーム詐欺」

＜2000年代中盤～＞
息子や孫になりすまして騙す手口の「オレオレ詐欺」

＜2010年代頃～＞
ATMなどで現金を振り込ませて騙す手口の「振り込め詐欺」

　この段階までは、実行犯が主犯格と同じ人物のケースが大半であった。

＜2010年代後半頃～＞
SNSの「闇バイト」で受け子・出し子を募り、「闇バイト」で雇われた者が実行犯になる手口の「受け子・出し子型特殊詐欺」

＜2020年代～＞
犯罪集団の元締めが資産状況などを事前にリサーチし、そのターゲットを定めて「闇バイト」で募った者たちに指示を出し、強盗を実行させる「アポ電強盗」

　これらの犯行は市場に出回る高額所得者・高額納税者・資産家・高額預貯金者・不動産所有者・会社経営者・65歳以上の高齢者等々の名簿を入手し、犯罪の元締めがターゲットを決めて、指示役や仲介者を通し、実行犯が犯行におよぶ手口となっている。

　このように「闇バイト」で募った実行犯を使うようになってからは、主犯格を検挙することが少なくなっているため、警察としては徹底的な突き上げ捜査（組織犯罪の捜査法のひとつ。末端から捜査を始め、組織の中枢を追及していく捜査法）に重点をおく必要があるとしている。

（つづく）

【岡本　弘一】